32歳男、生理用ナプキンを買う

32歳男、生理用ナプキンを買う
生理用品、俺が買って変じゃないかな。

娘が生理になったとき、自分に何ができるだろう。

彼女が生理痛で苦しんでる、どうしよう。

この記事の主人公は3人の男性記者。それぞれの体験をきっかけに、生理のこと、そして大切な人の体のこと、ほんの少し立ち止まって考えてみました。

32歳、初めての…

「きゃー!」

とある5月の昼下がりのことでした。

在宅勤務中だった私(國仲)の妻が突然、悲鳴をあげました。

どうしたの!?そんな大声出して


どうしよう、生理になっちゃったのにナプキン切らしてた…
お願い!このあと絶対外せない会議があるの、ナプキン買ってきて!
生まれてから32年、生理用品なんて一度も買ったことがない私には、そもそも商品に関する知識もほぼありません。妻に商品名を聞いて、急いで近くのドラッグストアへ向かいました。
「このエリアは初めて入ったかも…」

生理用品が置いてあったのは、店の奥のほうでした。棚には『昼用』や『夜用』『多い日用』など多種多様な商品が並んでいます。値段は300円くらいで、サイズもさまざまでした。

棚の前で立ち止まってじっくり探すのはなんだか気が引けて、何度か行ったり来たりしながら、見つけるとすぐにレジへ。

何事もなく会計が終わり、店員は慣れた手つきで商品をサッと袋にしまいました。

その夜。
食卓を囲みながら、聞いてみました。

生理がツラいって聞くけど、いつがいちばん大変なの?


私は2日目かな…ほかの人と比べて重くはないけど、頭が痛くなることがある


あした帰るついでに頭痛薬とか買っとくね。でも、毎月のことならいつ来るかって分からないものなの?


わかんないよ、ホントに突然なることもあるし…
結婚8年目、知り合ってからは20年以上になりますが、こんな風に妻の生理について真っ正面から話をしたのは初めてのことでした。

こういうこと聞かれて恥ずかしいとかはない?


知らない人だったらさすがにイヤだけど、夫婦だし、私のことを知ろうとしてくれてうれしかったよ
いちばん近くにいる人のことなんてすっかり知ってるつもりでいましたが、そうではなかったと気付かされた1日でした。

「そんなことも知らないの…?」

私は知らないことだらけだった生理用品の話。

みんなはどれくらい知ってるんだろう?そう思って今回の取材チームに聞いてみました。

生理についての取材を続けている女性記者と、3人の男性記者というチームです。
★取材チーム
・國仲真一郎記者(右上)
 生理用品を初めて買った32歳。
・高杉北斗記者(右下)
 交際相手と暮らし始めたばかり。
・加藤大和デスク(右下小)
 10歳の娘と3歳の息子の父。
・吉永なつみ記者(左)
 「生理の貧困」の取材を続ける。
 5歳と1歳の2児の母。
國仲
…ってことがあって初めて生理用品を買ったんですよ。経験あります?

加藤

ないねえ。買って来てって言われたこともないや

高杉
考えたこともなかったですよ

吉永

全部ひっくるめると月に数千円かかることも珍しくないんじゃないかな
3人
数千円!?

吉永
多い日の夜用と昼用、あとは軽い日用とかいろいろ使い分けないといけないから。私がその状況で頼むんだったら、いっぺんに全部買ってきてってお願いしたかも…

國仲
…ちょっと待ってください。そんなに何種類も必要なんですか?

吉永
…えっ?
吉永記者が見せた「そんなことも知らないの…?」という反応に、男性記者はみな戸惑いました。

女性にとって“当たり前”なことも、私たちにとっては知らないことだったからです。

そこで、ミーティングはここから、3人の男性が生理のことを聞いていく展開になりました。

パパも知りたい

小学校高学年の娘がいる私(加藤)。

ことばや話題が大人びてきて、娘もいよいよ思春期かな、と思うことが増えました。
学校生活や友達のことなど、わりと話せる関係だと思っているけれど、娘と「生理」の話はしたことはありません。

妻とだってほとんど話したことのないテーマです。
加藤
妻に任せきりではいけないと思うんだけれど、娘も学校の授業で習ったと言っていたし。父親も知っておいたほうがいいのかな?

