アメリカ産牛肉が異例の高値に 今後は?

アメリカ産牛肉が異例の高値に 今後は?
コロナ禍で外食が減り、ちょっとぜいたくしておうちでお肉を食べる機会が増えたという人も多いのではないでしょうか。でも価格はできるだけ安く抑えたい。そんな時の強い味方が輸入牛肉…のはずですが、アメリカ産牛肉の価格が急上昇しています。その背景を取材すると、ここにも新型コロナの影響がありました。しかも、さらなる価格上昇の可能性を指摘する専門家も。身近な牛肉の値上がり、その行方は。(おはよう日本 岡本潤)

スーパーの小売価格に異変が…

東京・江東区のスーパーをのぞいてみると、精肉コーナーにずらりとならぶアメリカ産牛肉。夕方、多くの人たちが品定めをしながら次々と買い物かごに入れていきます。

国産と比べて安価で手に取りやすいのが特徴のアメリカ産牛肉ですが、最近小売価格に異変が起きています。このスーパーでは6月に入って100グラムあたり20円から100円、率にして最大で約20%の値上げに踏み切りました。

お客さんからは、「最近ちょっと高い」とか「このままだとアメリカ産の牛肉を買わなくなるかも」といった厳しい声が聞かれました。

どうして値上げしたのか。

担当者に聞くと、仕入れ価格が急上昇しているとのこと。4月に比べて40%近く値上がりしている部位もあるそうです。それでも、小売価格の値上げは抑えているそうですが、今後の行方に戦々恐々としています。
コモディイイダ商品部 精肉チームリーダー 大塩隆一さん
「かつて経験のない仕入れ価格の上昇が利益を圧迫していますので、お客様には申し訳ないですが、値上げはやむを得ない部分もあります。価格の動向に関しては不透明な部分も多く、今後の仕入れが非常に怖いです」

背景に“経済回復”

仕入れ価格の急上昇の背景には、新型コロナで落ち込んだ海外経済の回復があるといいます。

農林水産省によると、ワクチン接種が進んでいるアメリカでは、経済対策の効果もあって牛肉の需要が増加。さらに中国などからの引き合いも強く、4月以降、アメリカ市場での牛肉の取引価格が上昇しています。

こうした影響が日本国内の価格にも波及。
5月のアメリカ産牛肉の日本国内での卸売価格は、1キロあたり、▽冷凍のバラ肉で1087円と、去年の同じ月に比べて67%、▽冷凍の肩ロースも1266円と10%高くなっています。(農畜産業振興機構調べ)

飲食店の憂うつ

この状況を不安な思いで見守っているのが飲食店です。

江東区にあるステーキやハンバーグが人気の店。
ステーキにはアメリカ産牛肉を使用していて、ランチタイムは1000円あまりで提供しています。

しかし、こちらの店舗でも取引先の業者から、7月の仕入れ価格を1キロあたり200円値上げすると連絡があったそうです。

コロナ禍で酒の提供ができず厳しい経営が続く中、デリバリーやテイクアウトを始めるなどしてなんとか売り上げを維持してきました。
取材した6月21日は東京を対象にした緊急事態宣言が解除されてまん延防止等重点措置に移行し、酒の提供ができるようになった日。さっそくビールとステーキを楽しむ人の姿が見られました。

これから反転攻勢!そう意気込んでいたやさきの事態。店では、メニューの値上げをするかどうか悩んだといいますが、ちょっとした値上げもお客さんにとっては大きなマイナス。

お客さんに再び来店してもらうことを最優先に、当面、価格を据え置いて様子を見ることを決めました。

しかし、飲食店全般で牛肉の需要がより高まっていくことも予想され、さらに価格が上昇するのではないかと懸念しているということです。
「肉の村山 亀戸店」運営「スリー リンクス プロジェクト」木村直樹営業部長
「われわれのような肉料理専門店以外でも飲食店では肉を扱うので、今後需要が高まってさらに仕入れ価格が上がってくれば、今までの値段でお客様に商品を提供できるか今後は分からなくなってきます」

今後の見通しは

アメリカ産牛肉の価格について、世界の食料事情に詳しい専門家は厳しい見方を示しました。
資源・食糧問題研究所 柴田明夫代表
「日本でもワクチン接種が進んで経済活動が再開されていく中で、牛肉の需要は今後ますます高まってくると見られる。こうした中で輸入牛肉の争奪戦が繰り広げられ、価格がさらに上がってくるのではないか」
さらに柴田さんは、今回の事態を機に、日本経済の構造をいま一度見直すべきだと警鐘を鳴らしています。
柴田明夫代表
「日本はさまざまな資源を海外からの輸入に依存しているので、今回のように輸入価格が上がって争奪戦になるという状況はほかのものでも起こっている。日本経済の不安定さがコロナ禍で浮き彫りになったとも言え、国内の資源のあり方を見つめ直す時期に来ている」
以前、コロナ禍による木材価格の高騰“ウッドショック”を取材しましたが、今回のいわば“ミートショック”も背景は輸入価格の上昇。

どちらも構造は同じで、日本経済が海外の状況に揺さぶられる事態があちこちで起きていることを実感しています。

私自身どうしても安いものに手を伸ばしがちですが、価格上昇の背景を理解し、適正な価格を見極めた上で、国産のものを買い支えていくことも必要になると感じました。
おはよう日本
岡本 潤
平成22年入局
岐阜局、鳥取局、広島局などを経て
現在、おはよう日本の水曜日を担当