立民・共産 土地利用法案めぐり参院内閣委員長解任決議案提出

参議院内閣委員会で審議が行われている、安全保障上、重要な施設周辺の土地利用を規制する法案をめぐり、立憲民主党と共産党は、与党側が提案した14日の採決を阻止するため、自民党の森屋内閣委員長の解任決議案を参議院に提出しました。

この法案は、自衛隊の基地や原子力発電所など、安全保障上、重要施設の周辺などを「注視区域」や「特別注視区域」に指定して利用を規制するもので、「特別注視区域」では、土地や建物の売買の際に事前に氏名や国籍の届け出などを義務づけています。

法案は、今月初めに衆議院を通過し、現在、参議院内閣委員会で審議が続けられていて、14日も参考人質疑が行われました。

そして、このあと夕方に開かれた理事会で、与党側は「法案の審議は尽くされた」として、14日中に委員会で採決したいと提案しました。

これに対し、野党側は「法案は、私権の制限につながるなど内容に問題が多く、採決は時期尚早だ」などと主張しました。

そして、立憲民主党と共産党は、14日の採決を阻止するため、自民党の森屋内閣委員長の解任決議案を参議院に提出しました。

これを受けて、参議院議院運営委員会の理事会で決議案の扱いを協議し、15日の参議院本会議で採決を行うことで合意しました。

決議案は、与党側の反対多数で否決される見通しです。

立民参院国対委員長 首相の問責決議案提出 否定せず

立憲民主党の難波参議院国会対策委員長は、菅総理大臣に対する問責決議案を提出する可能性について「ゼロではない。衆議院での動向を見ながら、参議院での戦い方を検討していきたい。あらゆる選択肢は排除しないというのが現時点での考えだ」と述べました。

「注視区域」「特別注視区域」とは

土地の利用を規制する法案は、自衛隊やアメリカ軍の基地のほか海上保安庁の施設、原発など安全保障上重要な施設の周辺およそ1キロと、国境離島の区域を「注視区域」に指定し、政府による土地や建物の所有者の調査や規制を可能にするものです。

注視区域内での重要施設の「機能を阻害する行為」に対しては中止するよう勧告・命令を出し、土地などの利用を制限することが出来ます。

そして特に重要な施設の周辺は「特別注視区域」に指定し、一定以上の面積の土地や建物の売買の際には事前に氏名や国籍の届け出などを義務づけていて、違反した場合には刑事罰の対象になります。

土地規制 地価への影響は

土地の利用の規制が地価に影響を及ぼす可能性はあるのでしょうか。

不動産調査会社「東京カンテイ」の井出武上席主任研究員は、「特別注視区域に指定されて手続きが煩雑になれば、スピード感のある不動産取引をしたい人たちの購入意欲がそがれて敬遠されるようになり、結果的に地価が下がる可能性がある」と指摘しています。

一方、手続きが簡略化されることが前提だとした上で、「『外国資本の買い占めによって街が激変する』といったリスクが少なくなるなどの効果も考えられ、街が『ブランド化』され、逆に地価が上がる可能性もある」と分析しています。

東京市ヶ谷 防衛省周辺では

「特別注視区域」に指定される可能性がある東京・市ヶ谷の防衛省の周辺で話を聞きました。

ことし3月に防衛省の正門前にあるマンションを購入した48歳の男性は、「災害やテロがあってもしっかり守ってくれるという安心感もあって防衛省の近くのマンションを購入したので、規制には協力してもいいかなという気持ちもあります。ただ、どんな情報が調査されるのかあいまいな中で、後出しじゃんけんのように調査の内容が決められてしまうのであればとても危険だと思います。われわれのような調査対象になる住民も議論に参加できるようになればいいと思います」と話していました。

また、防衛省から数百メートルほどの住宅街に住む60代の女性は、「法案については知らなかったし町会や近所でも話題になったことはありませんが近所に不審な人が住んでいるのは嫌なのでしっかり調査してもらいたいという気持ちはあります。ただ、自分のことは調べられたくないという思いもあるので複雑です。今のところ住宅を売る予定はありませんが届け出などによって自由が制約される感じがします」と話していました。

米軍 横田基地周辺では

東京・福生市のアメリカ軍横田基地の西側には、国道を挟んで商店や飲食店が立ち並んでいます。

その場所で50年以上衣料品店を営む冨田勝也さんは、「横田基地は福生市の面積の3分の1を占めていて、私たちはそのロケーションを活用した商売で生活しています。今回の法案によって個人情報が丸見えになってしまう事態はいかがなものかと思いますが、基地周辺の土地の所有者が外国人ばかりになっても困るので、ある程度、規制という網を掛けてもらった方が良いという思いもあります」と話しています。

