WEB特集

謎の飛行物体“UFO” アメリカで高まる真相解明の動き

「UFO(=未確認飛行物体)について真剣に調査しています」という人に出会ったら、どう思いますか?反応にとまどう人も多いかもしれません。
実はアメリカでは、国防総省が、空にはわれわれの知らない「何か」が存在すると公に認め、専門チームを立ち上げて本格的に調査しているのです。アメリカ軍の関係者からは実際の目撃証言も聞くことができました。アメリカで高まる、謎の飛行物体の真相を追う動きを取材しました。
(ワシントン支局 太田佑介)

“その物体は時速185キロで浮かんでいた”

アメリカ軍の活動中に正体不明の空飛ぶ物体を実際に目撃したという人に話を聞くことができました。

フロリダ州で暮らすゲイリー・ボーヒースさん(41歳)。アメリカ海軍のイージス巡洋艦「プリンストン」の元乗組員です。

2004年11月、西部カリフォルニア州サンディエゴの沖合で原子力空母ニミッツとともに訓練に参加していたときのこと。

イージス艦の心臓部、戦闘指揮所でレーダーを監視していたボーヒースさんは、3つから5つの不審な飛行物体がゆっくりと飛んでいることに気付いたといいます。
ボーヒース氏
「その物体は時速185キロで『浮かんで』いました。浮かんでいると言ったのは飛行機が飛ぶにしては速度が遅すぎるからです。そして、レーダーから消えてしまうまで、基本的に南下を続けていました。それが7日間、何度も何度も繰り返されたのです」
レーダーの誤作動を疑い、システムの再起動まで行ったものの、物体は消えませんでした。

ボーヒースさんは、艦橋に出て、双眼鏡でも物体を目撃したといいます。
ボーヒース氏
「丸い物体が横に向かって動いていたと思うと、突然猛スピードで消えてしまったんです」
これは一体何なのか。
直接現場で確認するため、空母から戦闘機が派遣されました。

そこでパイロットたちが目にしたのは、ホバリングや急加速を不規則に繰り返す、プロペラも翼もない15メートルほどの卵形の物体でした。

戦闘機の赤外線カメラが物体をとらえた映像が、国防総省によって公開されています。
映像:アメリカ国防総省(2004年撮影)
さらに、ボーヒースさんは、レーダーでも物体の信じられない動きを目にしていました。
ボーヒース氏
「物体が高度8万フィート=およそ2万4000メートルから海面まで数秒で一気に降下するのをレーダーで追跡しました。あれだけのエネルギーと空気を一気に移動させれば、海面上では爆発が起こるはずですが、何も起こりませんでした。超音速の航空機が発生させるソニックブームも観測されませんでした」
この体験をボーヒースさんは最近までずっと隠してきたといいます。

UFOを見たと言えば、精神状態に異常があると思われかねないと懸念したためです。
ボーヒースさんによると、軍の中では、航空機の搭乗資格が剥奪されたり、機密情報にアクセスできなくなったりすることを恐れて、ほかにも多くの同僚が自分の体験を報告することを避けてきたといいます。

ボーヒースさんは自分の体験を語ることで、同様の経験をした軍の関係者が報告しやすくなってほしいと考えています。

国防総省を動かした元高官のリーク

国防総省が謎の飛行物体に関する調査を始めたきっかけとなったのが、軍の中枢からのあるリークでした。

その中心人物がNHKの取材に応じました。
クリントン政権とブッシュ政権で、国防総省の情報機関を統括する高官を務めたクリス・メロンさんは、国防総省はこうした物体の存在を知りながら、問題を放置し続けていたと断じます。
クリス・メロン元国防次官補代理
「私はアメリカの情報機関で20年間過ごしてきましたが、そこで謎の飛行物体が日常的にアメリカの領空や軍事制限空域を侵犯している事態を知るとともに、誰も何の対策もとっていないことに憤りを感じました」
メロンさんによると、国防総省では2007年から5年間にわたって秘密裏に「先端航空宇宙脅威特定計画」と呼ばれる未確認航空現象に関する調査が行われたといいます。

しかし、調査は業者に丸投げされた形で、情報機関や空軍から情報提供などの協力も得られず、成果はあげられなかったと指摘します。
正体不明の飛行物体の謎が解明されないまま放置されれば、安全保障上の脅威になると危機感を覚えたメロンさんは、2017年、ある行動に出ます。

