ビジネス特集

あなたもデザイナーになれる!? DXで進化する服作り

「誰でも簡単に、服作りに参加できる」
そんな未来がもうすぐやってくるかも知れません。アパレルメーカー、デザイナー、縫製工場…。さまざまな企業が商品作りに関わるアパレル業界。資本力や開発力で優位な大手ブランドなどがトレンドを主導し、規模の小さい企業が服作りで存在感を発揮するのは容易ではないと言われますが、業界のゲームチェンジャーになりえるのが、最近よく耳にする「DX=デジタルトランスフォーメーション」です。デジタル技術を駆使し、ビジネスモデルを変革しようという動きが始まっています。(国際部記者 山田奈々)

コロナ禍でアパレル業界にもDXの波?

今月6日(日)の東京 銀座
リモートワークに象徴されるように、コロナ禍で多くの産業が事業の見直しを迫られていますが、アパレル業界も例外ではありません。ネット販売はあるものの、実際に試着したいというニーズもあって、これまでは売り上げの多くを店舗に依存する傾向がありました。

しかし、感染拡大の影響で来店客が減り、感染対策で休業も余儀なくされる中で、新たな手法が求められるようになっています。

また、在宅勤務が推奨される中で、商品開発の現場でもリアルで人を集めるような従来の開発手法は難しくなっています。

好むと好まざるとにかかわらず、DXを進める必要に迫られているのです。

顧客と向き合う3時間

ライブ配信する社員
このDXを生かして、ビジネスモデルの変革を進めている企業がアメリカにあります。

カリフォルニア州で婦人服の製造販売を手がけるスタートアップ企業の「Betabrand」。

社名の「Beta」にはソフトウエア開発で使われる「ベータ版」のように「試作段階のもの」という意味が込められています。他のアパレルメーカーのように完成品を売るのではなく、商品の企画段階から顧客を巻き込もうという会社の理念を表しています。

ウイルスの感染が広がる前は毎週、オフィスに優良顧客を招いて商品を直接手にとってもらい、フィードバックを受けていました。

しかし、感染が広がってからはネットのライブ配信を活用する形にシフト。デザインなどを担当する社員たちがほぼ毎日、最低3時間は商品を紹介します。

顧客はチャット機能を使って、リアルタイムで意見や質問などを書き込めます。
例えば、「身長160センチだと、どのサイズがよい?」と聞いたり、モデルに「違う色のブラウスと合わせて着てみてほしい」と頼んだりすることができ、まるで自分で試着して買い物をしているような感覚を味わえるといいます。

顧客がデザイナーに!?

ワンピースの商品企画ページ
さらに、新商品の開発でもこのシステムを活用し、顧客の意見を取り入れます。

例えば、ワンピースの開発。この企業の主力商品はヨガウエアのようなはき心地のよさを売りにしたズボンで、これまでワンピースを商品化した実績はありませんでした。

そこで、どんな色がほしいか、ベルトなどの付属品は必要か、すそはタイトかフレア(=広がったデザイン)かなど、商品のイメージを図で示しながら、顧客にさまざまな意見を寄せてもらいます。
そのうえで「好き」「嫌い」のボタンを使って、投票も実施。顧客ニーズを捉えた商品開発ができるため、売れ残りのリスクを大幅に低減できるといいます。

最近では、商品のアイデアを出してくれた顧客の名前をつけた「クリスティーン」という服も販売。

紫色の細かな色合いや、半袖でも長袖でもない特徴的な袖の長さなど、顧客の意見をもとに、細部までこだわり、売れ行きは好調だといいます。
Betabrand クリス・リンドランドCEO
リンドランドCEO
「次にどんな服を作るかで毎日、1万人の顧客から意見が寄せられるんです。最初に需要を喚起してから、それに見合った販売を行うので、リスクを負わずに済む。コロナ禍でもこれまでと同じ水準の売り上げを維持できています」

日本の服作りを変革?

DXを駆使し、服作りのプロセスを変革しようという動きもあります。

日本のITスタートアップ企業「DeepValley」が開発したのが、商品作りの効率化が可能になるというデジタルのシステムです。
開発者の深谷玲人社長は長年、アパレル業界で販売員として働き、ブランドを立ち上げた経験もあります。その後、IT企業に転職し、デジタル化で後れを取っているアパレル業界の現状を変えたいと起業しました。

服作りには商品を企画するメーカー、デザイナー、生地やボタンを扱う会社、それに縫製工場など、さまざまな企業が関わります。

それだけに情報共有は重要ですが、情報のやり取りはいまだに手書きのデザイン画やメモで行われるケースが多く、情報の行き違いなど問題があったといいます。
独自開発された製造管理プラットフォーム
そこで、新たなシステムでは、商品開発から納品に至るまでの一連の業務をデジタルで管理。ここでは、完成品のイメージ図や使用する生地の素材、販売個数、単価などあらゆるデータが関係者に同時に共有されます。

例えば、生地を変更する際の議論の過程など、電話やメールでは残すことが難しいやり取りを記録して行き違いを減らせるほか、販売個数の変更など、売り上げに直結する重要情報の変更も瞬時に共有できます。

また、作業の進捗状況をシェアすることで仕事の見える化が進み、サプライチェーンに関わるすべての人が、今やるべき作業を的確に把握できます。

ことし2月からこのシステムを使い始めたアパレル企業の「ジュン」では、商品計画にかかる作業時間が半分程度に減りました。

また、紙などで管理されてきた商品の開発情報をデジタル化して保存できるため、そうした商品が再び流行した場合には、過去のデータを利用して簡単に商品化することもできるといいます。

チャレンジを応援したい

メリットは単なる効率化だけではありません。

服作りは、長年蓄積されてきたノウハウを持つ大手メーカーや、有名デザイナーが主導してきましたが、こうしたデジタル技術を活用すれば、若手のデザイナーや規模の小さい企業もより手軽に服作りを行えるというのです。

このスタートアップではシステムの利用者に材料のサプライヤーを紹介するなど、少量生産でも服作りができるよう後押ししています。より多様な作り手が生まれることで、業界が活性化すると期待しています。
DeepValley 深谷玲人社長
深谷社長
「生産コストが下がることもありえますが、一番大事なのはモノ作りが簡単になり、大手だけでなく、小規模な企業も気軽に服作りに挑戦しやすくなるということではないでしょうか。効率化が進めば、より良いデザインを考えるために割ける時間も増えます。これまで以上に良い商品が世の中に出回る可能性があるという意味で、ファッションを楽しむ選択肢が増えて、ー般の消費者にもメリットがあります」

旧来のビジネスモデルを転換するきっかけに

取材を通して、アパレル業界におけるDXのポテンシャルの高さを実感しました。

この業界はもともと、流行の移り変わりが早く、売れ残った商品の大量廃棄がコストと環境の両面から解決すべき課題となってきました。

デジタル技術を駆使して、顧客ニーズにマッチした商品を必要なだけ生産できるようになれば、コスト削減はもちろん、大量生産、大量消費、大量廃棄という旧来のビジネスモデルを転換するきっかけになるかも知れません。

DXの進展がアパレル業界をどう変えていくのか、今後も取材を続けていきたいと思います。
国際部記者
山田 奈々
平成21年入局
長崎局、千葉局、経済部を経て
現在、国際部でアメリカ、ヨーロッパを担当

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