大関 朝乃山に6場所出場停止などの懲戒処分 日本相撲協会

大相撲の大関 朝乃山が外出が禁止されている期間に接待を伴う飲食店に複数回出入りしたうえ、日本相撲協会の聞き取りに対しうそをついたなどとして、相撲協会は6場所の出場停止と50%の減給6か月の懲戒処分としました。

朝乃山は大関から陥落し、幕下以下に番付を下げることが確実になりました。

大関 朝乃山は先月、夏場所が始まる直前に不要不急の外出をしていたことを認め夏場所を途中休場し、日本相撲協会で調査を行うとともに処分を検討していました。

相撲協会は、11日午後から東京 両国の国技館で臨時の理事会を開き、朝乃山について6場所の出場停止と50%の減給6か月の懲戒処分とすることを決めました。朝乃山は引退届を提出していましたが受理されず、今後、相撲協会に迷惑をかける行為をした場合は、引退することなどを条件に現役を続けることになりました。

相撲協会によりますと、朝乃山はことし1月の初場所前から先月の夏場所前にかけての外出禁止期間中に合わせて10回、接待を伴う飲食店に出入りしていたほか、去年11月場所の前などにも会食をしていたということです。

さらに同行していたスポーツ紙の記者と口裏合わせをして相撲協会の聞き取りに対し、「治療に行っていた」とうそをつくなど、証拠隠滅をはかっていたとしています。

相撲協会は「無自覚で軽薄な行為は大関としての尊厳を著しく汚した。到底、許しがたい。しかもうそを言って処分から逃れることにばかりきゅうきゅうとしていた。大関に求められる品格や責任の重大さに対する自覚がみじんも感じられない」などと厳しく批判しています。

朝乃山は、大関から陥落し、幕下以下に番付を下げることが確実になりました。

一方、相撲協会は、朝乃山の先代の師匠で元大関 朝潮の錦島親方も外出禁止期間中に不要不急の外出を繰り返していたことを明らかにしました。錦島親方は退職願を出していて、10日、受理されたということです。

また、師匠の高砂親方に対しては指導監督に不足があったとして20%の減給3か月の懲戒処分としました。

高砂親方は「心よりおわび申し上げます。大関という重責を担う立場でありながら自覚のない軽率な行動をさせてしまったことは師匠として私の不徳のいたすところです。本人も真摯(しんし)に受け止めており一から出直してまいります」とコメントを出しました。

朝乃山は高砂部屋に戻るも無言

懲戒処分を伝えられた朝乃山は、午後7時ごろ、東京・墨田区にある高砂部屋に車で戻りました。

車から降りた際、報道陣から「大関」と声をかけられましたが、ひと言も発せず足早に部屋の中に入っていきました。

おととし夏場所で初優勝

朝乃山は、富山市出身の27歳。身長1メートル87センチ、体重およそ170キロの体格を生かした圧力と「右四つ」の形が得意です。

強豪の近畿大学で学生相撲で活躍したのち、大学の先輩にあたる元大関 朝潮、当時の高砂親方が師匠を務める高砂部屋に入門しました。

平成28年春場所、三段目100枚目格付け出しで初土俵を踏み、アマチュア時代から一貫して磨き続けた四つ相撲を持ち味に番付を上げ、平成29年秋場所で新入幕を果たしました。

前頭8枚目で臨んだおととしの夏場所は12勝3敗で初優勝し千秋楽にアメリカのトランプ大統領から「アメリカ大統領杯」を手渡され大きな注目を集めました。

その後も安定した成績を残して去年の春場所後に大関に昇進し、伝達式では「大関の名に恥じぬよう相撲を愛し、力士として正義を全うし一生懸命努力します」と決意を述べました。

昇進後は優勝から遠ざかっていましたが、先場所までの5場所のうち4場所で、ふた桁白星を挙げて何度も優勝争いに加わり、横綱不在が続いた土俵を看板力士として支えてきました。

優しげで端正な顔だちや真面目な受け答えで人気も高く、次の世代の横綱として期待を寄せられていましたが、ファンの期待を大きく裏切る形となりました。

後を絶たない力士や親方の“ガイドライン違反”

