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韓国 終わりのないインターン~過熱し続ける就活事情~

「インターンに次々と落ちた時は、精神的にも不安定になりました」。こう話す21歳の韓国人の女子大学生。これまで10を超える企業に応募しましたが、その多くは選考から漏れ参加できませんでした。それでも彼女がインターンにこだわらなければならない理由。それは、韓国の終わりなき競争です。
(国際部記者 金知英)

大企業就職に有利なインターン

チャン・チェリンさん
チャン・チェリンさん
「本当は仕事の内容を学ぶ経験のために始めたインターン活動なのに、自分の『スペック』を上げるために、やり続けなければいけないような気持ちになっています」
こう話すのは、チャン・チェリンさん(21歳)です。韓国・ソウル市内にある有名女子大学の3年生で、今は休学して、就職活動に専念しています。

彼女が休学をしてまで就職活動をするのには理由があります。過酷とも言われる韓国の就活事情です。
韓国では大学への進学率が高い一方で大企業の数が限られているため、「名門大学」を卒業しても大企業への就職は難しいと言われています。

大企業に就職するためには「高学歴」をはじめとする「スペック」と呼ばれる実績が必要で、事実上、大学1年生から就職活動が始まるのだそうです。

就職活動で評価される「スペック」には、主に次のようなものがあるといいます。
「スペック」の主な内容
・学歴  どの大学を卒業しているか
・英語力 TOEICなどで高スコアを持っているか
・成績  大学での成績は優秀か
・企業でのインターンシップ
・海外経験 留学などの経験があるか
・学外での活動 企業の学生向けプログラムの参加経験など
中でも最近、大企業を中心に重視されてきている「スペック」のひとつが、企業での「インターン」だといいます。

インターンなのに最高倍率200倍!?

ただ、このインターンもここ数年、競争が高まり、簡単には参加できなくなっています。専門家によると、ある韓国の民間企業が行っているインターンの最高倍率は200倍を超えるといいます。

さらにインターンの選考が激化する中、最近、企業側からは「能力の見える化」=「ポートフォリオ」と呼ばれるものの提出を求められることもあるといいます。

それぞれの企業ごとに、学外での活動や資格など自分の能力を資料にまとめなければならず、この「ポートフォリオ」を充実したものにするための活動の負担も大きいといいます。
チャンさんが作った「ポートフォリオ」
チャンさんは、1年ほどの間に10を超える企業のインターンに応募しましたが、参加することができたのは2社でした。

採用に直結する就活を前に、厳しい現実を突きつけられたと感じています。
チャン・チェリンさん
「企業の現場で実務能力を伸ばすため、インターンを探しましたが、次々落ちました。その時は、無力感と焦りを覚え、精神的にも不安定になりました」

インターンに何社参加すればいいの?

さらにインターンにやっと参加できても、それで終わりにはなりません。

チャンさんは、大学2年生の終わりに休学して、大手の就職情報サイトを運営する企業のマーケティング担当のインターンに参加。そこでは、実際の業務の体験や実務に必要なことを学びました。

しかし知り合いなどが、インターンに何度も参加をしている姿を見ると焦りを感じ、その後も選考を受け続けざるを得なかったといいます。
チャンさんのインターン先の社員証
また韓国では、インターンは長いもので半年間以上にも及ぶため、選考前に大学を休学するのが普通とのこと。チャンさんは現在は2回目のインターンに参加していて、すでに大学をトータルで1年にわたって休学していて、負担も大きくなっているといいます。

そして、希望する企業に採用されるためには、あと何社インターンに参加して、どこまで「スペック」を上げればいいのか、不安に感じています。
チャン・チェリンさん
「就職のためには『スペック』は上げないといけません。でも、みんなが同じようにインターンを経験していくと、インターンをやること自体が特別なスペックではなくなってしまいます。でも、みんなが『スペック』を上げるためにやっているから、やめるわけにもいきません」

なぜ重視されるインターン

なぜ韓国ではここまでインターンが重視されるようになっているのでしょうか。

韓国の就職情報サイトの運営会社「インクルート」のチョン・ヨヌさんは、大企業を中心に「常時採用」を導入する企業が増えている流れを理由に挙げています。

「常時採用」は、日本で主流のまとめて採用する「定期採用」に対して、必要な時期に必要な人数だけ採用するというものです。

チョンさんは、世界の企業との激しい競争の中で、採用においても、即戦力となる人材や社会経験のある人材が有利な傾向が強まっていると指摘します。
韓国の就職情報サイトの運営会社 チョン・ヨヌさん
チョン・ヨヌさん
「1回のインターン経験だけでは、『スペック』として足りないと考え、何度も挑戦する学生が多くいます。インターンの中には、実務を体系的に学べるものもありますが、単純作業で終わるものも多くあります。このため『スペック』としてのもの足りなさを感じ、それを解消するために別のインターンに応募する。このため、過剰な競争が起きているのです」

終わりのないインターン

韓国で起きている、終わりのないインターン。そしてその先に待ち受ける過酷な就職活動。

一方の日本。これまで企業の多くは「インターンと採用は関係ない」として、インターンは職業体験の場と位置づけられてきました。
しかし、ことし4月、学生の就職活動のあり方を議論してきた経団連と大学側の協議会は、インターンについて、学生が実際に職場で仕事に就く活動と位置づけ、企業も採用選考を視野に入れた評価を行えるようにすべきとの報告書をまとめました。

こうした動きについて、日本の大学生に聞いてみるとー。
「インターンの機会は逃せないし、気を抜けない」
「大学1年生のうちからスキルを身につけないと間に合わなくなり、就活の準備がどんどん早まる」
就活の長期化につながるのではないかと、不安の声が相次いでいました。

日本のこうした状況について、日韓の雇用政策に詳しいニッセイ基礎研究所のキム・ミョンジュン主任研究員は次のように指摘しています。
キム・ミョンジュン主任研究員
キム・ミョンジュン主任研究員
「日本でも、インターンで実務の能力を育成し、優秀な人材を採用するという方向に進む可能性が高いと思います。企業は、職務と学生の能力の適性度をかなり重視してくることになるので、学生にも企業に合わせたスキルが求められるようになります。採用の方法が変わってきていることを認識し、スキルを高める準備を早めに進めていく必要があります」
今回、取材を進めていくにつれて、韓国の終わりの見えないインターン競争、就職活動競争は、もはやひと事ではなくなっていくのではないかと感じました。

企業の間でグローバルな競争がいっそう進む中で、就職活動やインターンをめぐる動きがどう変化していくのか、今後も取材を続けていきたいと思います。
国際部記者
金知英
2014年入局
福岡局を経て
2019年から国際部
朝鮮半島情勢を取材

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