悲しむだけで終わらせない

悲しむだけで終わらせない
「亡くなった子ども16人のうち、6人の死は防げた可能性がある

香川県でまとめられた報告書にはそう記されていました。事故などで子どもが死にいたったいきさつを専門家たちが詳しく検証し、その結果を関係機関で共有する、という取り組みが各地で始まっています。悲惨な死を二度と繰り返させないために。(高松放送局記者 竹脇菜々子)

25%は予防できた可能性

ことし5月、丸亀市のため池で、釣りに来ていた小学1年生の男の子と父親が命を落としました。警察は2人が池で溺れたとみています。このため池では、10年前にも、釣りに訪れた21歳の女性が転落して死亡する事故があったということです。

このような不慮の事故や事件、それに自殺で亡くなった子どもは、香川県内だけでも平成30年までの5年間で69人に上っています。

日本小児科学会は、平成28年までの3年間に全国で死亡した18歳未満の子ども2348人のカルテを検証した報告書をまとめています。

それによりますと、頭のけがややけど、それに誤って中毒性のある物を飲み込んでしまったというケースがおよそ8%に当たる193人、自殺がおよそ3%に当たる81人、そして、虐待など他人の故意によって死亡したというケースも39人いたことがわかりました。

報告書は、「子どもの死のうち25%は、予防できた可能性が中程度以上あった」と結論づけています。

始まった“死亡検証”

昨年度、厚生労働省があるモデル事業に乗り出しました。それがCDR=「チャイルド・デス・レビュー」です。“子どもの死亡検証”とも呼ばれ、子どもが死亡したいきさつを専門家たちが検証し、再発防止につなげるのがねらいです。

すでに、アメリカやイギリスなどでは法制化されていて、昨年度、香川県を含む全国7府県でモデル事業が始まりました。

香川県でCDRを中心になって進めてきたのが、国立病院機構「四国こどもとおとなの医療センター」の小児科医、木下あゆみ医師です。

救急搬送されてくる多くの子どもたちの診断にあたってきた木下医師は、同じような原因で亡くなる子どもが後を絶たないことに、やるせなさを感じていたと言います。
木下医師
「予防できたら死ななくて済んだ子どものことをちゃんと話し合わないと、人知れずこの世からフワッといなくなってるっていうのは、子どもたちに対してちょっと失礼だと」

多職種で話し合う

CDRで重要なのは、医療以外の情報と突き合わせて、死にいたったいきさつや原因を明らかにすることです。

香川県のモデル事業にも、警察や消防、児童相談所などから担当者が集まり、去年4月から12月までに県内で死亡した子ども16人の死を検証しました。1年間にわたる検証の結果、まとまったのが冒頭で紹介した報告書です。
分析してみると、香川県内で病気で亡くなった子どもの中にも「死亡を防げた可能性がある」とされたものがありました。中には、「明らかに虐待が原因で亡くなった」とされた子どもも。
木下医師
「小児科医だけでいくと、病院で持っている情報だけでしか話ができないですけど、いろんな職種が入ると、視点も変わるので多職種で話し合うっていうのはすごい大事」

何ができなかったか、これから何ができるか

「CDR」にはもう1つ、大切な役割があります。それは、子どもに関わる機関それぞれが「何ができなかったか」「これから何ができるか」を多面的に考えることです。

例えば、基礎疾患があって、在宅で療養していた子どもが、かかりつけ医とは別の医療機関を受診したところ、病状が進んで死亡してしまったケースがありました。

基礎疾患がある子どもは鼻水やせきといった症状でも、体調が急変する可能性がありますが、親がどんな時にどの医療機関を受診すべきかを判断することは簡単ではありません。
そこで、提言されたのが母子手帳の活用です。

母子手帳に子どもの基礎疾患を書き込む欄を設けて、かかりつけ医が子どもの症状ごとに、病院を受診するタイミングや受診する医療機関を記入することで、親やほかの医療機関に適切に対応してもらうのがねらいです。

また、児童虐待によって引き起こされたけがや病気で、長期療養後に死亡した子どものケースをめぐっても意見が交わされました。浮かび上がったのは、妊娠や出産、子育てについて悩みを抱えながらも、児童相談所や保健所の支援を拒む家庭が少なくないという課題です。

そこで、健診などで妊婦や乳幼児の親と接する市や町の保健師の力を借りて虐待の芽を摘むことが提案されました。

報告を受け、県は今年度、乳幼児検診の際に虐待のリスクを評価する指標をより充実させる予定です。
水永次長(当時)
「ほかの職種の方から『こういったこともできますよ』といった提案もあって、とても力をもらえます」

国も制度化を検討へ

同様にモデル事業が行われたほかの府や県でも、成果がでてきています。

山梨県では、病院の外で子どもが心肺停止になったとしても、家族が救命措置をできるよう、心肺蘇生の方法を動画で案内するスマートフォンのアプリを開発することが提言されました。

また、事故などで子どもが心肺停止になった場合、警察が速やかに状況を把握できるように、駆けつけた救急隊が自動的に警察へ通報する仕組み作りも検討されています。
これらの取り組みは国に報告され、国はその結果を踏まえて来年度をめどに制度化を検討することになっています。

国での検討を前に、今年度もCDRが続けられる香川県。木下医師も、全国に広がることを期待しています。
木下医師
「子どもに限らず、死を話すことって、ちょっとタブーなイメージがあると思うんです。『亡くなってしまったから、何も言わないでおこう』みたいな。でも、子どもの死を語ることが当たり前の社会にして、亡くなった子どもたちを尊重し、次につなげていけるような仕組みを作っていきたい」

悲しむだけで終わらせない

アメリカの研究機関の調査で、子ども1人が亡くなったケースの背後には、同じ原因で▽25人が入院、▽925人が救急で治療を受け、▽そのほかにも数え切れないほどのヒヤリハット事案が起きていることが明らかになっています。

死亡するケースは、いわば「氷山の一角にすぎない」というわけです。

死を悲しむだけで終わらせるのではなく、それを教訓として、安心で安全に暮らせる社会をどう実現するのか。

未来の子どもたちの命が守られるよう、引き続きこの取り組みを取材していきたいと思います。
高松放送局記者
竹脇菜々子
2020年入局
警察担当として事件事故を担当
子どもや子育ての問題も精力的に取材