ビジネス特集

リサイクル率99% 注目集める「ゴミのコンサル」

「このままじゃだめだ」

80年続く廃棄物処理業者の3代目は家業を継ぐ時、そうつぶやきました。

ゴミを引き受けることでお金をもらう、世の中にゴミが増えたほうがもうかる仕事です。

けれど、ゴミを減らすことを決めました。

引く手あまたの中小企業

「脱炭素」「SDGs」「ESG投資」

環境をめぐるキーワードが、毎日のようにニュースをにぎわせます。

環境に配慮した持続可能なビジネスをどうつくるか、企業にとって避けては通れない課題となる中で、群馬県の中小企業に熱い視線が注がれています。
従業員70人ほどの廃棄物処理業者、ナカダイ。

売り上げは年間10億円ほど、いま企業から引く手あまたです。

「ゴミ処理の会社」から変える

会社は1937年の創業、今の経営者は3代目の中台澄之さん(48)です。
もともとは会社を継ぐ気がなかった中台さん、大学卒業後は証券会社に就職しました。

京都支店で営業マンとして活躍していた1997年、転機になったのは「京都議定書」でした。

京都議定書では2020年までの温暖化対策の目標が定められ、その後、国内でも家電リサイクル法などがスタート。

にわかに「環境」が注目されるようになりました。

同じ時期、2代目の経営者だった父親から中台さんにも家業に加わるよう誘いが来ます。

継ぐつもりがなかった廃棄物処理業でしたが、入社を決めた中台さん。

しかし、心に決めていました。

「ゴミを処理するだけの会社にはならない」

ゴミを減らせば、もうからない…

廃棄物処理業の利益の構造をごく単純にすると、次のような仕組みです。
ゴミの量 × 処理単価 - 処理費用 = 利益
つまり、ゴミの量が多ければ多いほどもうかります。
しかし、中台さんは考えました。

「単純にもうけようとすれば、社会の課題解決と逆行してしまう。ゴミを減らしたい」

ただ、従来の利益の方程式で単純にゴミを減らせば、もちろん利益は減ります。

ゴミを減らしながら、なんとか利益を上げられないか。

そのために考えたのが、「ゴミのコンサルティング」です。

企業の中に入り廃棄物を管理、リサイクルする割合を増やすことで報酬をもらいます。

受け入れる廃棄物の総量が増えても、埋め立てや焼却に回るゴミは減らそうと考えました。

ゴミを減らすための「分類」

そのためのカギになったのが、徹底した廃棄物の「分類」です。

まずは、そのまま商品になりそうなもの、リメイクできそうなものを整理しました。

オフィスから出る机やイス、ロッカーなどは企業向けに中古品として再販売。
オフィスの移転などのタイミングでは大量の廃棄物が出ますが、むだにしません。

動作はしないけれど、レトロな見た目がインテリアになりそうな置き時計や電気スタンドは一般向けに販売。
建築事務所と組んで、廃棄物を家具などにリメイクもします。

とび箱をおしゃれなテーブルやベンチに、太陽光発電のパネルを天板にした机も製作。

廃棄物に新たな価値を持たせることで、ゴミを減らしました。
しかし、元の形をいかしてリユースできる廃棄物は限られます。

99%リサイクル

ゴミにしないためには、さらに細かく分類して使えるものを見いださなければいけません。

そこでいきたのが、廃棄物処理業として80年培った技術です。
勤続50年以上、最年長の石井さんは流れるように部品を分解
工場の従業員は持ち込まれた金属の部品の中から、例えば「真ちゅうはこの部分」と、ぱっと見ただけで素材を見分けられます。

分類する技術をさらに進化させ、細分化しました。

同じプラスチックでも、ペットボトルのフタと洗剤のフタを分けます。

さらに、洗剤のフタだとしても、色ごとに分類。
コンピューターの配線を覆うビニールも、色で分ける徹底ぶりです。
こうすることで、廃棄物でなく、新たなものづくりのための素材として売れるようになりました。

ゴミになってしまいそうだったものに、値段がついたのです。

廃棄物を捨てない、99%リサイクルする仕組みをつくりました。

減っていった利益

ただ、新たな取り組みのために従業員を増やし、細かく分類するための保管場所も増やしていきました。

当然、多額の費用が発生。

リサイクルへとかじを切った2007年ごろから会社の利益は減少しました。

「事業を元に戻してほしい」

そんな声も聞こえてきました。

時代が追いつく

しかし、社会が変化しました。

ゴミを出さないようにしたい、リサイクルをしたいという企業が年々増加しています。

主に法人向けにエアコンなど空調機器の設置を行う東京冷機工業は、都内に本社を持ち、関東一円で取り引きする業界大手の企業です。

室外機に換算すると、年間およそ4000台と大量の空調機器を扱っていますが、交換したあとのエアコンなどがどの程度リサイクルされているか、これまで把握していませんでした。
東京冷機工業 吉田丈太朗 社長
「空調機器を扱う以上、環境への貢献は社会的な責任だと考えてきましたが、リサイクル率まで管理できておらず、このままではいけないという思いがありました」
そこで、声を掛けた相手がナカダイでした。

