東京五輪・パラ事前合宿の受け入れ 感染対策費だけで5億円超に

東京オリンピックの開幕まで23日で1か月です。事前合宿で海外の選手を受け入れる自治体では、新型コロナウイルスの感染対策を進めていますが、NHKが福岡県内の事前合宿を行う自治体に取材したところ、感染対策の費用だけで総額5億6000万円余りに上ることが分かりました。

東京オリンピック・パラリンピックに向けて事前合宿を行う自治体に対し、国は宿泊や移動の際の新型コロナウイルスへの感染対策の指針を示し、その費用については、国が都道府県に基金を作り合わせて127億円を交付しています。

NHKは、福岡県内で事前合宿を行う8つの市や町、それに、福岡県に感染対策にかかる費用の概算を取材しました。

その結果、国の指針にもとづいて対策を進めると、福岡県内では、感染対策の費用だけで総額5億6000万円余りに上ることが分かりました。

具体的には、
▽航空機の移動で選手とほかの乗客を分離するため、空席の確保などに1億5200万円余り
▽宿泊先の感染対策などに2億1400万円余り
▽PCR検査に1億3600万円が計上されています。

このうち福岡市では、スウェーデンとノルウェーから選手など、およそ350人を受け入れる予定です。

ホテルの宿泊費は相手国の負担となりますが、それ以外に、選手と一般の客を分ける感染対策として、空室や食事会場の確保などに1億2800万円の費用が必要だとしています。

このほかにも、
▽東京ー福岡間の航空機の移動では、2000席の空席を確保するため、8700万円余り
▽練習場と宿泊先の移動などで、延べ500台のバスを借り上げるため、3900万円など、
総額で3億円余りを計上し、県内で事前合宿を行う自治体の中で最も多くなっています。

福岡市「受け入れる意義ある」

3億円余りの感染対策の費用について、福岡市スポーツ推進課の平山誠課長は「直接的な市民との交流は制限されるが、オンラインでの交流や公開練習を通して受け入れる意義はあると考えている。選手たちの人数など、不明な部分もあるため、あくまでも想定の金額だが、必要最小限の支出になるよう精査したい」と話しています。

また、福岡市に次いで多い9000万円余りの感染対策の費用を計上している北九州市は、当初、4か国を受け入れる前提で費用を算出しましたが、中止が相次ぎ、現在、金額の見直しを進めています。

北九州市国際スポーツ大会推進室の岡本洋一郎係長は「感染を防ぐためにやむをえない経費だと考えている。感染予防のため、必要な措置を取りたい」と話しています。

感染症対策 専門家 “国の感染対策は妥当”

感染症対策に詳しい北九州市立八幡病院の伊藤重彦院長は「海外選手を守るだけでなく、国民の不安感を払拭(ふっしょく)する意味でも、選手と市民が顔を合わせない、徹底していて必要な対策だ」として、国が示している感染対策は妥当だという見解を示しました。

そのうえで「行動の制限や、PCR検査を受ける選手たちからウイルスが拡散するリスクよりも、ワクチンの接種が進んでいない国内のわれわれから選手たちにウイルスを感染させるリスクが高い。選手に近づくスタッフなどの対策を急ぐ必要がある」と話しています。

スポーツ社会学 教授「費用対効果は少ない」

事前合宿の感染対策に多額の費用を投じることについて、スポーツ社会学が専門の一橋大学大学院の鈴木直文教授は「多額の税金を使う以上、公益性を期待するのは当然だが、事前合宿の最大の目的とも言える市民との交流が制限されるなか、費用対効果は少ないと言わざるをえない」と指摘しました。

そのうえで「生活保障や経済政策など、もっと大事なことがあるはずなのに金も人も、すべてをオリンピックが吸い上げてしまう。本当に価値があることなのか、私たち国民も公金の使い方に関心を持ってチェックする必要がある」と話していました。