吉永
想像してみてください。例えば、娘さんと2人で出かけたり家にいたりしたときに、急に生理になることだってありえますよ

加藤
恥ずかしいけど、大事なことだから、娘と話しといたほうがいいということなのかな

國仲
あ、でも私の妻は、生理の話を父親に洗いざらい話すのは抵抗があるって言ってました
吉永
確かに家族であっても話したくない人はいると思います。ただ、考えたくないけれど長期入院するとか、万が一のことがあったりするかもしれない。シングルファーザーの家庭もありますよね

國仲
娘さんと直接話さないまでも、父親として何を知っておくべきかということかもしれないですね。妻も、お父さんに体のことを根掘り葉掘り聞かれるのはイヤだけど、気遣ってくれたり、必要な物を用意してくれたりしたら心強いと思う、って…
吉永
父子家庭で育った女性が、親に知識がなかったために生理用品を買ってもらえなかったという声も取材したことがあります。学校の先生にも相談できないし、トイレットペーパーを重ねて代用するしかなかったと…子どもが安心して生活できない事態は避けたいですよね

加藤
そうだね。いざというときに娘が嫌な思いをしないですむ準備はしておきたいな

吉永
あらかじめナプキンを何枚か入れたポーチを用意しておくといいです。事前に子どもに渡しておけば外出先で生理になっても慌てなくてすむんじゃないでしょうか
「父親だから・男だから」と生理の話はなんとなく避けていたけれど、「家族のこと」に置き換えてみたことで、知っておかなきゃいけないことがまだあると気付きました。

一緒に暮らし始めたら…

つい先日、交際相手と一緒に暮らし始めた私(高杉)。

ある日、彼女がうつむいて食事もできないほどの腹痛を訴えました。

そのときは「生理だからだと思う」と話していたのですが、痛みが続いたため婦人科を受診したところ「子宮内膜症」の疑いがあると言われました。
高杉
詳しい検査の結果、子宮内膜症ではなかったんですが、彼女の体のことや病気のこと、治療が必要になった場合のことなどを知っておかなきゃと思いました

吉永
生理痛がひどい女性は、痛みがあっても我慢してしまうことがあるよ。数年前まで私も、病院に行ったほうがよかったのに、耐えしのぐものだと思って痛み止めを飲んでた

高杉
彼女もそうだと言っていました。ただ、今回は経験したことのない痛みだったそうなんです

吉永
生理の痛みを我慢しすぎて病気を見逃してしまうおそれもあるんだよ
吉永
そのままにしておくと、将来、不妊や卵巣がんを誘発するおそれもある。自分の人生に関わる大事な問題だから、我慢しちゃいけないと思う

高杉
生理痛がひどいという女性は職場や友人にもいますね。病気のサインかもしれないなんて知らなかったです

吉永
だから、私は後輩がつらそうにしていたら声を掛けるようにしてる。男性にもぜひ知ってほしいな
高杉
ただ、声のかけ方も難しいなと思います。生理のとき何かできないかと聞いたら彼女は「うれしいけど、なにをしてもらっても痛さやつらさは変わらない」と…

吉永
それはすごくわかる…私は生理前の1週間くらいすっごく気分が沈んだり、頭がぼーっとしたり…そういう状態が続いてた時期もあって。
吉永記者が見せてくれたのは数年前の日記です。
体調がすぐれないなか家事や育児に追われ「消えてしまいたい」ということばまでありました。
吉永
当時はどこかで「男の人には分からない」と思ってしまっていて。いま振り返れば、もっと話し合っていればよかったと思う。といっても“どれぐらい血が出るの?”とか聞かれたくない…知っておいてほしいことが違うんだよね。体調のことはさりげなく聞くみたいな気遣いがうれしい。少しずつでも互いを知る、理解しようとすることをやめないでほしいな

大切な人のことだから

男性記者たちの疑問や会話を記事にしてみて、同僚からは生理についてのほんの“入り口”でしかないとの声がありました。

実際、話の最中、吉永記者は何度も「そこから説明しなきゃいけないのか!」と思っていたと後に明かしてくれました。

でも、その入り口すらきちんと分かっていなかったことを知り「大切な人の体のことをちゃんと知りたい」との思いを強くしました。

「経験できないから知りようがない」

「この程度しか分かってもらえない」

そう思うこともあるけれど、身近な人と話してみるのが大事な一歩だということに気付くことができました。