香港「リンゴ日報」発行停止 市民 “私たちには何もできない”

中国に批判的な論調で知られる香港の新聞「リンゴ日報」は、香港国家安全維持法に違反したとして警察に資金が凍結されたことなどを受けて、24日の朝刊を最後に発行停止に追い込まれました。

新聞の販売店では、通勤途中の人などが次々と訪れて最後の朝刊を買い求める姿がみられ、言論の自由が大きく後退したという批判の声が聞かれました。

香港の新聞「リンゴ日報」は、香港国家安全維持法に違反した疑いで幹部の逮捕が相次いだうえ、警察に資金が凍結され、24日の朝刊を最後に新聞の発行を停止しました。

数百人の市民が集まり「ありがとう」

郊外にあるリンゴ日報の本社前には23日夜遅く、数百人の市民が集まり、建物内で最後の編集作業にあたる記者らに向けて「ありがとう」などと声援を送っていました。

一夜明けた24日朝、香港中心部にある新聞の販売店では、最後の朝刊を買い求めようと通勤途中の人などが次々に訪れていました。
このうち、子どものころから「リンゴ日報」を読んでいるという男性は「権力者があらゆるものを少しずつ消し去ろうとしている。でも私たちには何もできない」と怒りをあらわにしていました。

また、60代の男性は「リンゴ日報が新聞を出せなくなったことは、香港にとって悲しいことです。香港はもう変わってしまった。少しの反対意見も許されない」と話して、肩を落としていました。

リンゴ日報は、中国や香港の政府を厳しく批判してきたことで知られ、多くの市民に支持されてきただけに、香港の「言論の自由」が大きく後退したとして、批判の声が上がっています。

最後の紙面は

最後となった「リンゴ日報」の24日朝の朝刊には、一面の半分を使って「雨の中のつらい別れ」の見出しとともに、本社前に集まって声援を送る大勢の市民の写真が掲載されました。

このほか多くの紙面を割いて、かつてリンゴ日報を率いてきた幹部たちが思い出をつづった記事や、発行停止を残念がるもの、それに感謝の気持ちを表したものなど読者のコメントを紹介しています。

また、別冊では1995年の創刊号から24日の朝刊までの紙面を写真で振り返るとともに「香港人への別れの手紙」と題して、副社長が「読者や香港の皆さんがこの1週間、リンゴ日報を応援してくれたにもかかわらず、期待に応えられず申し訳ない」などと無念の思いを表しています。

最後の新聞を購入した人たち

香港中心部にある新聞の販売店では、通勤途中の人などが訪れ、24日の朝刊を最後に新聞の発行が停止された「リンゴ日報」を次々に買い求めていました。

このうち、子どものころから「リンゴ日報」を読んでいるという男性は「権力者があらゆるものを少しずつ消し去ろうとしている。でも私たちには何もできない」と怒りをあらわにしていました。

また、60代の男性は「リンゴ日報が新聞を出せなくなったことは、香港にとって悲しいことです。香港はもう変わってしまった。少しの反対意見も許されない」と話して、肩を落としていました。

新聞を2部買い求めた女性は「リンゴ日報にとって最後の新聞です。これはひとつの歴史なので、1部は読むために買いましたがもう1部はとっておきます」と話していました。

また、別の男性は「新聞にそれぞれの立場があるのは普通のことです。読者が自分たちが信じる事実を選べばいいはずなのに」と話し、当局の対応を批判しました。

ニュースサイトも停止「ここでお別れ」

「リンゴ日報」のニュースサイトは、現地時間24日の午前0時半すぎに、NHKが確認したところ、記事の閲覧ができなくなり、代わりに「購読者へのお知らせ」と題して文章のみが表示される画面になりました。

この中では、23日をもってニュースサイトやアプリが停止するなどとしたうえで「読者や購読者、広告主、そして香港の人たちの変わらぬご支援に感謝します。ここでお別れです。お元気で」というメッセージで締めくくられています。

「リンゴ日報」とは

「リンゴ日報」は香港がイギリスから中国に返還される2年前の1995年に黎智英氏が創刊した日刊の新聞です。

名前の由来は聖書に出てくるアダムとイブが食べた禁断の果実で、黎氏は「もしかじっていなければ世の中には物事の是非も罪悪も、もちろんニュースも存在しなかったからだ」と説明しています。

創刊当初から娯楽ニュースや犯罪報道に焦点を当て、センセーショナルな記事や大胆な見出しで知られるようになり、人気大衆紙としての地位を確立していきます。
そして徐々に政治のニュースも取り上げるようになり、中国政府に批判的な論調を展開しました。

民主派寄りの報道姿勢でも知られ、おととし6月に香港で行われた大規模な抗議活動についても民主派を支持する姿勢を明確に打ち出しました。

香港が中国に返還されて以降多くの香港メディアが中国本土の資本を受け入れるなどして、政府批判を控えるようになる中、香港の民主派などからは「言論の自由を守る最後のとりでだ」とも言われてきました。

一方、香港の警察はこうした報道姿勢を「偏っている」と繰り返し批判し、中国政府寄りの政党やメディアなどからも厳しい非難や攻撃を受けてきました。

先月には台湾で出していた新聞「台湾リンゴ日報」が発行停止に追い込まれていて、創業者の黎氏が香港国家安全維持法違反の罪に問われ、経営状況が厳しくなっていることなどが理由だとみられていました。

中国の反応は

「リンゴ日報」の発行停止について、中国外務省の趙立堅報道官は、24日の記者会見で「香港は法の下にある社会であり法の外にある楽園ではない。報道の自由は免罪符ではない。香港政府は必ず法律を守り、違反すれば調査し、厳格に法の執行を行う」と述べました。

