中外製薬 新型コロナ治療薬 厚生労働省に承認申請

中外製薬はアメリカで緊急使用許可が出ている開発中の新型コロナウイルスの治療薬について厚生労働省に承認を求める申請を行いました。

承認申請が行われたのは「カシリビマブ」と「イムデビマブ」と呼ばれる2種類の医薬品です。同時に投与することで新型コロナウイルスの働きを抑える中和抗体を作り出す「抗体カクテル療法」という治療法を採用しています。

中外製薬によりますと、海外の治験では入院や死亡のリスクをおよそ70%減らす効果が確認されたということです。

去年11月には入院をしていない患者への治療薬としてアメリカのFDA=食品医薬品局から緊急使用の許可を取得し、29日、厚生労働省にも承認申請を行ったということです。

変異した新型コロナウイルスへの効果も期待できるとされ、承認されればことし国内に供給する分を日本政府が確保することで合意しているということです。

中外製薬は「変異ウイルスの感染拡大など流行が長期化して新たな治療の選択肢が必要とされている。1日も早く患者に届けられるよう規制当局と緊密に協働していく」などとコメントしています。

トランプ前大統領の入院時に使用

中外製薬が承認申請した「カシリビマブ」と「イムデビマブ」は、抗体医薬と呼ばれるタイプの薬です。

人工的に作った2種類の抗体を同時に投与するため「抗体カクテル療法」と呼ばれていて、抗体がウイルスの表面にあって細胞に感染する際の足がかりとなる「スパイクたんぱく質」に結合することで、ウイルスが細胞に侵入して増殖するのを防ぎます。

異なる抗体を投与することで変異ウイルスにも対応できると期待されています。

アメリカでは去年11月、症状が悪化するリスクの高い患者に一定の効果がみられるとして、FDA=食品医薬品局が緊急の使用許可を出しています。

緊急の使用許可が出される前の去年10月には、アメリカのトランプ前大統領が新型コロナウイルスに感染して入院した際にも使われました。

国内で承認の治療薬

日本国内でこれまでに新型コロナウイルスの治療薬として承認されているのは3つの薬です。

レムデシビル

このうち、新型コロナウイルスの治療薬として最も早く、去年5月に特例承認されたのが、抗ウイルス薬の「レムデシビル」です。

もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発が進められた薬です。

点滴で投与され、当初の対象となる患者は原則、人工呼吸器や人工心肺装置=ECMOをつけている重症患者などに限定されていましたが、ことし1月からは肺炎になった中等症の患者にも投与が認められています。

デキサメタゾン

続いて、去年7月に厚生労働省が治療薬として推奨したのが、もともとは重度の肺炎やリウマチなどの治療に使われてきた炎症やアレルギーを抑える作用のあるステロイド剤「デキサメタゾン」です。

この薬は、イギリスで行われた臨床試験で重症者の死亡を減らす効果が確認されました。

国内では、抗ウイルス薬のレムデシビルとデキサメタゾンを併用する治療が広く行われていて、去年春の感染の第1波と比べて、その後、致死率が大きく下がった要因の1つになったと考えられています。

バリシチニブ

さらに、ことし4月には関節リウマチなどの薬で、炎症を抑える効果がある薬「バリシチニブ」が治療薬として承認されました。

この薬は錠剤で、酸素投与が必要な中等症以上の入院患者に対して、レムデシビルと併用して服用することが条件となっています。

国際的な臨床試験で「バリシチニブ」と「レムデシビル」を併用すると「レムデシビル」単独と比べて患者が平均で1日早く回復したということです。

専門家「悪化防止を期待」

新型コロナウイルスの治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は、承認申請が行われた治療薬について「国内で承認されている新型コロナウイルスの治療薬は他の病気の治療薬として開発された薬だが、この薬は初めから新型コロナをターゲットに開発され、これまでの臨床試験でもよい結果が出てきている。軽症患者の治療を念頭に置いた初めての薬で、自宅や宿泊施設での待機を余儀なくされて、いつの間にか悪化してしまうケースを防ぐことが期待できる」と話しています。

その一方で「人工的に抗体を作る技術はコストがかかり、供給量が限定されると思われるので、承認されても実際には重症化のリスクが高い患者への投与が優先されるのではないか」と話しています。