ことしの「骨太の方針」 菅首相“新型コロナ対策 最優先に”

政府は、ことしの「骨太の方針」を決定し、新型コロナウイルスを踏まえた感染症への対応として、緊急時には、より強力な体制や司令塔のもとで対策を推進することを盛り込みました。
また、財政健全化に向けて、基礎的財政収支を2025年度に黒字化する目標を堅持するものの、新型コロナの経済財政への影響を検証して、目標を再確認するとしています。

政府は18日の臨時閣議で、ことしの経済財政運営と改革の基本方針、「骨太の方針」を決定しました。

この中では、新型コロナウイルスを踏まえた感染症への対応として、緊急時は、より強力な体制や司令塔のもとで対策を推進し、病床や医療人材の確保や、治療薬・ワクチンの速やかな実用化に向けて、実効性のある対策を講じられるよう法的措置を速やかに検討するとしています。

また、「こども庁」を念頭に、子どもに関するさまざまな課題に対応できる行政組織を創設するため、早急に検討に着手するとしています。

一方、財政健全化をめぐっては、2025年度に国と地方をあわせた「基礎的財政収支」を黒字化するとした目標を堅持するとしながらも、今年度内に新型コロナウイルスの経済財政への影響を検証し、結果を踏まえて目標年度を再確認するとしています。

「骨太の方針」の主な内容

ことしの「骨太の方針」の主な内容です。
【新型コロナへの対応】
新型コロナウイルスを踏まえた感染症への対応として、緊急時は、より強力な体制や司令塔のもとで対策を推進するとしています。

そのうえで、今後、感染が短期間に急増する場合は、去年冬の2倍程度の患者数に対応可能な体制に緊急的に切り替えることや、国公立と民間の病院がともに病床を活用したり、都道府県を超えて患者を調整したりする仕組みを 構築することを掲げています。

また、病床や医療人材の確保を、国や自治体が迅速に要請・指示できる仕組みや、治療薬やワクチンを、速やかに実用化するための仕組みなどについて、法的措置を速やかに検討するとしています。

さらに、国と地方の役割分担について、今回感染症対応で直面した課題を踏まえ、法整備を視野に入れつつ検討を進めることも盛り込んでいます。
そして、▽グリーン社会の実現、▽デジタル化の加速、▽活力ある地方づくり、▽子どもを産み育てやすい社会の実現の4つを成長の原動力と位置づけ来年度の予算編成に向け、重点的な資源配分を行うとしています。
【グリーン】
このうち、グリーン社会の実現では、再生可能エネルギーの主力電源化を徹底し、国民負担を抑え、地域との共生を図りながら最大限の導入を促すとともに、全国で少なくとも100か所に「脱炭素先行地域」を設けて重点的に取り組みを進めるなどとしています。

【デジタル】
デジタル化をめぐっては、デジタル庁を核に、すべての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会を構築するとしたうえで、オンライン化されていない行政手続きの大部分を、5年以内にできるものから速やかにオンライン化するとしています。
また、人材の育成に向けて、経済界との協力体制を整え、スキルを評価する基準を作成するとしています。

【地方づくり】
地方の活性化に向けては、政府のファンドを通じて、大企業の人材を地方の中小企業に派遣するため、金融機関や商社などから早期に1万人規模の人材をリストアップすることや、サテライトオフィスの整備や利用促進を進めるとしています。
また、情報通信技術を活用した「スマートシティ」を、2025年度までに、全国に100か所整備し、地方大学を強化する政策パッケージを今年度中に策定するとしています。
【子ども・子育て】
子どもを産み育てやすい社会の実現に向けて「こども庁」を念頭に、子どもに関するさまざまな課題に対応できる行政組織を創設するため、早急に検討に着手するとしています。
また、子どもの貧困の解消を目指すほか子どもをわいせつ行為から守る仕組みの構築を検討することも盛り込んでいます。
【最低賃金】
このほか、最低賃金については、新型コロナウイルスの感染拡大前に引き上げてきた実績を踏まえ、地域間の格差にも配慮しながら、より早期に全国平均で時給1000円とすることを目指して、ことしの引き上げに取り組むとしています。
【人への投資、多様な働き方など】
社会人が大学などで再び学ぶリカレント教育を抜本的に強化するため、企業や受講者、それに大学などへのインセンティブを検討するほか、就職氷河期世代への支援のため、今年度、社会人を対象にしたインターンシップを実施している企業の調査を行うとしています。
また、いわゆる「生理の貧困」など、コロナ禍で影響を受けている女性を支援し、孤独・孤立問題の政策立案にあたってはNPOなどとの対話を推進するとしています。
さらに、多様な働き方の実現に向けて、希望すれば週に3日休める「選択的週休3日制」の導入を促し、普及を図ることも盛り込まれました。
【財政運営】
一方、財政健全化をめぐっては2025年度に国と地方をあわせた『基礎的財政収支』を黒字化するとした目標を堅持するとしながらも、今年度内に新型コロナウイルスの経済財政への影響を検証し、結果を踏まえて目標年度を再確認するとしています。
また、今世紀半ばごろを見据え、将来的な経済社会の在り方などを検討する専門調査会を設置するとしています。

