社内チャット 上司にいいね!で怒られたって…

社内チャット 上司にいいね!で怒られたって…
社内チャットの上司の書き込みに『いいね』は、「あり」か「なし」か。

コロナで、オンラインでの仕事のやり取りが増える中、親指を立てた『いいね』マークの使い方がSNSで議論になっています。

「上司に『いいね』とはいかがなものか」
「『いいね』してもいいですか?と電話確認が必要そう」

これでは気軽に『いいね』なんて、できません。
どうすればいいか、調べてみました。

(ネットワーク報道部 記者 野田綾 林田健太 秋元宏美)

『いいね』で怒られた

「『いいね』したら説教され、電話して謝りなさいと言われた」

今月、ツイッターでこうつぶやいた33歳の男性。

ことし2月、『いいね』の使い方で、上司から思わぬ叱責を受けたといいます。

社内の10人ほどのメンバーがオンラインのチャットを使って仕事のやり取りをしていたときのこと。

ある上司が部下の1人に対して、仕事上の注意を書き込みました。

これに男性は『いいね』で反応。

「書き込みをみました。自分も気をつけます」

そんなつもりで反応しただけでした。ところが。
男性
「50代の別の上司から電話がかかってきて、ああいう書き込みに、『いいね』はダメだろうと。ちゃんと電話で書き込みをした上司に謝罪しろといわれました」
そもそも男性にとって、仕事のやり取りで使う『いいね』は「確認しました」という意味です。

決して相手を軽んじているわけではないといいます。

また、男性の周りでも多くの人たちがこうした意味で『いいね』を使っています。

コロナ禍でオンラインでのやり取りが中心となって1年以上がたちました。

しかし、年の離れた上司にはこうした考えが、なかなか分かってもらえないと嘆きます。
男性
「時代についていけない人たちがいるんだなという感じで、何度説明しても分かってくれません。はなから否定的で、経験則でものを言う。新しいことを受け入れてほしいし、そのほうがよいコミュニケーションがとれると思うんです」

『いいね』はいいけど『ハート』は…

そういえば、私も上司に気軽に『いいね』押していたなあ。

これまで特に注意されていないけれど、本当は快く思っていなかったりして…。

よし、悩んでいてもしかたがない。

この機会に本音を聞いてみよう。

所属しているネットワーク報道部の上司(=デスク)3人に恐る恐る、聞いてみました。

話を聞いたのはこの3人。
1.気象・災害が専門、加藤デスク(40代)
2.柔道ひとすじ、記者を束ねる吉沢デスク(50代)
3.わが部のトップ、田中部長(50代)

Q『いいね』を部下から押されると気になりますか?

加藤デスク
「自分もふだんからよく使うし、気にしたことないよね」

吉沢デスク
「全然気にしないよ。チャット機能ってそういう気軽な手段でしょ」

田中部長
「私も上下関係なく使うし、『いいね』ももらいますよ」
ほっと胸をなで下ろしました。

しかし、何か視線を感じる…。

視線の主は7月からネットワーク報道部に加わる関デスク(40代)。

やり取りを聞いていて、何か言いたいことがあるようです。
関デスク
「この前、記者と長い時間かけてある企画についてやり取りしていて。その大詰めの最終確認のとき、夜遅くなりそうだったから“もうきょうは大丈夫だよ、また明日、直したものを見ておいてね”と送ったんです。そしたら『いいね』だけ返ってきて…」
相づちを打ちながら、その記者の気持ちになって、冷や汗が出てきました。
関デスク
「一緒に頑張ってきたのに、最後『いいね』だけかよって(笑)それから自分自身も『いいね』の使い方を意識しようと思うようになったね」
部下からの『いいね』を気にしないと答えた3人のデスクも、自分が『いいね』するときには、気を使うといいます。
吉沢デスク
「自分と年齢の差が5歳前後だと気にせず使うんだけど、10歳とか離れた目上の方とかにはちょっと気にするなあ。相手から長文のチャットが来たときは、こちらもきちんと文章で返すようにしているね」
さらに、上司ならではのこんな悩みも。
加藤デスク
「『いいね』だけ返ってくると、きちんと伝わっているかなと不安になる。もしかしたら“本当は納得していないけど別に大丈夫です”という意味で『いいね』しているかもしれないし…」

田中部長
「返信が返ってこずに『いいね』だけ押された形になると、返答が難しかったのかなとか、相手が何を考えていたのか気になってしまうことはありますよね」
『いいね』を押されることは気にしないけれども、その『いいね』の裏にどんな思いがあるのかを意識しているそうです。

なんだかんだ言って、実は『いいね』を気にしているようです。

『ハート』は使わない

さらに3人の上司が口をそろえて、自分は使わないというマークがありました。

ステキを意味する『ハート』です。
加藤デスク
「『ハート』だけは、誤解されたり、相手を不快な気持ちにさせたりするかもしれないから使わないようにしているね」

吉沢デスク
「『ハート』は使わないなあ。セクハラにもつながりかねないしね。もらうと親近感がわくけど」

田中部長
「『ハート』を自分で使うというのはあまり考えたことがないですね」
わが部のまじめな昭和の男性上司が『ハート』を使いこなすのは、まだハードルが高いようです。

『いいね』と『ハート』正しい使い方は?

