“もう少し遅かったらやばかった” アレルギーとワクチン接種

“もう少し遅かったらやばかった” アレルギーとワクチン接種
「アナフィラキシーとか…副反応とっても怖いです」
「卵含めた諸々アレルギーあるけどワクチン打って大丈夫なのか…」
SNS上には、花粉症や食品などアレルギーがある人たちの不安の声が相次いで投稿されています。

アレルギーがある人は、新型コロナウイルスのワクチンを接種しても大丈夫なの?

万が一、接種後に重いアレルギー症状、アナフィラキシーが起きたらどう対処したらいいのか。その疑問、調べました。
(ネットワーク報道部記者 目見田健 斉藤直哉 國仲真一郎)

アレルギーある「私の副反応まとめ」

「私のコロナワクチン接種 副反応まとめ」

SNS上にこんな投稿をした人に話を聞きました。

花粉症とハウスダスト、それにキュウリなどウリ科の野菜や果物の食物アレルギーがあるという30代の女性です。
宮城県に住む理学療法士の女性は、ファイザーのワクチン接種を2回終えたといいます。

2回目接種の翌日から…

詳しく聞くと5月、1回目の接種後は、注射した部分に筋肉の痛みを感じたといいます。

そして6月、2回目の接種後、不思議と痛みは感じませんでした。

ところが翌日、朝から強い眠気とけん怠感に襲われます。
女性
「体がだるく、夕方までほとんど動けませんでした」
3日目にだるさが消え、注射した部分に感じた筋肉痛のような痛みも消えていったといいます。

接種前に主治医に相談し、痛み止めの薬や解熱剤を処方してもらいましたが、使うことはありませんでした。
女性
「アレルギーを持っていると、副反応が強く出てしまうのではないかと不安でした。ワクチン接種について調べましたが、ネット上には軽い症状の人は少ないように感じ、怖いなとも思っていました。特に2回目の接種後は、副反応が出る傾向にあると聞いたのですが実際は思ったより軽い症状でほっとしました」

アレルギーあると副反応は出やすいの?

アレルギーがあると副反応は出やすくなるのでしょうか?

感染症に詳しい国際医療福祉大学の松本哲哉教授に聞きました。
国際医療福祉大学 松本哲哉教授
「大学病院でワクチン接種をした人を見てもアレルギーがあると接種に不安を感じる人が多い印象です。ただ、新型コロナウイルスのワクチンの成分に関係のない食べ物や薬などにアレルギーがあったとしても接種に支障はありません。
アレルギーの専門学会は、次のようなアレルギーがある人でも接種は可能だとしています。
▽ぜんそく、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、
▽ワクチンや医薬品(注射)以外の特定の物質、例えば、食品、ペット、ハチ毒、環境(ハウスダスト、ダニ、カビ、花粉など)、ゴム製品など
そして、松本教授が勤務する大学病院での接種状況を説明してくれました。

これまでにのべ5000回ほど、およそ3000人に接種しましたが、かゆみやじんましんといったアレルギー症状が疑われるケースは10人程度だといいます。

また、20代の女性がアナフィラキシーを発症し、全身に発疹や呼吸困難の症状が出ましたが、その場で治療を行い、その日のうちに帰宅できたということです。

厚生労働省によると、6月13日までにファイザーのワクチンは国際的な評価指標で、アナフィラキシーに該当したのは238件で、およそ9万7700回に1件の割合でした。

モデルナのワクチンでは6月13日までに該当する症状は報告されていないということです。
松本教授
「海外のワクチン接種の情報を踏まえて総合的に判断しても、新型コロナのワクチンでアナフィラキシーが起きるのはまれで、万が一、ワクチン接種でアナフィラキシーが起きたとしても、ほとんどが30分以内で症状が現れます。

過去にアナフィラキシーなど重いアレルギー症状を起こしたことがある人は念のため接種後30分は会場で経過観察をしてください。それ以外の人でも15分は接種会場にとどまって様子を見ていただきたいです。

アナフィラキシーが起きたら迅速な処置が必要になりますが、接種会場では適切に対処できる体制を整えたうえで実施しています。迅速に対処すれば命に別状ありませんが、自分でアナフィラキシーかどうかを判断することは難しいので、接種会場で少しでも調子が悪いと感じたらすぐに申し出てください」

処方された薬が…

思わぬことからアナフィラキシーの初期対応が遅れ、危険を感じたという人がいます。

岐阜県の24歳の女性です。
これまで、インフルエンザや子宮けいがんのワクチンを接種したあと、湿疹や発熱など軽い副反応が起きたことがあったという女性。

5月末、勤務する福祉施設で新型コロナウイルスのワクチン接種を受けました。

接種前、主治医に接種の相談をしたうえで、じんましんなどの症状を抑える薬を処方してもらったといいます。

「もう少し遅かったら やばかった」

医師の指示で薬を服用し、接種に臨んだ女性。

接種からおよそ15分後、のどにかゆみを感じ始めると、次第にせきが止まらなくなり、さらに、呼吸困難の状態に陥ったといいます。

その後、車で病院に連れて行ってもらった女性は、アナフィラキシーと診断されました。

職場での接種は、地元のクリニックの医師が訪問して行われたといいます。

医師がアナフィラキシー用の医薬品などを用意していましたが、女性の症状が悪化したのは接種からおよそ30分後。

医師が福祉施設を出た後でした。

女性が当時の状況をSNS上に投稿していました。
「のどのかゆみからせきが止まらなくなって、呼吸がしにくくなって、受診したら、アナフィラキシーだった。もう少し遅かったらやばかったみたい」

