マスクで熱中症のリスクは上がるの?

マスクで熱中症のリスクは上がるの?
また、暑い夏がやってきます。

マスクとともに過ごす2度目の夏が。

ネット上では熱中症など体への影響を心配する声が相次いでいます。調べてみると、この1年でさまざまな専門家がマスクと熱中症の関係について調査・研究していることが分かりました。

熱中症のリスクはマスクによって高まるのでしょうか?
(ネットワーク報道部 大窪奈緒子・藤島新也・鈴木有)

暑い苦しい、けど取れない

「暑かった~!苦しかった~!」マスクをつけ、汗だくで帰宅する子どもたち。

最近の、記者の家での風景です。

「暑いときは、無理せず取ってもいいんだよ」そう声をかけても「でもみんなつけているから」と答えます。

どんなに暑くても人の目が気になり取りづらいという人も多いマスク。

ネット上では、体への影響を心配する声が相次いでいます。
「暑さのせいかマスクのせいか脳がぼんやり。ことしの夏が今からこわい」
「マスクがすでに暑すぎる最近ですが、夏大丈夫かなー」

因果関係不明も…マスク着用で救急搬送

総務省消防庁によると、熱中症で救急搬送される人は例年5月以降に増え始め、7月から8月にかけてピークになります。

気になるデータがありました。

横浜市消防局が、ことし4月26日以降、熱中症で救急搬送された人がマスクを着用していたかどうか調べています。

6月10日の時点で救急搬送された人は39人。このうち症状が出る前にマスクを着けていた人は16人でした。因果関係はわからないものの搬送された人の4割に上っていたのです。

マスクの温度 測ってみた

マスクをつけると顔の周りの温度は高くなります。
都内の最高気温が30℃を超えた6月10日、屋外でマスクを付けて表面温度を測ってみました。

もっとも高くなったのは黒い布のマスク。
黄色く明るくなっているところほど温度が高いことを示していて、34.6℃にまで上昇していました。

いちばん低かったのは白の布マスクで28.9℃でした。
(素材別マスクの表面温度)

・布(黒)   34.6℃
・布(白)   28.9℃
・不織布(黒) 32.3℃
・不織布(白) 30.7℃
・ウレタン(黒)33.2℃
・ウレタン(白)29.4℃
体感でも黒の布マスクはいちばん、暑さと息苦しさを感じました。

マスク影響の証拠はない!?

マスクをすることで顔の周りが暑くなれば熱中症のリスクは高まりそうな気がしますが、専門家が行った実験では意外な結果が出ています。

医療工学が専門の名古屋工業大学・平田晃正 教授は「深部体温」に注目しました。

個人差はあるものの、1℃でも上昇すれば熱中症のリスクが高まると言われています。
気温35℃の中でマスクを着けた場合にどのくらい上昇するかシミュレーションしたところ口の周辺の皮膚の温度は着けていない時より2℃近く上昇しました。

これは記者がマスクの表面温度を測定した際に感じた「口の周りが暑いな…」という体感と一致します。

一方で「深部体温」は、0.06℃~0.08℃しか上昇しなかったそうです。
平田教授
「日常生活でも深部体温は0.2℃ほど上がることがあります。リスクはゼロではありませんが、マスクをしたからといって急激に熱中症のリスクが高まる訳ではなく、過度に心配する必要はないと考えています」
また、実際に「深部体温」を測定した専門家もいます。

熱中症の予防に詳しい産業医科大学・産業医実務研修センターの川波祥子センター長は、男性8人に温度センサーのついた細い管を飲み込んでもらい、心臓に近い食道の温度をはかりました。
軽めの運動を30分間してもらったあとの深部体温は0.6℃上昇しましたが、マスクをしている人もしていない人も、上昇の度合いに違いはなかったそうです。
川波センター長
「マスクをすると口の周りが蒸れますし、息苦しい感じもしますが、普通のマスクで日常的な生活をする範囲では、熱中症のリスクを高める深部体温の上昇には影響しないと言えます。ただ、激しい運動をしたり、マスクをつけている時間が長時間になるケースなどはまだ十分な検証ができていないので注意が必要です」
現状ではマスクが熱中症のリスクを上げるというデータは無い、というのが複数の専門家の見解でした。

厚生労働省もマスクをつけた場合の熱中症に注意を呼びかけてはいますが、「科学的な知見が十分ではない」としていて、まだまだ調査が必要なようです。

コロナ禍でリスクは増している

マスクが熱中症のリスクを高めるかどうかははっきりわかりませんが、自粛生活による運動不足や、マスクを外す煩わしさから、水分補給を控えがちになることなど、生活の変化によって、そもそも熱中症のリスクは高まっているという指摘もあります。

外出の機会が減るとただでさえ体が暑さに慣れていません。在宅勤務や運動をする機会が減っている人はちょっとした運動でも熱中症になるおそれがあるのです。

熱中症予防に効果的な4つの方法

これからの時期、重要になってくる熱中症対策。

簡単にできる方法を専門家に聞きました。
1、冷たい流水で手首までしっかり洗う
ウイルスを洗い流すと同時に、血管が皮膚に近い手首を冷たい水で冷やすことで、効率的に体温を下げる効果がある。

2、ぬれたタオルで顔や頭をふく
顔や頭、首を冷やすと体温が下がりやすい。また水分が蒸発する際にも熱を奪う。

3、定期的に水分をとる
「のどが乾いたら」ではなく食前、食後、入浴前後、寝る前など時間を決めて水分をとるようにする。スポーツドリンクがおすすめ。

4、エアコンを使う
室温が28℃を超えたら冷房をつける。暑がりな人にあわせる。
三宅センター長
「熱中症のリスクを高めるのは、マスクを着用しているかどうかよりも、気温の高さや水分補給の有無のほうが大きいです。基本的な対策を徹底することが大切です」
特に水分補給は、マスクをしていると付けたり外したりする面倒くささからつい我慢してしまいがちです。自分なりにルールを決めてこまめに水分を摂取してもいいかもしれません。

ちなみに、厚生労働省は1日当たり、1.2リットル、1時間ごとにコップ1杯を目安としています。

呼吸への影響 子どもは注意が必要

最後に、熱中症以外で気になる呼吸への影響についても研究が進んでいます。

マスクをすると息苦しさを感じることがありますが、特に乳幼児は注意が必要なようです。
呼吸器が専門の木田さんは、海外の研究者の論文を調べています。

それによると、健康な大人や高齢者がマスクを着用して運動しても、呼吸困難や筋肉の疲労、脳の血流量に影響はなかったということです。
ただし、乳幼児は呼吸するための筋肉=呼吸筋が十分に発達していないため、大人に比べて呼吸不全に陥るリスクがもともと高いということです。

それに加えて子どもは、マスクを口や鼻の穴に密着させるようにきつくつけるなど、間違った使い方をして空気を十分に吸えていない場合もあるということです。
木田さん
「子どもは個人差も大きいので運動するときはマスクを外すほうがいいのではないでしょうか」