河井克行元法相 きょう判決 刑の重さ どう判断するかが焦点

河井克行元法務大臣が、おととしの参議院選挙で地元議員など100人に、合わせて2900万円余りを配ったとして、公職選挙法違反の買収の罪に問われた裁判で、18日に判決が言い渡されます。元大臣は、起訴された内容の大半を認めていて、裁判所が刑の重さについて、どう判断するかが焦点となります。

元法務大臣の河井克行被告(58)は、妻の案里元参議院議員(47)が初当選した参議院選挙をめぐって、おととし3月下旬から8月上旬にかけて、広島の地元議員や後援会のメンバーなど100人に、合わせて2900万円余りを配ったとして、公職選挙法違反の買収の罪に問われています。

裁判は、去年8月から56回にわたって開かれ、買収目的があったかどうかが大きな争点となりました。

元大臣は当初、無罪を主張していましたが、ことし3月の被告人質問で「全般的に選挙買収を争うことはしない」と主張を一転させ、起訴された内容の大半を認めました。

そのうえで「一刻も早くふるさとの土を踏ませていただき、謝罪させていただきたい」と執行猶予を求めました。

一方、検察は「犯行は前代未聞で、選挙に対する信頼を失墜させた」として懲役4年を求刑し、実刑にすべきだと主張しています。

法務大臣経験者が買収の罪に問われた極めて異例の事件で、判決では実刑が言い渡されるか、執行猶予が付くか、刑の重さが焦点となります。

判決は午後1時半に東京地方裁判所で言い渡されます。

刑の重さ 焦点に

河井元大臣が起訴内容の大半を認めたため、判決では実刑が言い渡されるか、執行猶予が付くか、刑の重さが焦点となります。

検察は、懲役4年を求刑し「厳罰にすべきだ。矯正施設内で処遇することが必須だ」として、実刑にすべきだと主張しました。

一方、弁護側は「案里元議員を当選させたい気持ちを否定できない点で、買収罪の成立は争わないが、現金を提供したのは党勢拡大などが主な目的だ」として、執行猶予を求めました。

買収の罪で過去に実刑が言い渡された判決は少なく、判決では、
▽現金を提供した100人のうち、何人が買収と認められるかや、
▽元大臣が陣営を取りしきる立場の「総括主宰者」だったと認められるかが、刑の重さに影響するとみられます。

争点と双方の主張

争点1【現金提供は買収目的か】

裁判の最大の争点は、票の取りまとめを依頼する買収目的があったかどうかです。

公職選挙法では、候補者を当選させる目的で票の取りまとめなどを依頼して現金を渡す買収は禁じられていますが、党勢拡大などを目的に政治家の政治団体などに寄付することは認められています。

河井元大臣は、ことし3月の被告人質問で「妻の当選を得ようという気持ちがなかったとは言えない」と述べて、起訴内容の大半を認めました。

一方で「私の側についてもらう動機付けにするためだった」とも述べ、買収ではなく、みずからの政治基盤を固めるのが主な目的だったと主張しました。

また、現金提供先のうち、選挙スタッフや後援会メンバー、地元議員の10人については、買収目的はなかったと主張しました。

これに対し、検察は「案里元議員の当選を果たすため、まさに票を金で買おうとした。身勝手極まりない」として、買収目的があったと主張しました。

検察は、起訴内容では100人に対して128回、合わせて2900万円余りの現金が買収目的で配られたとしています。

判決で、どこまでが買収と判断されるかが焦点です。

争点2【総括主宰者か】

河井元大臣が案里元議員の陣営を取りしきる「総括主宰者」だったと認められるかも大きな争点です。

買収の罪の刑の重さは、
▽3年以下の懲役または禁錮、もしくは、
▽50万円以下の罰金と定められていますが、
「総括主宰者」と認められた場合、
▽4年以下の懲役または禁錮、もしくは、
▽100万円以下の罰金で、
刑の重さに影響します。

河井元大臣は、被告人質問で総括主宰者だったかどうかについて「評価は裁判所の判断にお任せしたい」と述べました。

弁護側は「実際は選挙運動を推進する中心的存在とは言い難い」として、裁判所に慎重な判断を求めました。

これに対し、検察は「選挙事務所のスタッフの選定や役割の決定を行い、運動費用の支払い状況も把握し、多額の支払いについては事前に了承を求めさせた」として、元大臣が総括主宰者の立場にあったと主張しました。