接種前の抗ヒスタミン薬 控えて

このケースについて国際医療福祉大学の松本教授に聞くと、女性のように接種前にアレルギー症状を抑えるための抗ヒスタミン薬を服用するのは好ましくないといいます。
松本教授
「アレルギーの専門学会ではワクチン接種前にアレルギー症状を抑える薬を服用することはアナフィラキシーの初期症状を不明瞭にしてしまうため好ましくないとしています。この女性の場合は事前に内服した薬が症状の発現を鈍らせて早期発見を遅らせた可能性もあると思います」
そして、こう強調しました。
松本教授
「この女性のように1回目の接種後にアナフィラキシーを起こした人には、2回目の接種はしないでください」

意外なきっかけ? アナフィラキシー再び

実はこの女性、接種から2日後、再びアナフィラキシーが起きたといいます。

きっかけは意外なものでした。

自宅で好物のプリンやシュークリームなどを食べたところ、再び、のどのかゆみとせき、それに呼吸困難に襲われたというのです。
女性は救急搬送され、6日間入院しました。

なぜまたアナフィラキシーが起きてしまったのか。

この女性は3歳くらいまでは、卵を食べるとアレルギー症状が出ていたといいます。

小学生になった頃には症状が出なくなり、今は日常的に卵を口にしていました。

診断した医師は、ワクチン接種が原因かどうかは判断できないとしたうえで、何らかの原因で体が敏感になり、卵に反応してアレルギー症状が出たのではないかと説明。

ただ、極めて特異なケースだと伝えられたといいます。
女性
「大人になってから食物アレルギーは出ていなかったので思ってもいませんでした」

アレルギーは再発するの?専門家は

ワクチンを接種したあと、アレルギーが再発することはあり得るのか。

再び松本教授に聞きました。
松本教授
「この女性のケースはワクチンが原因かは判断できませんが、アレルギーは過敏な状況であれば、通常は起きにくい弱い刺激でも起こることがあるので、このような事例もあり得るとは思います。ワクチンの成分と関係がない食べ物や薬のアレルギーがある人でも接種に支障はありませんが、わざわざリスクのあるような食べ物をワクチン接種の時期の近くに食べるのは控えたほうが望ましいと思います」
一方、新型コロナウイルスの研究者や患者の診療にあたる医師らと、ワクチンの効果や副反応などの最新情報を提供するインターネットのサイトの「CoV-Navi(こびナビ)」の運営にあたる木下喬弘医師は、こう指摘しています。
木下喬弘医師
「新型コロナワクチンの接種が原因で他のアレルギーが悪化するというメカニズムは知られていません。同じ食物を摂取してもアレルギーが出るときもあれば出ないときもあります。たまたまワクチンの後にアレルギーが出てしまった可能性もありそうですが、確実なことをいうのは難しいです」
そして、次のように説明しました。

木下医師らはアメリカのCDC=疾病対策センターの情報を元に
▽ワクチン接種が可能な人
▽注意が必要な人
▽接種してはいけない人
の3つに分類しています。
ワクチンを接種してはいけない人として
▽新型コロナウイルスの1回目のワクチン接種で、アナフィラキシーなど重いアレルギー反応が出た人、
また、▽新型コロナのワクチンに含まれるPEG=ポリエチレングリコールという物質で即時型のアレルギー反応があった人を挙げています。
また、注意が必要なのは
▽新型コロナウイルス以外のワクチンや注射薬で、即時性のアレルギー反応があった人と、
▽急性腎不全や急性肝炎など中等度から重度の急性期疾患のある人としています。

注意が必要な人は、接種するかどうかを事前に専門医に相談するほか、接種した場合でも、接種後30分間の経過観察が必要だとしています。
木下医師はこの女性は3つの分類でいう「注意が必要な人(黄色)」に当てはまるとしたうえで、今回の事例とワクチン接種について、こう強調しました。
木下医師
「いちばん大切なのは、今回のワクチンは卵などにアレルギーがある方に特別危険というわけではないことです。たとえアナフィラキシーが起きたとしてもすぐに対応すればよくなるので心配な人は接種のあと、接種会場で30分ほど様子を見てほしいです」
「ワクチン接種について必要な情報は、メリットがデメリットを上回るかということです。接種のメリットはおよそ95%の発症を抑える効果が確認されていること。感染すると、重症化することもあるうえ、命を落とすこともありますが、ワクチンを打てば、その可能性を劇的に下げることができます。接種は圧倒的にメリットが大きいと思います」
本格的に始まった新型コロナウイルスのワクチン接種。

アレルギーがある人にとっては不安を感じるかもしれませんが、必要以上に恐れず、ワクチンの効果とリスクをよく理解したうえで、納得して接種を受けたいと思いました。