世界難民の日 コロナ禍で難民と受け入れ国のあつれき深刻に

6月20日は国連が定める「世界難民の日」です。新型コロナウイルスによる経済への打撃が深刻となる中、難民と受け入れ先の住民との間で起きるあつれきが深刻になっています。

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、紛争などで住む家を追われた難民や国内避難民の数は去年、8240万人と、UNHCRが創設された1950年以降、最多となり、一部の国に難民が集中し、負担となっています。

このうち、中東のレバノンは、内戦が続く隣国シリアから85万人を超える難民を受け入れていますが、新型コロナウイルスが拡大し経済危機が深まる中で、難民とレバノン人との間で衝突が頻発しています。

去年12月には、賃金の支払いをめぐるトラブルでレバノン人がシリア難民が暮らすテントに火をつける事件があったほか、先月行われたシリア大統領選挙の際、レバノン人が、在外投票に向かうシリア難民の乗ったバスを襲撃しました。

レバノンでは、政府への抗議デモや新型コロナウイルスの感染拡大で経済危機が加速し、通貨ポンドの実質的な価値が10分の1にまで暴落して、物価の上昇で生活が圧迫されています。

こうしたことから、レバノン国民の間で、人口の8人に1人に上るシリア難民が社会の負担になっているとの批判が高まっています。
レバノン東部のフルゾルでは、物価上昇で経営コストがかかる、この地域の主要産業である農業を保護するため、作業に当たるシリア難民の賃金を事実上、引き下げる措置を取りました。

フルゾルのメルへム・ガッサン町長は「レバノン人農家を守るには、シリア人労働者に対して、払える額の賃金を支払うしかない」などと説明しています。

レバノン人農家のエリアス・ミサエドさんは、新型コロナウイルスの影響でブドウの売り上げが激減し、さらには通貨の暴落で肥料などの価格が高騰したことから、日本円でおよそ200万円余りの負債を抱えています。

このままでは経営が立ち行かなくなり、シリア難民の作業員への日々の賃金の支払いも重くのしかかっていることから、町の措置を歓迎しています。

一方、この措置で苦境に立たされているのは、シリア難民のスレイマン・ハッサンさん(32)です。

妻と子ども4人を養うため、農業の日雇い作業員として働いていますが、この措置で収入がおよそ2割減り、日々の食事にも困る生活が続いています。

スレイマンさんは「彼らの国に滞在させてもらっている以上、嫌とは言えませんし、措置に従うしかありません。ただ、子どもは何も分からず食べ物を求めて泣くので、何とかして収入を得る手段を見つけるしかない」と話していました。

UNHCR「コロナで仕事無くなり難民はますます貧困に」

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のグランディ難民高等弁務官はNHKとのインタビューで「難民や国内避難民は、外出制限下で無くなってしまうような日雇いの仕事で生計を立てていることから、新型コロナウイルスでますます貧困に陥ってしまう。保健という側面以上に複雑な問題だ」と述べ、懸念を示しています。

一方、シリア難民と受け入れ国のレバノンの住民との間であつれきが起こっていることについて、グランディ難民高等弁務官は「レバノンでは、シリア難民の90%近くは貧困ラインを下回っているが、自国民に関しても25%に上り、非常に悲劇的な状況だ。難民だけでなく、地元で暮らすレバノンの人たちも支えていくことが大切だ」と述べ、国際社会が難民の受け入れ国を支援していく必要があると訴えました。

過密状態で暮らす難民 迅速なワクチン接種が課題

ギリシャ東部のレスボス島にある難民キャンプでは、今月3日から新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。

ギリシャでは去年12月から医療従事者などへのワクチン接種が始まり、ことし1月には一般の人も接種の対象となりましたが、難民などは含まれていませんでした。

これについて、スイスのNPOは「難民キャンプに住む人たちは過密状態にあり、社会的な距離が保てず、受けられる医療も制限されていて、一般のギリシャ人よりも新型コロナウイルスに感染しやすくなっている」として、ギリシャ政府を非難し、対応の改善を求めていました。

これを受けてギリシャでは、今月3日からレスボス島の難民キャンプで新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まりました。

会場にはワクチンを接種するブースが設けられ、訪れた人に接種が行われていました。

難民支援の国際機関IRC=国際救済委員会によりますと、ギリシャにはおよそ5万人の難民がとどまっているということで、キャンプ内で過密状態で暮らす人たちの感染拡大を抑えるため、ワクチン接種をいかに迅速に進めていくかが課題となっています。

シンボルカラーの青色でライトアップ

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所では「世界難民の日」に合わせて、全国23か所の塔や城などのランドマークを国連のシンボルカラーの青色に照らすライトアップを行っています。

このうち、京都の東寺の五重塔や福島県会津若松市にある鶴ヶ城では、それぞれ幻想的な青色に照らし出されました。

またSNS上では、UNHCRの呼びかけに応じて、「#難民とともに」や「#WithRefugees」といったことばとともに、青色をテーマにした写真や動画を投稿する取り組みが行われ、あじさいや空、紙飛行機などを撮影した投稿が相次ぎました。

さらに、UNHCRの親善大使を務める日本人アーティストのMIYAVIさんは、ツイッター上の動画で「世界中には8000万人を超える紛争や戦争によって故郷を追われた人たちがいます。自分たちも世界的な危機のなかにありますが、世界のどこかにもっともっと過酷な状況で生きている人がいることを考えて、自分たちに何ができるかという議論のきっかけにしていければいいと思います」と語り、難民問題へ理解を求めました。