“法人税の最低税率15%以上”で130の国と地域が大枠合意

日本をはじめOECD=経済協力開発機構の加盟国などでつくるグループは、1日に開いた交渉会合で、法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけるため、各国共通の最低税率を15%以上とし、再来年の実施を目指すことで大枠で合意しました。

OECDの加盟国を中心に139の国と地域でつくるグループは、国際的な課税ルールの交渉会合を開き、日本時間の2日未明、声明を発表しました。

それによりますと、グループのうち130の国と地域は、各国が企業誘致などを目的に繰り広げてきた法人税の引き下げ競争に歯止めをかけるため、最低税率を15%以上とすることで大枠で合意しました。

ただ、税率を低くしている国などに配慮して課税の対象となる所得から一部を差し引く措置を設けることにしていて、今後、詳細を検討するとしています。

議論のもう1つの柱だった、音楽や動画のネット配信など国境を越えて事業を展開するグローバル企業に対する、新たな課税のルールを導入することでも合意しました。

具体的には、ルールを適用する対象を、売り上げが200億ユーロ、日本円でおよそ2兆6000億円、売り上げに占める利益の割合=利益率が10%を超える企業とします。

そして、こうした企業が本社や拠点を置いていなくても、サービスを展開している国や地域は、利益の一部に課税ができるようにします。

今回の合意に参加しなかった国も含めて制度の詳細を詰めて、ことし10月までの最終的な合意と、再来年の実施を目指すとしています。

国際的課税ルールめぐる経緯 残された課題も

国際的な課税ルールの議論は、2013年のG7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議で取り上げられたことをきっかけに、本格的に始まりました。

検討の舞台となったのはOECD=経済協力開発機構で、2016年以降は非加盟国なども参加する現在の枠組みで議論が進められてきました。

議論の背景には「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業など国境を越えて事業を展開するグローバル企業が増える中、既存のルールでは適正に課税ができなくなってきたこと、そして、各国が企業の誘致などをねらって競うように法人税率の引き下げや優遇税制の導入を進めてきたことに対する問題意識がありました。

ただ、議論はなかなか進展しませんでした。

巨大IT企業を抱えるアメリカが、トランプ政権のもとで消極的な姿勢を示していたことに加え、低い税率で企業を誘致してきた国や地域も反発してきたからです。

その状況が大きく変わった要因の1つが、アメリカの方針転換です。

4月にはイエレン財務長官が法人税の引き下げ競争をやめるよう呼びかけ、5月には、15%を下限とする国際ルールの導入をOECD加盟国などとの会合で提案したことを明らかにしました。

そして、新型コロナウイルスへの対応で各国の財政状況が悪化する中、財源を確保しようという各国の思惑も、議論を進展させる原動力となりました。

今回の交渉会合では、ことし10月までに制度の詳細を詰めて、最終合意を目指す方針で一致しました。

各国の利害がぶつかり合い、長年にわたって交渉が続けられる中、今回の「大枠合意」は国際的な課税ルールが変革する歴史的転換に向けて前進といえます。

ただ、交渉会合に参加した139の国と地域のうち、今回の大枠合意に加わったのは130にとどまり、合意を見送った国の中には、低い法人税率で企業を誘致してきたハンガリーやアイルランドも含まれています。

また、今回「15%以上」とした法人税の最低税率を、具体的に何%とするのかをめぐっては、参加国の間でなお隔たりがあります。

さらに、税率を低くしている国に配慮して、検討課題として残った例外措置などの制度設計も、これから詰める必要があります。

制度の中身しだいでは、合意が「骨抜き」になりかねないという指摘もあり、実効性のある変革となるかは、なお予断を許しません。

グローバル企業への課税強化でも進展

今回の交渉会合では「グローバル企業への課税強化」でも一定の合意が得られました。

この議論の発端は「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業をはじめ、国境を越えて事業を展開するグローバル企業に対し、現在のルールでは適正に課税できていないという課題があります。

例えば、動画や音楽などのコンテンツをインターネットを通じて国境を越えて提供している企業に対し、現在のルールでは、本社や現地法人といった拠点がある国は課税ができます。