一方、アメリカ軍の騒音被害を国に訴える原告団のメンバー渡邊てつよさんは「私たちの事務所は、基地からおよそ300メートルのところにあります。私たちは裁判で『ただ静かに暮らしたい』と訴えているだけなので、規制や罰則の対象にならないと確信していますが、法案はあいまいな点が多く国が今後何を言ってくるのか不安があります。国の調査は拒めず、罰則規定もあるので仲間の個人情報などが調査されるおそれもあり法案は撤廃して頂きたいと思っています」と話しています。

そして市内で酒蔵を営む石川彌八郎さんは「個人情報が調べられる心配はありますが、国のためならやむを得ないという気持ちもあり、複雑な心境です」と話していました。

厚木基地のある神奈川県大和市議会は

自衛隊とアメリカ軍が共同で使用している厚木基地のある神奈川県大和市の市議会は、去年12月、土地の購入者の国籍などを事前に届け出ることを義務づける法律を整備するにあたり、厚木基地周辺の土地を対象にするよう政府に求める意見書を可決しました。

意見書では、「大和市ではさまざまな国籍を持つ人々の多様性を大切にしているが、一方でわが国の安全保障、住民生活の安心も確保していかなければならない」としたうえで、「過度な私権の制限にならないよう留意しつつ、一定の法的な規制はやむをえないものと感じている」としています。

意見を中心になってとりまとめた大和市議会の中村一夫議員は、NHKの取材に対し、「基地に対して批判的な考えを持っている人や外国の勢力が基地についての情報を収集することが、日本の安全保障上、問題になるのではないかという懸念は常に抱いている。通常の土地取り引きも不動産登記によって情報は公になっており、法案が過度にプライバシーに踏み込んでいるとは考えていない。むしろ安全保障上、国としてこれぐらいのことは当然するべきだと思う」と話しています。

そのうえで中村議員は、「財産権など個人の人権についても考える必要があり、デリケートな問題だ。政府はバランスを取りながら注意深く進めて欲しい」と話していました。

日弁連「重大な問題がある」

今回の法案について、日弁連=日本弁護士連合会は今月2日、会長名で反対する声明を発表し、「重大な問題がある」として5つの点を挙げています。

1点目は、「重要施設」についてです。

声明では「『重要施設』の中には、自衛隊などの施設以外に生活関連施設が含まれているがその指定は、政令に委ねられている。しかも、生活関連施設として指定されるためには、『機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体または財産に重大な被害が生じるおそれがあると認められる』ことが必要とされているが、この要件自体があいまいであり、恣意的な解釈による広範な指定がなされるおそれがある」と指摘しています。

2点目は、「土地の利用者などの情報」についてです。

声明では、「地方公共団体の長などに対し、注視区域内の土地などの利用者などに関する情報の提供を求めることができるとされているが、その範囲も政令に委ねられている」としたうえで、「思想・良心や表現行為に関わる情報も含めて広範な個人情報を、本人の知らないうちに取得することが可能となり、思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権などを侵害する危険性がある」と指摘しています。

さらに、3点目として、法案が、注視区域内の土地などの利用者などに対して、「利用に関する報告、または資料の提出を求めることができ、それを拒否した場合には、罰金を科すことができる」としていることについて、「求められる報告、または資料に関して何の制限もないことから、思想・良心を探知されるおそれのある事項も含まれ得る。このような事項に関して、刑罰の威嚇のもとに報告または資料提出義務を課すことは、思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権などを侵害する危険性がある」としています。

4点目では、「土地の利用制限」について触れています。

具体的には「法案では、注視区域内の土地などの利用者が、みずからの土地などを、重要施設などの『機能を阻害する行為』に供するまたは、供する明らかなおそれがあると認める時に、刑罰の威嚇のもと、勧告や命令により当該土地などの利用を制限することができるとされている。しかし、『機能を阻害する行為』や『供する明らかなおそれ』というようなあいまいな要件のもとで利用を制限することは、注視区域内の土地などの利用者の財産権を侵害する危険性がある」と指摘しています。

そして、5点目として、「特別注視区域内の一定面積以上の土地などの売買などの契約について、内閣総理大臣への届出を義務づけ、違反には刑罰を科すものとされているが、これも過度の規制による財産権の侵害につながるおそれがある」としています。

そのうえで声明は、「法案は、思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権、財産権などの人権を侵害し、個人の尊厳を脅かす危険性を有するとともに、あいまいな要件のもとで、刑罰を科すことから罪刑法定主義に反するおそれがあるものである」としたうえで、「自衛隊や米軍基地などの周辺の土地を外国資本が取得してその機能を阻害することなどの防止を目的とするとされているが、これまで、そのような土地取得などにより重要施設の機能が阻害された事実がないことは政府も認めており、そもそも立法事実の存在について疑問がある」と指摘しています。