争点3【案里元議員との共謀】

案里元議員との共謀が成立するかも争点の一つです。

案里元議員の判決では共謀が認められ、すでに確定しています。

元大臣は、共謀は事実に反するとして、案里元議員が現金を渡した地元議員4人については無罪を主張しました。

一方、検察は元大臣のパソコンから押収された現金提供先のリストを、2人の共謀を示す有力な証拠だと位置づけ「元大臣が作成・管理し、2人による現金提供の実績を正確に記載したものだ。共謀が成立していたことは明らかだ」と主張しました。

河井元大臣の法廷での発言

河井元大臣の法廷での発言をまとめました。

【当初は無罪主張】

去年8月25日の初公判で、河井元大臣は「河井案里に対する投票や票の取りまとめなどの選挙運動を依頼する趣旨で提供したものではありません」と述べて、無罪を主張しました。

10月22日に、案里元議員の裁判の証人として出廷した際には、河井元大臣は「私自身も刑事訴追され被告人という立場のため、必要なことは自身の裁判で申し上げたい」と述べて、ほとんどの証言を拒否しました。

【被告人質問で起訴内容ほぼ認める】

3月23日に行われた被告人質問の初日には「河井案里と共謀して選挙買収を行った件については全く事実に反しますので無罪を主張します。また、事務所スタッフに差し上げたお金も選挙買収という事実はありません」と述べ、案里元議員との共謀や事務所スタッフへの現金提供については無罪を主張しました。

その一方で「一人一人に固有の理由、趣旨、事情があり、あからさまに投票依頼したことはありませんが、自民党が2議席を獲得するという党の大方針の実現のために、河井案里の当選を得たいという気持ちが全く無かったとは言えず、否定することはできないと考えています。すべてが買収の目的では断じてありませんが、全般的に、選挙買収を争うことはいたしません」と述べて、これまでの無罪主張から一転、起訴された内容の大半を認めました。

主張を一転させた心境の変化については「保釈されたあと、親身になってご指導していただいている神父様から電話をいただいた。最後に導いていただいたのは『最終的には神の前で誠実であることが第一で、自分の内面に誠実に向き合ってください』という、神父様のひと言でした」と述べました。

そして、弁護士から政治家としての進退について問われた河井元大臣は、15秒ほど沈黙したのちに「衆議院議員を辞することとしました」と、法廷で辞意を表明し「みずからが犯した罪、いかなる処罰であっても引き受ける覚悟です」と述べました。

【現金提供の目的は地盤培養】

被告人質問の2日目の3月24日には、現金を配ることになった背景について「広島に戻ると『本当に自分はひとりぼっちなんだな』と思っていました。地元議員らへの献金は、人間関係を作り、自民党広島県連会長になるための布石だった」と述べました。

地元議員らへの現金提供の目的について「案里の選挙を有利にしたい気持ちもありましたが、あくまでも主たる目的ではなく、私の孤立感、孤独感を無くしたいという思いでした」と主張しました。

【買収資金は手持ち資金から】

被告人質問6日目の4月5日には、地元議員らに配った資金の捻出方法について「すべて私自身の手持ちにあった資金から支出しました。議員歳費などをやりくりするなどして、ためていました」と説明しました。

自民党本部から振り込まれた、合わせて1億5000万円については、自民党の機関紙を配る経費などで使い切ったと説明し「党本部の厳格な監査が行われることは、私もよくわかっていたので、買収資金を政党交付金からまかなおうという気持ちは全くありませんでした」と否定しました。

【政界引退表明】

被告人質問の最後には「一瞬でも買収という思いが心の中に浮かんでしまった、そういう行動を取ってしまったからには、私は、もはや有権者から審判を頂戴する資格の無い人間です。生涯にわたって選挙に出ることはありません」と述べ、政界引退を表明しました。

【謝罪】

5月18日の最終陳述では「私がしたことは、いかなる理由があろうと決して許されず、政治不信を招き、心からおわびしたい」と改めて謝罪しました。

そのうえで「許されるのであれば、一刻も早くふるさとの土を踏ませていただき、謝罪させていただきたい。政治家、河井克行として、最後の責任を果たしたいのです」と述べました。

事件の経緯

法務行政のトップだった河井元法務大臣が、買収の罪に問われた事件の経緯です。

妻の河井案里元参議院議員の陣営の選挙違反疑惑は、おととし10月、いわゆるウグイス嬢に法律の規定を上回る報酬を支払っていたと週刊誌で報じられたことがきっかけでした。

