避難所以外への「分散避難」に新たな課題 “支援届きにくい”

新型コロナウイルスへの感染が懸念される中、国は災害時には避難所だけではなく、それ以外の安全な場所で避難生活を送る「分散避難」を勧めています。しかし、多くの自治体で避難所以外にいる人の把握が難しくなり、必要な支援がしにくくなるなど新たな課題が出てきていることがNHKの調査で分かりました。

災害時、避難した人たちの密集による感染リスクを避けるため、国は避難所だけではなく、安全な場所にある親戚や友人の家、自宅の高い階で避難生活を送る「分散避難」を検討するよう勧めています。

しかし、去年7月の豪雨災害では熊本県内だけでも1000人以上が自宅などで避難生活を続け、自治体による実態の把握が難しくなったほか、支援物資も届きにくくなるなど、課題が浮き彫りになりました。

自治体はどのように「分散避難」の状況を把握しているのか。

NHKは今月、全国の県庁所在地や政令市、それに東京23区の合わせて74の自治体に取材しました。

その結果、ほぼすべての自治体が「分散避難」を呼びかけているものの、およそ7割の自治体が「避難所以外にいる人を把握するのが難しい」と考えていることが分かりました。

理由として多かったのが「災害時に対応できる職員の数が限られ、戸別訪問などができない」といったものでした。

災害時の避難生活に詳しい跡見学園女子大学の鍵屋一教授は「高齢者や障害者など在宅でも支援が必要な人たちについては自治体が優先的に巡回して把握に努めるなどの対策が重要だ。一方で、自力で生活できる人は自治体がこうした業務に集中できるよう1週間程度の水や食糧などを備えておく必要がある」と話していました。

避難所以外の“居場所”把握する試みも

今回の調査では、避難所以外にいる住民の居場所を把握しようという試みが一部の自治体で行われていることも分かりました。

このうち千葉市の避難所の運営マニュアルでは「地域の支援拠点として、在宅などで避難生活を送る方も支援の対象として、物資配給、情報提供などを行う」と定められています。

そのうえで、避難所以外にいる人たちが避難所に水や食料などを取りに来た際、避難者カードに名前だけでなく避難の状況や場所を記入してもらい状況を把握しようとしています。

また、支援情報を知らせる避難所の掲示板は在宅避難者や車中泊の避難者などにも見やすいような場所に設置し、在宅避難者が多い地域があれば食料などの物資を地域単位で配る工夫をしようとしています。
跡見学園女子大学の鍵屋教授は「在宅避難をしているからといって避難所に行ってはいけないということではない。ぜひ行政や自治会長などを中心に『避難所には物資や情報がいろいろとあるので顔を出してみませんか』と、地域で声を掛け合ってほしい」と話していました。

住民の把握に独自アプリ導入も

避難所以外にいる住民の把握を独自のアプリを導入することで解決しようとしている自治体もあります。

福岡市は災害時、市が指定する避難所以外にいる住民の居場所を把握するだけでなく、必要な情報を提供できる独自のアプリを運用しています。

福岡市が民間企業と共同開発し2018年から運用を始めた無料のアプリ「ツナガル+」は、ふだんは参加している住民同士がアプリを通じてやり取りができるコミュニケーションツールとして活用できます。

災害時には避難している場所ごとに住民や自治体が情報交換するグループが作成できるようになり、これによって自治体は住民が登録した避難している場所の把握が可能になります。

一方で住民は自治体からの支援の情報や物資の配送状況などを知ることができるようになるということです。

このアプリは2016年の熊本地震で避難所以外にいる住民の把握が課題になったことから開発されましたが、今月1日時点のダウンロード数は福岡市の人口160万人に対しおよそ2万9000件にとどまっているということです。
福岡市地域防災課の中村圭課長は「避難者がどこにいるのかを把握して必要な支援につなげたい。今後はアプリをどれだけ広く普及できるかが課題だ」と話しています。