きょうイラン大統領選 反米の保守強硬派のライシ師 優勢な状況

中東のイランで18日、大統領選挙の投票が行われます。反米の保守強硬派のライシ師が優勢な状況で、核合意を結ぶなど欧米との対話路線をとった、今のロウハニ政権の外交方針が転換されるという見通しが強まっています。

ロウハニ政権支えた穏健派 改革派に逆風選挙

任期満了に伴うイランの大統領選挙には7人が立候補していましたが、辞退者が相次ぎ、最終盤は反米の保守強硬派で司法府代表のライシ師や、改革派のヘンマティ前中央銀行総裁など4人の争いとなっています。

イランではアメリカのトランプ前政権が3年前に核合意から離脱し、制裁を再開させて以降、通貨が暴落するなど経済の悪化が深刻となっていて、ロウハニ政権を支えた穏健派や改革派にとっては逆風の選挙となりました。

そのうえ、ロウハニ政権を継承する立場の有力候補が事前の審査で相次いで失格となり、知名度の高いイスラム法学者のライシ師が世論調査で大きくリードし、優勢な状況となっています。

ライシ師は選挙戦で、「制裁の解除のために一刻もむだにしない」と述べて、現在バイデン政権との間で立て直しに向けた間接協議が行われている核合意を、維持する意向を示しています。

一方、過度な要求には応じないという考えも強調し、強い姿勢でアメリカに臨むとみられます。

ライシ師が当選すれば、8年ぶりとなる反米・保守強硬派の政権が誕生することになり、欧米との対話路線をとったロウハニ政権の外交方針が転換される見通しが強まっています。

一方、有力候補が失格となり、有権者の選択肢が限られた中で、投票を棄権する人が増えると予想されていて、現在のイスラム体制の威信に関わる投票率にも関心が集まっています。

ライシ師は60歳 イスラム法学者

反米の保守強硬派のライシ師は60歳。

イスラム教シーア派の聖地がある、東部マシュハド出身のイスラム法学者です。

イスラム体制の維持で重要な役割を果たしている司法府で検事総長などの要職を歴任したあと、2019年には最高指導者のハメネイ師に任命され、司法府代表に就任しました。

イスラム教の預言者ムハンマドの子孫にのみ着用が認められる黒いターバンを身につけていて、聖地マシュハドの宗教施設の管理責任者を務めていた時期もあります。

知名度の高いイスラム法学者として、宗教界をはじめとした保守強硬派から支持を集めていて、ことし82歳となる最高指導者ハメネイ師の後継候補の1人とも言われています。

前回、4年前の大統領選挙にも立候補しましたが、ロウハニ大統領が欧米などと核合意を結び、成果とする中で再選を果たし、ライシ師は敗れました。

ただその後、トランプ前政権が核合意から離脱して制裁を再開させる中でイラン経済は苦境に陥り、今回の選挙戦でライシ師は、ロウハニ政権が物価の高騰などをもたらしたとして厳しく批判しました。

現在、バイデン政権との間で立て直しに向けた間接協議が行われている核合意についてライシ師は「制裁の解除のために一刻もむだにしない」として、経済の回復に必要な役割を果たすかぎり、合意を維持する意向です。

そのうえで、「核合意をアメリカによる恐喝の手段にはさせない」として、アメリカからの過度な要求には応じない立場も示しています。

一方アメリカ政府は、司法府の幹部としてライシ師が1988年に、司法手続きを経ずに多くの政治犯に死刑の執行を命じたほか、2009年には反政府デモの弾圧に関わったとして、制裁対象にしています。