報道を受け、河井克行元大臣は、法務大臣就任からわずか50日で辞任しました。

去年1月、広島地方検察庁が、公職選挙法違反の疑いで広島市内の河井夫妻の事務所や自宅マンションなどを捜索。

3月には、ウグイス嬢に違法な報酬を支払ったとして、夫妻の公設秘書らが公職選挙法違反の運動員買収の疑いで、広島地検に逮捕されました。

ちょうど1年前の去年6月18日、東京地検特捜部が河井夫妻を逮捕し、河井元大臣について、合わせて100人に2900万円余りを配ったとして、公職選挙法違反の買収の罪で起訴しました。

裁判は去年8月から始まり、審理を迅速に進める「百日裁判」で行われました。

初公判で元大臣は「現金は票の取りまとめを依頼する趣旨で提供したわけではない」と述べ、案里元議員も「当選を目的として現金を渡したことはない」と述べて、いずれも無罪を主張しました。

2人の審理は途中まで一緒に進められましたが、去年9月に元大臣が弁護団を解任し、審理が中断したことを受けて、裁判は分離されました。

先に審理が進んだ案里元議員の裁判では、東京地方裁判所が、ことし1月21日、地元議員4人に現金を渡したのは買収が目的だったと認め、懲役1年4か月、執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。

判決を受けて、案里元議員は参議院議員を辞職。

有罪判決が確定し、案里元議員は参議院選挙の当選が無効になり、5年間、すべての選挙で立候補が禁止されました。

一方、元大臣の裁判は、その後も続き、証人尋問が行われた人数は50人余りに上り、広島地裁と東京地裁を映像と音声でつなぐ「ビデオリンク方式」による証人尋問も繰り返し行われる異例の裁判となりました。

そして、3月23日の被告人質問の初日、元大臣は「すべてが買収の目的では断じてありませんが、全般的に、選挙買収を争うことはいたしません」と、これまでの無罪主張を一転させ、起訴された内容の大半を認めました。

さらに、法廷で議員辞職を表明し、ことし4月に辞職が認められました。

元大臣の裁判は56回にわたって審理が行われ、ようやく判決を迎えました。

元特捜部検事の弁護士「すべて買収と認められれば実刑も」

判決の見通しについて、元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は「起訴内容すべてが買収と認められれば、配った金額や人数からみて実刑になるとみられる。一方で、買収ではないと判断される部分があると、買収金額が減っていくため、どの程度までが買収と認められるかが、実刑か執行猶予かの分かれ目となる」と話しています。

また、河井元大臣が買収目的があったことを認めながらも、みずからの政治基盤を強固にすることが主な目的だったと主張していることについて、高井弁護士は「選挙は民主主義の基本であり、民主主義のための政治活動は自由に行われなければならないという側面もある。選挙運動をする人だけでなく、有権者から見ても、ここから先は選挙違反だから自分も関わってはいけないと、はっきりとわかるような目安や考え方が示されるか注目したい」と話しています。

現金受け取った議員の処分は

河井元大臣から現金を受け取った人のうち、現在も33人が地方議員を務めていて、買収の罪に問われて罰金刑以上の有罪判決が確定すれば、公民権が停止され、失職する可能性があります。

今後、検察の処分が焦点となります。

公職選挙法の規定では、買収は現金を受け取った側も罪に問われ、罰金刑以上の有罪判決が確定すれば公民権が停止され、議員であれば失職することになります。

河井元大臣が現金を配った100人のうち、40人が市長や町長、地方議員といった政治家でした。

また、選挙スタッフだった1人がその後、選挙に当選し、現在、地方議員を務めています。

これらの合わせて41人のうち一部は現金の受け取りが発覚したあとに辞職していて、現在は33人が地方議員を務めていますが、罰金刑以上の有罪とされると、失職することになります。

しかし、検察は現金を受け取った側の100人については、これまでに刑事処分を行っていません。

市民からの告発状が広島地方検察庁に出され、東京地検が受理していて、今後、どのような判断を示すのかが焦点となります。

検察が地元議員らの処分を行わずに元大臣の裁判を先に進めたことについて、元大臣の弁護団は「検察が現金を受け取った被買収者の処分を保留したままにして、有利な証言を得ようとしているのは明らかで、違法性の高い捜査手法だ」と批判しています。

そのうえで、裁判の打ち切りを求めるとともに、地元議員らの証言の信用性について慎重に判断すべきだと主張しています。