財政健全化目標 堅持でどうなる予算編成

ことしの「骨太の方針」には、財政健全化目標を堅持することが盛り込まれましたが、新型コロナウイルスの影響で財政は一段と悪化していて、来年度予算の編成作業では、経済の下支えだけでなく、財政健全化への改革をいかに進めていくかが問われることになります。

財政健全化目標は、政策に充てる経費を国債などに頼らず、税収などでどれだけ賄えるかを示す「基礎的財政収支」を、国と地方を合わせて2025年度に黒字化することを掲げています。

しかし、新型コロナウイルスへの対応で歳出が大幅に膨らむとともに税収は落ち込んで財政はさらに悪化していて、目標達成の道筋は一段と険しくなっています。

内閣府がことし1月に示した最新の試算では、
▼今年度が実質で年間4%程度、
▼来年度は3.6%程度など高めの経済成長が続く想定でも、
2025年度の「基礎的財政収支」は7兆3000億円の赤字で、
黒字化の実現は目標より4年遅い2029年度にずれ込むとしています。

こうした厳しい状況を踏まえて、「骨太の方針」には、今年度中に新型コロナウイルスの経済財政への影響を検証し、目標年度を再確認することも盛り込まれました。

検証の結果によっては、2025年度を堅持した「基礎的財政収支」の黒字化の目標を先延ばしする可能性もあります。

「骨太の方針」では、来年度の予算編成について、「経済の下支え・回復に最優先で取り組む」とする一方で、「歳出・歳入両面の改革を着実に実行していく」としています。

経済の下支えだけでなく、財政健全化への改革をいかに進めていくかが問われることになります。

「成長戦略」の内容は

18日は成長戦略も決定され、税制によって脱炭素化の効果が高い製品を生産する設備投資を促すことや、最先端の半導体を生産する拠点の国内立地を推進し、確実な供給体制を構築することなどを盛り込みました。
主な内容です。

【デジタル】
徹底した国民目線で、マイナンバー制度の専用サイト「マイナポータル」の抜本的な改善を進め、各府省庁のウェブサイトのデザインや内容の標準化、統一化を図るとしています。
また、検査員が行っている自動車の完成検査のうち、可能な部分をAI=人工知能などで行えるように今年度中に制度改正を行うことや、建物の外壁調査を、来年度以降、赤外線装置を搭載したドローンで行えるようにするとしています。

【グリーン】
2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向けて、2兆円の基金を活用するほか、税制により、脱炭素化の効果が高い製品の生産設備への投資を促すとともに、投資を誘発するため、規制を総点検するなどとしています。
そして、洋上風力発電は2040年までに発電能力を3000万から4500万キロワットまで拡大するなどの目標を盛り込んでいます。
また、二酸化炭素の排出量に応じて企業などにコストを負担してもらう「カーボンプライシング」については、産業の競争力強化やイノベーション、投資の促進につながるよう、ちゅうちょなく取り組むとしています。

【人への投資】
多様で新しい働き方に対応し、兼業・副業の選択肢の提供や、短時間勤務など多様な正社員制度の導入を促すとしています。
また、社会人が大学などで再び学ぶリカレント教育の推進により、産業構造の転換に伴う「失業なき労働移動」を支援する一方、現状では、働くことができる時間に制約がある人が多いとして、非正規で働く人を対象に、簡単なトレーニングで行える事務職などに移れるシステムを検討するとしています。

【経済安全保障】
半導体、AI、量子、5Gなど、軍事分野に転用可能な技術を念頭に、今年度中に、重要技術を特定するための調査分析を始めるなど、体制を整備することなどを盛り込んでいます。
また、デジタル社会を支える、最先端の半導体について、生産拠点の国内立地を推進し、確実な供給体制を構築するとしています。
さらに、データ保護や災害への強じん性を高めるため、インターネットの接続サービスなどを行う「データセンター」について、新たに、最大5か所程度の中核拠点と最大10か所程度の地方拠点の整備を推進するとしています。

【スタートアップ支援】
創業間もないスタートアップ企業の資金調達を後押しするため、企業がSPACと呼ばれる特別会社と合併して上場する制度の整備を検討することも盛り込みました。

【ロボットなど】
自動配送ロボットや電動キックボードの公道での走行の実現に向け、今年度のできるだけ早期に、関連法案を提出するとしています。
また、「空飛ぶクルマ」の2023年の事業開始に向けて、機体の安全基準や操縦者の技能の基準など制度の整備を進めるとしています。

経済安全保障の確保に向けて

今回の成長戦略には、アメリカと中国の対立などを背景に経済安全保障の確保に向けた取り組みが新たな柱として盛り込まれました。

この中では、半導体やAI=人工知能、5Gなど、軍事転用が可能な技術を挙げて、「コロナ禍と米中対立によってグローバルなサプライチェーン=供給網のぜい弱性や、国家・地域間の相互依存リスクが顕在化した」と指摘しました。

そのうえで、「技術を適切に守ると同時に従来とは一線を画する措置を講じ自律性の確保と優位性の獲得を実現する必要がある」として経済安全保障の確保の重要性を強調しています。

