社会

認知症高齢者が所有の住宅 220万戸余か 売却困難なケースも

認知症の高齢者が所有する住宅が全国で220万戸余りに上り、すべての住宅のおよそ30戸に1戸にあたるという推計を、民間のシンクタンクがまとめました。中には、新型コロナウイルスの影響で子どもが会えないうちに親の認知症が進行して住宅の売却が難しくなるケースも出ています。
第一生命経済研究所は、国がまとめた認知症や住宅に関するデータをもとに、認知症の高齢者が所有する住宅がどのくらいあるのか、初めての推計をまとめました。

それによりますと、ことしの時点で、認知症の高齢者が所有する住宅は、国内すべての住宅のおよそ30戸に1戸にあたる221万戸に上るということです。

社会の高齢化にともない、こうした住宅はさらに増えるとみられ、今回の推計では、2040年には280万戸に増加するとしています。
認知症の高齢者の住宅をめぐっては、所有者が介護施設に入るなどして空き家になったあとも、所有者の判断能力が十分でないとして、売却が難しくなるケースも出ています。

とくに、去年からことしにかけては、新型コロナウイルスの影響で子どもが会えないうちに、親の認知症が進行してしまっているケースもあるということです。

推計を行った第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミストは「みずからの意思での売却が難しくなってしまう認知症の高齢者の住宅は、いわば『空き家予備軍』とも言えます。すでに膨大な数に上っていますが、ますます増えると予想され、認知症になる前からの事前の対策が重要になってきます」と話しています。

母の認知症が進行 実家売却が中断

去年からことしにかけては、新型コロナウイルスの影響で遠方に住む親と会えない間に親の認知症が進行し、実家の売却手続きが中断してしまうケースも出てきています。

広島市出身でアメリカで生活している河原美加さん(58)もその1人です。

河原さんの82歳の母親は、広島市内のマンションの部屋を所有し、1人で暮らしていましたが、おととし、転倒してけがをしたことなどをきっかけに介護施設で暮らすことになりました。
河原さんは、同じく広島県外で暮らしている弟とともに、不動産会社に相談して、介護費用を賄うために、空き家となった部屋を売却するための手続きを進めていました。

ところが、その間に新型コロナウイルスの感染が拡大し、介護施設で暮らす母親としばらく会うことができなくなりました。

去年12月にオンラインで面談したとき、母親は以前のような会話ができなくなっていたといいます。
当時を振り返って河原さんは「私が思っていた母とはずいぶん違っていて、坂をゴロゴロ転がるような感じで状態が悪くなっているような気がしました」と話しています。

その後、ことし4月に母親は認知症と診断されました。

そのため、所有者である母親の意思が確認できないとして、マンションの部屋の売却手続きは中断してしまっているということです。
今も、この部屋は母親が暮らしていた2年前と同じ状態で鍋や食器が残されたままになっています。

整理を進める必要がありますが、新型コロナの影響で、それも中断したままになっています。
美加さんは「母が1人で判断できない状況まできているっていうのは、やっぱりショックでした。母が本当はこうしてほしいという思いがあるかもしれないのに、それが分からないのもつらいです。コロナのことも認知症のことも、こういうことが起こるとは思わず、もっと早くから行動しておけばよかったと思います」と話していました。
河原さんの相談を受けている広島市の椿不動産の藤本律夫社長は「当初、お母さんの判断を前提に手続きを進めていたのですが、コロナ禍で会えない間にどうも様子がおかしいとなり、ご自身での契約は無理だということになりました」と話しています。

この不動産会社によりますと、所有者の認知症によって手続きが滞るケースは複数あるということです。

藤本社長は「コロナの影響で親に会いに行けない間に、空き家の売却に影響が出かねないケースが増えています」と話していました。

犯罪被害や火災などのリスクも

所有者が認知症となり、空き家の状態が続く住宅は、空き巣などの犯罪被害や火災などのリスクがあります。

首都圏に住む60代の男性は、同じ県内にある妻の実家が3年前から空き家になっています。この家に住んでいた80代の義理の母親が認知症になり、介護施設に入居しているためです。

男性は空き家となっている妻の実家を管理するため、定期的に訪れていますが、去年4月、窓ガラスが割られているのを見つけました。
家の中は、タンスの引き出しが開けられるなど物色された様子があり、現金が盗まれたとみられ、警察に被害届を出したということです。

男性は「被害に気付いたときはひどいことをしてくれたな、困ったなという気持ちでした。周辺も空き家が多く、静かなところなので気付かれにくく狙われたのかもしれません」と話していました。

親が元気なうちに話し合って

所有者が認知症になり、判断能力が不十分とされると本人の意思にもとづく住宅の売却などができなくなり、「成年後見制度」の利用が必要となります。

申し立てをすると、法律や福祉の専門家、それに親族などが家庭裁判所から「成年後見人」などに選任されます。「成年後見人」は本人の財産の管理などを行い、住宅の売買契約も代理で行うことができます。

しかし、手続きが煩雑だったり、継続して費用がかかったりすることから、最高裁判所によりますと、利用者の数は去年の時点でおよそ23万人にとどまっています。

この問題に詳しい司法書士の杉谷範子さんによりますと、住宅の所有者が認知症になっても、成年後見制度の利用に至らず、空き家のままになってしまうケースが多いということです。
杉谷さんは「後見人をつければ売れる住宅でも、使い勝手が悪いことから、成年後見制度を利用せずに、空き家のままになるケースが多くあります。空き家のままだと、親が頑張って作った財産を介護費用に活用できないし、地域にもよくない影響を与えるので、空き家にさせないためにも、親が元気なうちに話し合って対策をとってほしいです」と話しています。

家族信託や任意後見制度の活用を

住宅を所有する親が認知症になった場合に備え、事前に備えておく動きも広がっています。

千葉市に住む大関雅子さん(57)は、去年4月、80代の父親が1人で暮らす実家について親子で話し合い、父親の判断能力が低下した場合に備えて対策を取ることにしました。
司法書士と相談して、「家族信託」と「任意後見制度」を利用することにしました。

「家族信託」は、健康なうちに財産の管理を家族に託す制度で、成年後見制度と比べて、信託を受けた人が不動産などの財産を幅広く運用できるのが特徴です。

また、「任意後見制度」は、同じく判断能力が低下した場合に備えて財産を管理してくれる「任意後見人」を、あらかじめ選んでおく制度です。判断能力が低下したあとで家庭裁判所から選ばれる成年後見人とは異なり、任意後見人は本人の意思で選べます。
手続きを終えた大関さんは、新型コロナウイルスの感染予防のため、実家を訪ねる回数を減らしていたところ、ことし2月、父親がけがをして介護施設に入ることになりました。このとき、医師から認知症と診断されたということです。

大関さんは、空き家になった実家について、防犯面での心配もあることから売却を検討しています。事前に備えていたため、今後の手続きもスムーズに進めることができる見込みです。

大関さんは「まさか対策をとった1年後に介護施設にすぐ入ることになるとは思っていませんでした。『あと10年は1人で頑張って暮らしていくよ』って言っていた父だったのに、その日は突然きました。早くに対策を取っておいてよかったです」と話していました。
司法書士の杉谷さんは「何も対策をしないままだと高いリスクを抱えることになります。親が元気なうちに、コロナ禍で会えない状況でも、電話などでコミュニケーションをまずはしっかり図っていただきたい。そして必要に応じて、司法書士や公証人、弁護士などの専門家に相談して、家族信託や任意後見制度などを活用してほしいです」と話しています。

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