ボーヒースさんが遭遇した謎の飛行物体の映像を含む3本の動画をひそかに入手し、アメリカの新聞ニューヨーク・タイムズにリークしたのです。
その3年後、国防総省は映像を本物と認めたうえで、機密を解除し、正式に公開。
ほかの国の偵察機や未知の兵器などの可能性も含めて、再び調査に乗り出したのです。

国防総省はUFOを「UAP(=未確認航空現象)」と呼んでいて、連邦議会の要求を受け、今月(6月)には、UAPに関するこれまでの分析結果などを盛り込んだ報告書が提出される見通しです。
映像:アメリカ国防総省(2015年撮影)
クリス・メロン元国防次官補代理
「なぜこんなことが起きたのか?中国かロシアの新兵器かもしれない。われわれは少なくとも起きていることを知る必要があります。国防総省が公開したことで、世界中でUFOに対する反応が変わったのです。なぜなら政府が公式に『事実』だと言ったからです」

高まるUFOへの関心

アメリカでUFOの目撃情報の調査などを行っている全米UFO報告センターのまとめによると、去年1年間に全米で報告されたUFOの目撃件数は7200件余り。
前の年と比べておよそ1000件も増加したといいます。

背景には国防総省がUFOに関する映像を公開したことを受けて、一般市民の間でも目撃情報を積極的に報告しようとする傾向が強まったことがあるとみられています。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、人々が家で過ごす時間が多くなり、自分の周りの空に目をやる機会が増えたという指摘もあります。
東部ペンシルベニア州で5月に開かれたUFOの研究団体の地元支部の会議は、熱気にあふれていました。

会場で演説した研究者たちは「国防総省が行っているUFOの調査には国民の税金が使われている。国民にはその調査のすべての結果を知る権利がある」と訴えていました。

そして「私たちのような研究者は長年にわたって嘲笑の対象になってきたが、今や誰も私たちのことを笑いものにできない!」と声を上げると、会場は万雷の拍手で満たされ、高揚感に包まれていました。

謎の飛行物体 正体は?

謎の飛行物体の正体は何なのか。

研究団体によると、市民から寄せられる目撃情報の大半は、衛星やドローン、飛行機、さらに星などの見間違いだといいます。
ただ目撃されたものの一部には、どうしても説明のつかないものがあるといいます。

アメリカ軍が極秘に開発している兵器の可能性はあるのでしょうか?
元国防次官補代理のメロンさんは「自分は長年、武器の開発に関する機密情報を管理する立場にあったので、それは絶対にない」と断言します。

では、レーダーの故障などの可能性はあるのでしょうか?
イージス艦の元乗組員ボーヒースさんが目撃した未確認飛行物体は、複数のレーダーや目視によって大勢が同時に確認していて、その可能性はほぼ排除されています。

今月提出される見通しの報告書の中では、UFOに関するさらなる映像や証言など、新たな機密情報が開示されるかどうかはわかりません。
アメリカ軍が収集したUFOの情報を詳細に公開すれば、レーダーの性能や軍の活動範囲など機微に触れる軍事情報が明らかになってしまうという難しさもあるからです。

ニューヨーク・タイムズは政権高官の話として「宇宙人の乗り物」という証拠は見つかっていないものの、急加速などの物体の異常な動きは説明できないため「宇宙人の技術」という説を完全には否定しない内容になる見通しだと伝えています。

今後、真相解明に向けて、今まで見過ごされてきたデータの収集や、分析が進む可能性はあります。
たとえば、アメリカ軍のレーダーの中には、あまりに高速で不規則に移動する物体は、航空機でもミサイルでもないと判断され、画面上に表示されないものもあるといいます。

そうしたデータの扱いが見直されれば、謎の物体に関するより多くの情報を得ることができるようになるかもしれません。

また、さらなる調査を進めるために十分な予算や設備を充てるべきだという声が議会などで高まる可能性もあります。

新たな兵器なのか、それとも全く未知のものなのか。謎の物体の解明がどこまで進むのか、今後も目が離せません。
ワシントン支局
太田佑介
2004年入局 横浜局、国際部、ジャカルタ支局を経て2018年からワシントン支局に駐在。主に外交・安全保障問題を取材。

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