また、中国共産党系のメディア「環球時報」の英語版は、中国の専門家の見方として「一部の外国のジャーナリストなどは嘆き、『時代の終わり』だと主張するが、まさに、中国の内政に干渉をする外国の代理人や香港独立の勢力らが、永遠に政治生命を絶つという『時代の終わり』だ」などと伝えています。

そして、来月1日に香港が中国に返還されて24年になることや、中国共産党創立から100年となることに触れたうえで「リンゴ日報の発行停止で香港の法治と一国二制度がよりよく実践されるようになり国全体の発展によりよく統合される新たな時代を迎える」などとしています。

台湾総統「香港の自由支える」

台湾の蔡英文総統は24日午後、フェイスブックに「とても残念だ」と記しました。

蔡総統はリンゴ日報を「香港の人たちにとって、単なる新聞にとどまらず、強権を恐れずに民主を渇望し自由を追求するための拠点だった」とたたえました。

そのうえで「私はいま一度、香港の人たちに言いたい。自由のある台湾は香港の自由を支え続けていく。そして、香港の人たちが心の奥底に持つ自由と民主への希望がいつの日か再び東洋の真珠を輝かせることを切に願っている」と結んでいます。

EU 中国政府を非難

EU=ヨーロッパ連合の報道官は声明を発表し「中国が強要した香港国家安全維持法がいかに報道と表現の自由を抑え込むために使われているかを明確に示すものだ」として中国政府を非難しました。

そのうえで、報道の自由の保障は香港返還の際のイギリスとの共同声明の中に含まれているとして国際的な約束を順守するよう改めて求めました。

「リンゴ日報」記者 無念さにじませる

「リンゴ日報」の記者は、市民に支持されながらも発行停止に追い込まれ創刊から26年の歴史に幕を閉じることについて、無念さをにじませました。

リンゴ日報の記者、謝馨怡(しゃ・けいい)さんは、地元のテレビ局からことし2月にリンゴ日報に転職したばかりでした。

リンゴ日報が発行停止に追い込まれたことについて、謝さんは「覚悟はあったが、実際のこととなって、重苦しい気持ちになった。いまでもその現実を受け入れられない」と話しました。

謝さんは「リンゴ日報」では、環境問題の取材を担当したあと、インターネットで運営されていた夜のニュース番組のアンカーに抜てきされましたが、番組は今月21日、配信が停止され、アンカーとしての役目はわずか2日で終わりました。

最後の番組の終わりに謝さんは、香港のメディアで働く記者たちを勇気づける言葉で締めくくりました。

その時の気持ちについて「リンゴ日報がなくなっても自分の立場を守って、真相を伝える仕事を守ってほしいと言いたかった」と振り返りました。

その上で「リンゴ日報は言論の自由を代表していると考える人が多いと思う。同僚たちと同じ価値観を共有して、最後まで闘ったことに後悔はない」と話しました。

また、今後については記者として活動する道を探していきたいとする一方、「リンゴ日報だけでなく、ほかのメディアも言論の弾圧を受ける可能性がある。新聞が伝えられるのは、たった1つの声になってしまうかもしれない」と話し、香港の「言論の自由」の行方には悲観的な見方を示しました。

ニューヨークで抗議活動

アメリカ・ニューヨークにある中国総領事館の前では抗議活動が行われ、集まった人たちはリンゴ日報の発行停止に抗議し、中国政府や香港政府に言論の自由を守るよう訴えました。

参加者たちは歩道にチョークでリンゴの絵を描き、その中に「言論の自由」と書き込んで、「自由な香港を」などと抗議の声を上げていました。

中国からアメリカに移住したという男性は「とても悲しいです。リンゴ日報は暗闇の中の明かりのような存在でしたが、消されてしまいました」と話していました。

また地元に住む女性は「リンゴ日報が中国政府によって発行停止に追い込まれたのは明らかです。自由や人権が脅かされています」と危機感を示していました。

そして、かつて香港に住んでいたという女性は「香港の民主主義のために声を上げ闘い続けます」と話していました。

専門家「香港の自由 大きく傷ついたと言わざるをえない」

香港の政治に詳しい立教大学の倉田徹教授はリンゴ日報について、香港の自由を象徴する新聞だったとしたうえで「政府批判の鋭い声が消えてしまうという大きなインパクトがあると思う」と述べました。

また、リンゴ日報は香港の人たちの心の声を代表する庶民のための新聞という位置づけもあったとしたうえで「香港の人にとっては心理的にも香港らしさが消えてしまうと受け止められている」という見方を示しました。

そして今後の香港の言論状況について倉田教授は「インターネットのニュースメディアの中にはかなり政府批判の論調をとるところもあるが、次はこうしたネットメディアにも今回のような攻撃が広がるのではないかという懸念が強まっている」と述べました。

一方、このタイミングで当局が締めつけを強めていることについては「来月1日は香港が中国に返還されて24年となるのと同時に、中国共産党の創立100年の大きなイベントが開催される予定で、中国政府はこの日までにリンゴ日報を発行停止に追い込みたかったのではないか」と分析しました。

また倉田教授は、今回、リンゴ日報の幹部が逮捕されたことについて「言論活動が逮捕の容疑とされている。今まではあまりなかったことで、言論の自由に対する大きな脅威だ。香港の自由も大きく傷ついたと言わざるをえない」と述べ、強い危機感を示しました。

そして倉田教授は、香港市民の中には当局のやり方に対するかなり多くの不満が存在しているとしたうえで「民意のガス抜きの手段としての言論の場がなくなることが、香港の政治的安定に本当に寄与するのかは疑問で長い目でみればより激しい抗議活動が発生する可能性もあるのではないか」と指摘しました。