陸上男子100m 多田修平 “負けてばかりの選手”の勝因は…

25日に行われた陸上日本選手権、男子100メートルの決勝。
日本最速の称号を手にしたのは25歳の多田修平選手でした。持ち味の前半でとび出し、そのまま逃げきった会心のレースは長年の課題を克服したことで生まれた結果でした。

自分は“負けてばかりの選手”

日本中が固唾をのんで見守った男子100メートルの決勝。
“日本最速の男”を決める10秒間の戦いから1時間余り、興奮が冷めやらぬ中で多田選手がインタビューに応じてくれました。
「本当にいままでにない高いレベルの日本選手権。9秒台の選手が何人もいるレースでしたが、いままで負けてばかりの選手がしっかりと大舞台で優勝することができてよかったです」

みずからのことを「負けてばかりの選手」と表現した多田選手。
その素直な言葉は、いつも自分を隠さず取材に向き合ってくれる多田選手らしさでもあり、「負けてばかり」を克服したことの自信でもあるように感じられました。

“後半の減速が少なかった”

多田選手はみずからの勝因についても率直に語ってくれました。

「これまで後半力んで減速して抜かれるというパターンがほとんどでした。今回はやっとスタートから中盤に出て、後半追い上げられずにフィニッシュできました。後半の減速が少なかったのかなと思います」
多田選手の感覚は、日本陸連が発表した決勝レースのデータからも裏付けられます。

後半、勝負を分ける70メートルから80メートルまでの多田選手の平均速度は秒速で11.13メートルでした。

後半に強い小池祐貴選手が11.11メートル、日本記録保持者の山縣選手が10.98メートルだったことを考えると、後半の減速が少なかったと感じた多田選手が、いかにスピードに乗っていたかがわかります。

実った体幹トレーニング

スタートから中盤の加速が最大の持ち味の多田選手。
しかし、後半にスポットをあてれば、中盤までのリードを逆転されるレースがほとんどでした。

原因は、体幹の弱さからレースの後半に上体が反ってしまうこと。効率よく前に進むことができていなくなっていたからです。
その課題を克服するため佐藤真太郎コーチと取り組んだのが徹底した補強トレーニングでした。

重たいトレーニング用のボールを使った一般的な腹筋のメニューをはじめ、姿勢を意識した状態で走るロングスプリントを繰り返し、ひたすら体幹を鍛えました。
車でいうならエンジンにあたる抜群の瞬発力を持ちながら、体幹というフレームがしっかりしていなかったため走りの安定感に欠けていたからです。

地道なトレーニングで肉体改造に取りかかったこの2年余り。結果が伴わない時期が続きましたが、諦めることなく取り組み続けました。

多田修平選手
「佐藤コーチのメニューを信じてやってきて本当によかったです。ついていった結果がこういういい形で表れたので、佐藤コーチには感謝の気持ちでいっぱいです」

ようやくきついトレーニングが報われた瞬間でした。

オール大阪の勝利

インタビューの中では地元大阪についても熱く語りました。

多田修平選手
「本当に大阪である日本選手権はいままでも縁起がいいんです。4年前(の大阪での日本選手権)も2位でロンドンの世界選手権の代表に内定したんです。なんかやっぱり自信がすごくわきました。ほんとに大阪の方々にたくさん支えてもらってるので、そういう方々にもしっかり恩返ししたいという気持ちで走りました」

実は多田選手のオリンピック出場は、地元企業と一体となって支援してきた大阪陸上競技協会の悲願でもありました。
2015年に大阪陸協が立ち上げた選手強化プロジェクト「OSAKA夢プログラム」。大阪の企業や個人から年間およそ5000万円の寄付を募り大阪ゆかりの選手を強化してきました。

多田選手も大学時代からこのプロジェクトに参加。海外での試合や合宿の費用、日々の体のケアにかかる費用など、手厚いサポートを受けながら成長してきました。「夢プログラムのサポートがなければ今の自分はいない」と話すほど、その支援に感謝しています。
多田選手がトップでフィニッシュしたとき、地元大阪のスタンドのファンだけでなく、レースを見守った大阪陸協のスタッフたちも大喜びする姿がとても印象的でした。

国内外の遠征に帯同したスタッフは涙を浮かべ、専属のトレーナーも感極まっていました。
多田選手の優勝は、こうした人たちに加え、支援を続ける企業も含めた「オール大阪」の団結力が実った瞬間でした。

多田修平選手
「僕だけの力じゃなくて、まわりの応援やサポートがあったからこそ残せた結果なのかなと思っています」

そして今後に向けて、さらなる高みを目指すことも忘れていませんでした
多田修平選手
「タイム的には9秒台というところを早く出したいと思っています。あとはオリンピックのファイナリストというところをしっかり目指していきたい。本番にはすごい強いほうだと思うので、世界のトップ選手たちに食らいついていきたいと思います」

多田選手が1か月後の東京でどういうレースを見せてくれるのか。史上最高と言われた国内の激戦を制した多田選手の走りから目が離せません。