WEB特集

新型コロナ患者の看取り 模索する病院

一緒に普通に暮らしていた家族が新型コロナウイルスに感染し、容体が悪化。しかし、隔離病棟のため会うこともできず、亡くなってしまう。各地で相次ぐ現実です。
ウイルスとの闘いが長期化する中、家族の悲しみを和らげようと、病院は「看取り(みとり)」のあり方を模索しています。

(岡山放送局記者 平間一彰)

新型コロナ患者の死 難しい看取り

新型コロナウイルスで亡くなった患者は、感染防止対策のため、「納体袋」と呼ばれる特殊な袋で二重に包まれ、火葬されるのが一般的です。
遺体を入れるため、周囲にぐるりとチャックがついた灰色の「納体袋」。

家族は顔を見たり、最期の別れを言ったりすることができないまま、葬儀会社の車で運ばれて火葬されます。

葬儀や告別式もできないケースがほとんどです。

感染者の急増でひっ迫する現場

ことし5月、緊急事態宣言が出された岡山県では、感染状況を示す指標がすべて最も深刻な「ステージIV」となり、病床使用率は一時およそ85%に達しました。

5月の1か月間に発表された死者は62人で、累計数の3分の2を占めます。亡くなった人の発表がなかったのは、1日だけ。

ある病院の医師は、「患者の受け入れや治療に優先順位をつけざるを得ない」と苦悩を明かしてくれました。

「看取り」ができず悩む医師や看護師

患者の死亡が相次いだ岡山県内の医療機関。

医師や看護師は、家族による看取りができないことに悩んでいました。
石井雅子さん
岡山市にある岡山済生会総合病院のコロナ病棟で看護師長を務める石井雅子さんも、その1人です。

新型コロナ以外の病気では、患者が最期を迎える前に家族に面会してもらうことができます。しかし、コロナ病棟では感染対策の観点から難しく、家族のショックも計り知れないといいます。
石井雅子さん
「家族が最期の看取りすらできないのが、看護師にとってもつらいです」

84歳の女性 壮絶な23日間

石井さんは、患者の看取りをめぐって、難しい対応を迫られたケースを話してくれました。

患者は84歳の女性です。
女性は4月18日、のどに物が詰まったような違和感を訴え、救急車で病院に運ばれてきました。

PCR検査の結果、新型コロナに感染していることが判明。女性が利用していたデイサービスで感染したとみられています。

女性は変異株の感染が確認されましたが、入院当初は比較的元気でした。発熱とのどに違和感があった程度で、1人で歩くことができました。
しかし、5月に入ってから容体が急変。
レントゲンに写った肺は、全体が白くなっていました。

肺炎が進んでいたのです。
体内に酸素をどの程度取り込めているかを示す「酸素飽和度」や体温は乱高下。長引く入院や薬の影響で、会話やふるまいに一時的な混乱が生じる「せん妄」と呼ばれる症状も見られるようになりました。

次女は初めての面会で涙

5月の大型連休中、同居する次女が初めて面会に訪れました。次女自身も感染し、自宅療養していたため、母親の顔を見るのはおよそ2週間ぶりです。

タブレットを使った面会で画面に映し出されたのは、次女が最後に見た母親とは大きくかけ離れた姿でした。
意識がもうろうとした母親に、次女は「お母さん、頑張ってね、頑張ってね!絶対、一緒に帰ろうね!」と必死に声をかけていたといいます。

衰弱した母親の姿にショックを受けた次女は、帰り際、石井さんに「もし、母親が亡くなってしまったら、会えますか?」と尋ねました。
石井雅子さん
「『亡くなられてからは会えないですよ』と伝えたときはショックを受けた様子でした。特に、お母さんと一緒に住んでお世話をされていたので、最後にそういう別れ方をしなければいけないのかと涙を流していました」

大好きなお母さんに会わせたい

泣きながら病院を後にした次女の姿を見て、石井さんは「大好きなお母さんになんとか会わせたい」と考えるようになりました。
そこで考えたのが、女性を隔離の必要がない一般病棟に移す方法。実現には、厚生労働省が示す隔離解除の4つの基準について検討しなければなりません。
1 発症から20日が経過していること
2 解熱から72時間が経過していること
3 呼吸器症状の改善
4 PCR検査も適宜考慮
1つめの「発症から20日経過」は必ず満たさなければなりませんが、それ以外については、医師や専門家の間でも解釈がわかれています。

石井さんは、医師を通じて、専門医でつくる院内の感染防御チームや岡山市保健所にも意見を求めました。

女性の容体は悪化の一途たどる

女性が隔離解除となるのは、最も早くて発症から20日が経過した5月8日。

ところが、その前日の5月7日、女性の容体はさらに悪化します。肺炎が進行し、血圧も不安定となったのです。

カルテには「終末期のようにみえる」という記述が残されていました。
家族による面会が間に合うのか、焦りを感じる石井さん。しかし、母親に会えないことを承知のうえで、急変に備えて毎日、夜遅くまで病院の待合室で待機する次女に、一般病棟に移そうとしていることを伝えられずにいました。

実現できるか確信が持てなかったからです。

家族に手を握られながら“旅立ち”

石井さんが、保健所から女性の隔離解除を認める連絡を受けたのは5月10日の午後5時前でした。入院から23日がたっていました。

石井さんは急いで次女に連絡するとともに、女性を一般病棟に移す準備に取りかかりました。

女性が一般病棟に移って、次女が面会できたのは午後7時ごろ。
呼吸が弱くなり、いつ亡くなってもおかしくない状態でした。
次女は病床で意識のない母親の手を握りながら「お母さん、いままでありがとう」と声をかけ続けていたといいます。
そして、面会からおよそ3時間後、次女に見送られ、息を引き取りました。

大好きな母を送り出せた

女性が亡くなって1週間後、石井さんのもとに次女から手紙が届きました。

手紙には「家族葬で大好きな母を送ることができ、心満たされる思いでした」と感謝の気持ちがつづられていました。
石井さんは、女性が次女の手を握ったまま旅立つことができてよかったと思う一方で、「新型コロナ患者の最期の看取り」という重い課題を突きつけられたと感じています。
石井雅子さん
石井雅子さん
「皆さんに元気になって帰っていただくのが私たちの目標ですが、看取りの段階が見えたときにどうすればいいのかをきちんと話し合っておくことで、患者さんや家族にきちんとしたケアを提供できるチームでありたいと思います」

新型コロナ患者の看取りをどう実現させるか

医療現場では「ギアチェンジ」という言葉があります。

病気との闘いに勝てないとわかったとき、積極的な治療を続けて肉体的・精神的につらい思いをするよりも、残された大切な時間を家族と過ごしたり、看取りにあてたりすることを意味します。

医療関係者の間では、新型コロナの患者も「ギアチェンジ」を余儀なくされたときは、人間らしい最期の看取りの時間が必要だという声が上がっています。

新型コロナ患者の看取りをめぐっては、各病院が模索を続けています。岡山県内では家族に防護服を着て面会してもらっている病院もあります。

しかし、感染のリスクがあり、頻繁には面会できません。

別の病院では半透明の納体袋を使って、少なくとも顔を見てもらおうという試みも始まっています。
新型コロナ患者の看取りをどう実現させるのか。

医療現場だけに難しい対応を委ねるのではなく、国や行政、それに専門家など含め社会全体で検討する必要があると感じました。
岡山放送局記者
平間 一彰
新型コロナと闘う医療現場の最前線を取材。
ICU=集中治療室やクラスターが起きた病院の看護師に密着。

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