専門家 ライシ師当選すれば「欧米との隔たり拡大も」

イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授は選挙の情勢について、保守強硬派のライシ師の優位は揺るがないとしたうえで、事前の資格審査で有力な穏健派・改革派の候補者が相次いで失格になったことについて、「ライシ師を何が何でも勝たせたいという思惑を感じる。最高指導者のハメネイ師は82歳で、どこかで地位を引き継ぐことになる。ライシ師は2017年の選挙で敗れており、今回の大統領選挙に勝って、最高指導者への推挙の条件を整えようとしている。そのためライシ師の勝利を危うくしかねない相手は立候補の資格を認めなかったのではないか」と分析しました。

そのうえで、「誰が勝つかというより、そもそもこの選挙に正当性はあるのか、もっと言えば、体制の正統性が揺らぐということになりかねない」として、多くの有権者が投票を棄権し投票率が大きく下がれば、イスラム体制の正統性が問われる事態になりかねないとしています。

一方、保守強硬派のライシ師が大統領に就いた場合の外交については、「イランとしては核合意を通じて制裁を解除させたいという思いはある」と述べ、現在、アメリカとの間で進められている核合意の立て直しに向けた間接協議が即座に中断することはないとしています。

そのうえで、「ライシ師は司法府で野党や反政府勢力を厳しく取り締まったことから、欧米諸国からは大きなバツがついている。イランとの間で隔たりはさらに大きくなる」として、人権をめぐる問題でアメリカの制裁対象にもなっているライシ師が大統領に就けば、両国の関係は悪化することになると指摘しました。

穏健派や改革派の有力候補 相次いで失格に

今回の選挙では、候補者の事前の審査で穏健派や改革派の有力候補が相次いで失格となり、選挙戦に決定的な影響を与えました。

イランの選挙では、イスラム法学者などでつくる「護憲評議会」が「イスラム体制に忠実か」などの条件を下に候補者の資格審査を行います。

今回は592人が立候補を届け出たのに対して認められたのは7人で、ロウハニ政権に近いラリジャニ前議長や、政権を支えてきたジャハンギリ副大統領といった改革派や穏健派の有力候補はいずれも理由が明かされないまま失格となりました。
ロウハニ大統領は、かつてなく厳しい審査となったことについて「競争なき選挙は終わりだ」と述べて、異例の批判を展開しました。

また、イランのメディアも、保守強硬派のライシ師が圧倒的に有利な構図となったことを「ライバルなきライシ」と伝えています。

SNS上では、投票のボイコットを呼びかける人もいて、テヘランに暮らす33歳の男性は「今回は選択肢がなく、選挙制度にも問題があるので投票には行きません。誰が選ばれようが、希望はありません」と話し、不満をあらわにしていました。

審査を行った護憲評議会は、最高指導者ハメネイ師が強い影響力を持つ組織で、イランの選挙に詳しい外交関係者は「ライシ師を勝たせるための絞り込みにみえる。最高指導者はすでに80歳を超えて高齢であることを考慮するとライシ師を後継者とするための布石ではないか」と話しています。

有権者「出来レースでは国民のためにならない」

今回のイラン大統領選挙では、事前の資格審査で複数の有力候補が失格となり、保守強硬派のライシ師が世論調査で大きくリードしています。

有権者の関心は低く、投票の棄権を決めた人からは選挙制度への不満や政治への不信感も聞かれました。

このうち、首都テヘランにある大学の近くで本屋を営むパルバズさん(43)は、今回は投票に行かないと決めていて「意中の候補が事前審査で失格となり、投票したい人が誰もいません。みな口約束ばかりです」と話していました。

そのうえで「選挙の結果ははじめから決まっています。候補の能力に基づかない出来レースでは国民のためにはならず、いい将来など望めません」と失望をあらわにしていました。

また、本屋に訪れる学生たちの多くが選挙には無関心だとしたうえで、「経済状況の悪化で若い人たちは結婚や家を持つ夢さえ持てません。国のかじ取りを誤れば、さらに状況が悪化し、将来への希望はなくなります」と述べ、国の行く末に強い不安を抱いていました。