しかし、拠点がない国や地域では、消費者がその企業のサービスを利用して料金を支払っていても、原則として課税ができません。

企業活動の変化に課税の制度が追いついていない、こうした状況を解消するため、拠点の有無にかかわらず、サービスが提供されている国や地域で課税できる仕組みを検討しようというのが、今回の見直しの大きなねらいです。

今回の交渉会合では、対象となる企業の基準について、売り上げが200億ユーロ、日本円でおよそ2兆6000億円、利益率が10%を超える企業とすることで合意しました。

売り上げ全体の10%を超える利益のうち、20%から30%に対し、サービスが提供された国や地域が課税できるとしています。

対象となるのは世界で100社程度とみられ、この基準を単純にあてはめると、日本企業も数社が対象になる可能性がありますが、そうした企業も海外で得られた利益は多くないため、日本企業への影響は限定的とみられています。

税収への効果は

OECD=経済協力開発機構の推計によりますと、法人税の最低税率を15%とした場合、毎年およそ1500億ドル、日本円で16兆円余りの税収が新たに得られるとしています。

また、グローバル企業に対する新たな課税ルールが適用された場合、サービスを展開している国や地域で、毎年合計1000億ドル、日本円で11兆円を超える収益を対象に課税できるようになるとしています。

米 イエレン財務長官「歴史的な日」

今回の大枠合意について、アメリカのイエレン財務長官は声明を発表し「経済外交における歴史的な日となった。法人税率の引き下げ競争は、国のインフラや教育、新型コロナウイルス対策といった重要分野にあてる資金を奪ってきた。今回の合意は、税率を下げる『底辺を目指す競争』の終わりに一歩近づいたことを示している」と意義を強調しました。

国際的な課税ルールの議論は、巨大IT企業などを多く抱えるアメリカが、政権交代後、それまでの消極的な姿勢を転換したことがきっかけとなって大きな転機を迎え、イエレン財務長官は、法人税の引き下げ競争を止めるための最低税率の設定を各国に呼びかけていました。

仏 ルメール経済相「巨大ITは公正に税負担を」

フランスのルメール経済相はビデオによる声明を出し「21世紀の新しい税制構築への道をひらく革新的な合意だ。巨大IT企業は公正に税を負担しなければならず、税率引き下げ競争はこれで終わりにしたい」と述べました。

フランスは大手IT企業を対象にした独自の課税制度の導入を決めていますが、国際的なルールが決まれば廃止するとしていて、今回の合意が実現すれば、50億から100億ユーロ、日本円で6500億円から1兆3000億円の税収の増加をもたらすと試算しています。

中国も支持「途上国の利益を十分に考慮を」

今回の大枠合意について、中国外務省の汪文斌報道官は2日の記者会見で「全面的で包括的な合意に至ったことを支持する。世界経済の回復に新たな勢いを注ぐためにも、多国間主義を守っていきたい」と述べ、支持する考えを示しました。

さらに、最終的な合意に向けた今後の調整について「途上国の利益を十分に考慮し、実務的かつ建設的な態度で各方面の懸念に対処することを望む」と述べました。

アイルランドは合意に加わらず

法人税率を12.5%という低い水準にしているアイルランドは、今回の大枠合意には加わりませんでした。

これについてドノフー財務相は声明を出し「アイルランドは『15%以上』という最低税率に関する合意には加われなかった」として、最低税率の水準を理由に留保を表明したと明らかにしました。

一方、国際的な課税ルールの見直しは支持するとしていて、ドノフー財務相は「議論には引き続き参加し、アイルランドが合意できる結果を見つけることを目指している。歴史的な合意に達するための役割を果たしていく」としています。

OECD事務総長は評価

OECDのコーマン事務総長は、今回の大枠合意について「何年にもわたる難航した交渉の末にこぎつけた、この歴史的なパッケージにより、巨大多国籍企業が世界のどこでも、その利益に見合う納税を行うことになる。このパッケージは税をめぐる競争に対して国際的に合意された制約を設けるものであり、発展途上国を含むさまざまな国や地域の利益を調整したものだ」と評価しました。

そのうえで「予定どおりことし後半に交渉に参加する全加盟国や地域が最終合意に達することは、われわれすべての利益になる」として最終合意に期待を示しました。