特に、各国が巨額の費用を投じて囲い込みを図っている先端半導体については、他の国に匹敵する支援を行い、生産拠点の国内への誘致を進めて確実な供給体制の構築を目指す姿勢を打ち出しました。

また、セキュリティー上、重要なデータの管理や運用を他国のデータセンターに依存することを避けるため、地方も含めて国内での整備を進めることにしています。

このほか、将来の自動車産業を左右する電池の技術開発や生産のための大規模な拠点の整備、それに、自動車などの生産に欠かせない希少な資源、レアアースの調達の多角化なども進めるとしています。

経済産業省の「グリーン成長戦略」も

18日閣議決定された成長戦略と合わせて、経済産業省は、「グリーン成長戦略」を決定しました。

政府が掲げる2050年の脱炭素社会の実現に向けて、14の分野で具体的な目標を設定した去年12月段階の計画を改定したものです。

この中では、自動車の分野で、EV=電気自動車やハイブリッド車、燃料電池車などの普及を支えるインフラの整備目標を新たに盛り込みました。

2030年までに▽EV用の充電スタンドを今の5倍にあたる15万基に増やし、このうち3万基は短時間で充電できる「急速充電器」とし、ガソリン車並みの利便性を実現することを掲げています。

さらに、▽燃料電池車用の水素ステーションを今のおよそ6倍にあたる1000基程度に増やすとともに、規制改革にも取り組むとしています。

また、2035年までにすべての乗用車の新車を電動車にするという従来の目標に加えて、8トン未満のトラックなど小型商用車についても、2030年までに新車に占める電動車の割合を20%から30%に、2040年までに電動車と、水素などでつくる合成燃料を使う車を合わせて100%にします。

8トン以上の大型商用車については、具体的な目標の設定は見送り、普及に向けた技術開発を進めるとしました。

船舶の分野では、燃料電池や蓄電池を動力源とする二酸化炭素を排出しない船舶の商業運航を、去年12月に定めた目標を3年、前倒しして2025年までに実現するとしています。
一方、ほかの多くの分野では去年12月の目標が維持され、▽洋上風力発電は2040年までに発電能力を大幅に引き上げて3000万から4500万キロワットまで拡大し、▽水素の分野では2050年の利用量を今の10倍にあたる2000万トン程度にまで増やすなどとしています。

菅首相「スピーディーに実現を」

菅総理大臣は、臨時閣議に先立って開かれた、経済財政諮問会議と成長戦略会議の合同会議で「まずは、新型コロナ対策に最優先で取り組みながら、特に、グリーン、デジタル、活力ある地方づくり、少子化対策の4つの課題に重点的な投資を行い、長年の課題に答えを出し、力強い成長を目指していく」と述べました。

また、財政健全化をめぐり「成長志向の政策を進めながら『経済あっての財政』の考え方で 財政健全化の目標を堅持し、これまでの歳出改革努力を続けていく」と述べました。

そして、「きょう示した政策を今後の予算編成や税制改正で具体化し、スピーディーに実現していく」と述べました。

麻生副総理兼財務相「目標堅持も状況は厳しい」

ことしの「骨太の方針」で、国と地方の「基礎的財政収支」を黒字化する目標年度を再確認するとしたことについて、麻生副総理兼財務大臣は臨時閣議のあとの記者会見で「2025年度の基礎的財政収支の黒字化目標は今回、堅持したが、財政に影響があるのは確か。新型コロナの影響があとどの程度続くのかに非常に大きな関係があるが、状況が厳しくなっているのは事実だと思う。少子高齢化の問題に加えて、社会保障の受益と負担のバランスが崩れていること、それに出生率も下がっている。年度内に再検討したうえで、いずれにしても経済再生と財政健全化という2つの目標は堅持していく」と述べ、歳出と歳入の改革を進めていく考えを改めて強調しました。

西村経済再生相「長年の宿題返しを一気にやる」

西村経済再生担当大臣は、記者会見で「グリーン、デジタル、活力ある地方づくり、少子化対策といった分野に、民間企業が重点的に投資を行い大胆なイノベーションを引き出せるよう、政府としてもさまざまな政策に取り組む。コロナを機に、これまでできなかった長年の宿題返しを一気にやる」と述べました。

そのうえで、財政運営について「今は、新型コロナ対応に全力を挙げるときで、国民の命と暮らしを守るため、必要な財政支出はちゅうちょなく行う。経済を再生させながら成長させることで税収も戻ってくるので、中長期的に財政健全化をしっかり図っていく。のちの世代に負担を先送りしないことが大事だ」と述べました。

また財政健全化目標について、新型コロナウイルスの影響を検証したうえで、再確認するとしたことについて、西村経済再生担当大臣は「海外経済が好調なので、輸出と生産はコロナ前に戻ってきており、民需主導の経済成長を期待しているが、足もとの緊急事態宣言やまん延防止等重点措置で特に消費面で厳しい状況にある。今後どんな形の経済回復がみられるのか、状況をしっかり見極めていきたい」と述べました。