これまで上司の受け止めを気にかけることなく『いいね』も『ハート』も使い続けてきた私たち。

使い方はあっていたのでしょうか?

グループチャット「Microsoft Teams」の担当者に聞いてきました。
金澤さん
「SNSの気軽なやり取りをビジネスの場にも持ち込んだものが、『いいね』です。メールだと前置きを付けるなど堅苦しくなり、準備に時間もかかる。文字を書く時間を短縮し、相手に『確認しました』と伝えるための道具として用意しています」
『いいね』の使い方は、間違っていなかったようです。

しかし、『ハート』をビジネスに使うのは抵抗があるという上司もいましたが…。
金澤さん
「『ハート』もマークではなく、文字どおりステキという意味で受け止めて、使っていただいていいと思いますよ。コロナ禍で在宅勤務が増え、直接コミュニケーションを取ったり反応を示したりできないからこそ、わかりやすく気持ちを伝えるべきだと思います」
日本マイクロソフトの社内のチャットでも、性別や役職に関係なく、社長や役員に対してでも『ハート』を使っているそうです。

一方、『悲しい』や『怒り』はあまり使っていないそうです。
実は用意された6つのマークは、世界共通です。

ビジネスのグローバル化が進む中、今では120か国以上で同じサービスを利用しています。

時差や言語の違いがあっても、コミュニケーションがとれるよう、世界共通の分かりやすいマークが必要だと考えたといいます。

こうしたマークに抵抗がある人たちは、どうすればいいのでしょうか。
金澤さん
「使い方に正解や不正解はありません。私たちがお客様に伝えているのは『あまり考えすぎない』ということ。メールに時間を費やすよりは『いいね』で済ませ、その時間をもっと生産的でクリエイティブなほかの仕事に振り向けていただいたほうが、会社の利益につながると思いますが、無理にそうする必要もないです。それぞれの組織がいちばん気持ちがよい形で使ってもらうことが理想です」

よりよいコミュニケーションのために…

日本のチャットの絵文字マークの使い方についての興味深いデータがありました。

日本のビジネスチャット「Chatwork」が2年前、利用者3000人を対象に行った調査です。
絵文字の利用が多い人に、誰に対して使っているか尋ねたところ、同僚はおよそ9割だったのに対し、上司や部下に対してはおよそ5割。

外部の取引先に対しては3割にとどまっていました。

相手によって「いいね」も使い分けているようです。

「『いいね』だけだとフランクなので『了解しました』もほしい」
「『悲しい』をはじめとしたマイナスの感情は使いづらい」

絵文字の種類についてもたくさんの声が寄せられ、社風や個人の価値観によっても捉え方はさまざまだと感じたといいます。
北口さん
「絵文字を使うことで、コミュニケーションが円滑にとれたり、チームワークがよくなったりと、メリットを感じる人も多く、上司に使ってほしいと思う人も多いようです。自分たちが目指す会社のコミュニケーションの在り方、そしてどういう風にチャットを使っていきたいかを考えることが大切だと思います」
Chatworkでは、利用者から寄せられた意見を元に、『いいね』のほか、『了解』『ありがとう』『おめでとう』など6つのリアクション機能を作りました。
大切なことは、スマホでのやり取りで絵文字を使い慣れた世代と、メールを使った文章のやり取りに慣れた上司世代、お互いの価値観を尊重し合うことだといいます。
北口さん
「『使いこなせないのは古いですよ』って否定するのではなく、お互いの仕事人生で築いてきた価値観をリスペクトしたうえで、たとえば私たちはいつもこういう気持ちで『いいね』を使っていますとか、リアクションを使ってもらえたら親近感がわきますという思いを伝えていくことで、みんなが気持ちよく使えるのではないでしょうか。同じように上司世代から歩み寄ることも大切です」
対面でもチャットでも、大切なことはお互いにコミュニケーションが取れているかどうかです。

受け取った人がどう感じるか。

そのことにも思いをはせながら、一つ一つの『いいね』に込められたメッセージを、上手に伝えられる使い方ができたら、

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