ナカダイは「ゴミのコンサルティング」をしていきました。

まずは、各地の事業所ごとに契約していた処理業者を整理し、可能なかぎり廃棄物をナカダイに持ち込みます。

そのうえで、「分類」のノウハウをいかし、リサイクル可能なものを徹底的により分けます。

この際、取り外した空調機器をまず社員たち自身で分類するように求めました。

ナカダイが用意した容器に、プラスチック、木くず、金属と分けていきます。
さらに、リサイクルしてお金になる部品も仕分け。

すべてを混ぜず、ある程度分けてから工場に運ぶことで、その後の作業はぐっと早まり、処理のコストを下げます。

東京冷機としても、ほぼ99%のリサイクル率を達成するようになりました。
東京冷機工業 吉田 社長
「今、ゴミの捨て方まで含めた、環境への関心はものすごく高まっています。数字を把握して取引先に示せるということが大きいんです。今後、選ばれるための1つの条件になり得ると感じています」
分別のノウハウを提供し、ゴミになってしまう廃棄物を減らしながら顧客を増やしました。

「ゴミのコンサル」として存在感を増したナカダイは、10年かけて利益を戻しました。
中台 社長
「あらゆる素材に精通し、とにかく細かく分類できます。廃棄物処理業としてゴミと向き合い続けてきたからこそ、誰より“捨てる”に強くなったんです。ここ5年ほどはこちらから営業をかけることはなくなりました」

“脱炭素”待ったなし 企業に危機感

さらに足もとでは、「SDGs」や「脱炭素」が世界的な潮流になり、ゴミの問題は避けては通れなくなっています。

ナカダイの工場には、少し場違いとも感じる化粧品ブランドの看板や、カラフルなイスが置かれていました。
日本ロレアルが運営するブランドの店舗から出たものです。

フランスに拠点があるロレアルグループは、2030年までに「事業拠点で発生する廃棄物の100%をリサイクルまたは再利用する」という高い目標を掲げています。

この会社でも、ゴミに関する目標として、2021年中に店舗のディスプレイなどを、すべてリサイクル可能なデザインに変更すると定めました。
日本ロレアル 奥村紋子さん 山本也寸志さん 楠田倫子さん(左から時計回り)
日本ロレアル 担当者
「環境を配慮することは、ビジネス自体の持続性に関わります。いま動きださないと、消費者から選んでもらえません。従来のやり方では通らないんです」
ナカダイに、強い危機感を持つグローバル企業からも声がかかったのです。

このブランドの旗艦店の移転にあわせて、店にあったすべての家具やディスプレイをナカダイに持ち込み、リサイクル可能か分析しました。

結果は「96%がリユース・リサイクル可能」。

残る4%をリサイクルするには、設計から変更しないといけないと分かりました。
日本ロレアル 担当者
「会社として環境目標は明確ですが、『How=どうすれば』という部分がこれまで見つかっていませんでした。一緒に取り組める相手が見つかったので、タブーなくできることを実行していきたいです」

「捨てる」をデザイン

「捨てる」に関わり続けてきた中台さん。

ゴミを取り巻く状況はさらに厳しさを増していると感じています。

例えば、日本は海外に廃プラスチックを輸出してきましたが、2017年末から最大の輸出先だった中国が輸入制限をしたことで、輸出量は年々減少しています。

今まで以上にゴミは国内で処理していかなければならない状況です。

「国内の処理能力には限界がある中、そもそも捨てない、再利用を前提としたものづくりが必要ではないか」

ゴミが出ない製品づくりを実現するため、中台さんは協力してくれる企業を集めました。

文具や家具の製造販売を行う企業や、本や電化製品の中古販売をする企業、大手商社のグループ会社。

そこに多摩美術大学が加わりました。
多摩美術大学とナカダイらの記者会見
美術大学の学生たちが、それぞれの企業から出た廃棄資材を再利用して製品の試作を繰り返します。

そこから、「そもそも再利用しやすくするためにはどんな構造だったらいいか」など調べ、企業にフィードバックもしていきます。
学生の試作品 洗剤ボトルに3Dプリンターで作った部品をつけて、ちりとりに
単に捨てるのではなく、再利用しやすい製品づくりをデザインするのが目標です。
中台 社長
「廃棄物を分解・分類して、そのままゴミにしないよう15年取り組んできました。ただ、それを1社だけで頑張っても社会への影響は限定的です。“捨てない”社会をつくりたいんです」
ネットワーク報道部記者
加藤 陽平
平成20年入局
富山局、経済部などを経て現所属
デジタル分野や学生の就職活動などを取材

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