日本相撲協会は去年7月、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けたガイドラインを策定しましたが、力士や親方が違反して処分を受ける事例が後を絶ちません。

ガイドラインが策定された直後の去年7月、幕内で三役経験者の阿炎や元十両の極芯道が7月場所の直前や場所中に複数回にわたって、接待を伴う飲食店に出入りしていたことが発覚しました。

発覚後も阿炎が店に行った回数についてうそをついたり極芯道に口裏合わせを働きかけていたりしたことが明らかになり、阿炎が3場所の出場停止と減給5か月の処分を受けたほか極芯道とそれぞれの師匠も処分されました。

去年9月には元幕内、時津海で当時の時津風親方が外出が禁止されている期間に宮城県へ出かけて居酒屋での飲食やゴルフなどをしていたことがわかり、委員から年寄へ2階級降格の処分を受けました。さらに時津風親方はことし1月にも初場所中に繰り返しマージャン店や風俗店に出入りしていたことが発覚し退職勧告の処分を受け、退職しました。

元幕内、玉力道の松ヶ根親方は去年の秋場所前に家族と4回にわたって外食していたとして「けん責」の処分を受けました。

先月には、平幕の竜電が女性に会うため25回にわたって外出違反を繰り返し、3場所出場停止の懲戒処分となりました。

今回の朝乃山への処分は、大関という地位にありながら軽率な行動をしたことやうそをついたことなどが厳しく批判され、これまでの同様のケースに比べても重いものとなりました。

相撲協会 尾車コンプライアンス部長

日本相撲協会の尾車コンプライアンス部長は、大関・朝乃山の処分について「大関という模範にならないといけない地位で虚偽の報告をした。この2点が6場所の出場停止でも致し方ないということになった」と理由を説明しました。

理事会に呼ばれた朝乃山は、懲戒処分について直接、伝えられたということで、尾車コンプライアンス部長は「“相撲協会やファンの皆さんにご迷惑をかけて申し訳ございません”と謝罪していた」と話しました。

また、地元の富山市呉羽地区から相撲協会に対して、朝乃山の寛大な措置を求めるおよそ1万1000人分の署名を添えた嘆願書が届いたことを明らかにしたうえで「本人にはこの重さをよくかみしめて、今後の生活、土俵の復帰に向けて努力をしてもらいたい。雑念は捨てて、しっかりと真摯に土俵に向かっていくことだ。そうすれば、裏切られたファンからも応援してもらえる日が来る」と話しました。

一方、相撲協会が「原則、外出禁止」としている本場所中などに外出して飲酒を伴う食事を繰り返し、10日付けで退職した元大関・朝潮の錦島親方については「本人は“大変申し訳なかった。私の自覚が足らなかった”と謝罪していた。弟子に言って聞かせないといけない立場で、出かけていたことについては率直に残念だ」と話していました。

朝乃山と飲食店に同行の記者は諭旨解雇処分に

大関・朝乃山と飲食店に同行した記者が所属していたスポーツニッポン新聞社は、11日夜「緊急事態宣言下での力士との深夜会食に関するお詫びと処分について」とする文書を発表しました。

それによりますと、朝乃山と接待を伴う飲食店に同行した記者も当初、社内調査に対してうそをついていたほか、事実を隠ぺいしようと口裏合わせを提案していたということです。

スポーツニッポン新聞社は「著しく記者としての倫理に反するだけでなく新型ウイルス感染防止の観点でも誠に不適切」などとして10日、この記者を諭旨解雇の処分としたということです。

また、直属の部長を減給の処分としたほか、社長など役員3人が役員報酬の一部を1か月、返上するとしています。

スポーツニッポン新聞社は「会社として記者教育が十分ではなく、コンプライアンス意識が全社に浸透していなかったと言わざるを得ません。読者の皆様の信頼を失っただけでなく日本相撲協会と大相撲ファンに多大なご迷惑をおかけしたことを心よりおわび申し上げます」とコメントしています。