米イラン関係 最近の経緯

【世界が歓迎した核合意】
核合意は、イランが核開発を制限する見返りに、国際社会が制裁を解除するもので、2015年にイランと欧米、中国、ロシアとの間で結ばれました。

イランに核兵器を持たせないことを目的とした合意で、国際社会から歓迎する声があがりました。

【トランプ政権発足で合意停止】
その後、アメリカでトランプ政権が発足すると内容が不十分だとして、2018年、合意から離脱しイランに対する制裁を再開させ、イラン産原油を禁輸としたり、イランとの金融取り引きを禁止したりしました。

ヨーロッパ含め各国がアメリカの制裁対象になることをおそれてイランとのビジネスを控えたためイラン経済は、現地通貨の価値が、この4年間に6分に1に暴落するなど、深刻な影響を受けています。

【イラン側も対抗措置相次ぐ】
この制裁への対抗措置として、イランは核合意を破る形でウランの濃縮活動の強化などに乗り出しています。

ウランの濃縮度は、上限の3.67%を超えて、核兵器の製造に近づく60%に達しているほか、IAEA=国際原子力機関による抜き打ち査察などの受け入れ停止も表明しています。

【米イラン協議再開】
ことし発足したバイデン政権は、トランプ前政権によるこれまでの強硬な対イラン政策を見直し、イラン核合意への復帰を目指しています。

このためアメリカとイランは、4月上旬から、オーストリアの首都ウィーンで、EU=ヨーロッパ連合などを介し、核合意の立て直しに向けた間接的な協議を行っています。

ただイラン側が、トランプ前政権時代に科されたすべての制裁の解除を求めているのに対し、アメリカ側は、「テロ支援」や「人権侵害」の名目で科した数百の制裁については解除しない方針を示し、双方の隔たりは埋まっていません。

イランの大統領選挙で反米・保守強硬派のライシ師が優勢となる中、各国は当初、選挙前の合意を目指していましたが隔たりが埋まらない中で協議は長期化しています。

イラン大統領 最高指導者に次ぐ第2の権力者

イランは1979年のイスラム革命後、最高指導者を頂点としたイスラム法学者が統治する「政教一致」の体制を維持してきました。

大統領は、憲法で最高指導者に次ぐ権限を与えられ、第2の権力者と位置づけられています。

18歳以上の有権者の直接投票で選ばれ、任期は4年で、連続2期8年まで務めることができます。

大統領は行政府の長として国の予算を預かり経済や外交政策を立案しますが、国政全般における最終決定権は最高指導者が握っており、特に、核開発や対米交渉といった安全保障上の重要課題において、その権限は限定的とされています。

それでも歴代の大統領の政治的な立場は敵対するアメリカとの関係に影響を及ぼし、イランを取り巻く環境を大きく変えてきました。

1997年に就任した改革派のハタミ大統領は、「文明の対話」を提唱し、イスラム革命以降、国交が断絶した状況が続くアメリカとの関係改善を模索しました。

しかし、2005年に就任した保守強硬派のアフマディネジャド大統領は、核開発を推し進めるなどしたため、アメリカと鋭く対立し、制裁を科され国際社会で孤立を深めました。

その後、穏健派と改革派に支持され2013年に就任したロウハニ大統領は、再び対話路線に転じ、2015年にはアメリカなどと核合意を交わし、国際社会との間で経済面でのつながりを深めました。

ただ、アメリカのトランプ前政権が2018年に核合意から離脱し制裁を発動させると外国企業の撤退が相次ぎ、イランを取り巻く環境は再び厳しさを増しています。

茂木外相「中東地域の緊張緩和に向け 外交努力を継続」

茂木外務大臣は、閣議のあとの記者会見で「イランの大統領選挙は注視している。どの候補が当選するにしても日本とイランの2国間関係の一層の強化に努めるとともに、イランとの伝統的な友好関係を生かし、中東地域の緊張緩和と情勢の安定化に向けた積極的な外交努力を継続していきたい」と述べました。