ワクチン職域接種 旅館やホテル「早く進めたいけれど…」

新型コロナワクチンの職域接種をめぐり、旅館やホテルでは旅行需要の回復に備えて期待が高まる一方、国が「1000人以上を基本とする」としている接種の規模を満たさない宿泊施設では戸惑いの声も広がっています。

東大阪市の温泉旅館「ホテルセイリュウ」は、客室数が55部屋で大阪平野を一望できるテラスや温泉の大浴場があります。花園ラグビー場にも近く、毎年、冬になると全国高校ラグビー大会に出場する一部の選手やスタッフの宿泊先にもなっています。

今は新型コロナの感染拡大で営業を金土日の週後半だけに絞り込んでいますが、従業員へのワクチン接種が早くできれば夏に旅行需要が戻ってきたときに安心して業務が行えると会社では考えています。

しかし、このホテルの従業員数はおよそ150人です。国が示した「接種には1000人以上を基本とする」という規模には到底及びません。

近くにはホテルや旅館が少なく、温泉街のように同業者で集まって職域接種を計画することもできないとしていて、どのようにすれば職域接種が可能になるのか、担当者は地元の商工会議所に出向いて相談しました。
商工会議所からは現時点では国からの指示がなく、中小企業を対象にしたワクチン接種の手法についても国で検討中だという回答しか得られなかったということです。

旅館の運営会社「石切ゆめ倶楽部」の浜本裕行経営企画本部長は「従業員の間でも感染への不安が広がっていて、早く接種を進めたいので、地域と協力したいがどうすればいいのかがわからない状態だ」と話していました。

商工会議所には中小企業などから問い合わせ多く

東大阪商工会議所には地元の中小企業などからの問い合わせが数多く寄せられているということです。

ただ、現時点では国からの指示がなく、中小企業を対象にしたワクチン接種の手法についても国で検討中だと回答しているとしています。

商工会議所では接種の規模やワクチンの保管など把握できる範囲での情報を伝えているということです。

神戸 有馬温泉では約2000人対象に

神戸の観光地、有馬温泉では、旅館や飲食店の従業員などおよそ2000人を対象に新型コロナウイルスワクチンの「職域接種」の申請を行い、21日の実施に向けて準備を進めています。

政府は21日から新型コロナワクチンの職場や大学などでの「職域接種」を始める方針で、神戸市の有馬温泉観光協会は、ホテルや旅館、それに飲食店の従業員などおよそ2000人を対象に申請を行いました。

接種会場として会議室を提供することにした「有馬グランドホテル」では、宿泊者との接触を避けるため、接種の対象者が別の出入り口を通るよう準備しているほか、会場までの地図を作成して配ることにしています。

そして地元の医師たちの協力を得て21日から平日に一日当たり120人の接種を行い、8月のお盆休みまでに希望する従業員全員の接種を終えたいとしています。

「有馬グランドホテル」を運営する会社、「中の坊」の梶木実社長は「緊急事態宣言で客足も減り、厳しい状況ですが、観光客がピークを迎える夏を前に観光従事者の私たちが早くワクチンを接種することで客に安心して訪れてもらえるようにしたい」と話していました。

「関西の奥座敷」とも呼ばれる神戸市の有馬温泉。六甲山を越えた山あいにあり、コロナ前、夏場は涼しさを求めて大阪や神戸などから多くの人が訪れていました。

緊急事態宣言で今、客足は大幅に減少していますが、この夏、旅行需要が少しでも回復することに期待し、温泉街全体でワクチンの接種を行おうと準備を進めています。

国は職域接種の条件について効率的に進めるため、「1000人以上を基本とする」としています。

有馬温泉観光協会に加盟する旅館やホテルは51。中には500人程度の従業員を抱える規模の大きいホテルもあります。

飲食店など加盟する200の企業や店舗で働く人などを加え、当初は5000人への接種を見込んでいました。

高齢者向けのワクチン接種が進んだことで対象は2000人程度になったということです。

和歌山 白浜町は3000人ほどを想定

関西有数の観光地、和歌山県白浜町には、人気のビーチリゾート白良浜海水浴場があるほか、温泉は日本三古湯に数えられ、コロナ前は多くの観光客でにぎわっていました。

新型コロナの影響で観光地は大きな打撃を受けていますが、旅館組合や観光協会などは合同でワクチン接種を行おうと、協議を始めました。

対象は、23の宿泊施設の従業員に加えて、同じ町内にあるテーマパーク「アドベンチャーワールド」で働く従業員のほか、バスやタクシーの運転手などで、合わせて3000人ほどを想定しています。

接種を担う医療従事者をどう確保するか協議を進めていますが、夏の観光シーズンが本格化する前の来月中に接種を始めたいとしています。

白浜温泉旅館協同組合の沼田久博理事長は、「夏のシーズンまでに接種ができれば安心安全にお客様にお越しいただけると思う。新型コロナで地元経済に大きな影響が出ているので、なるべく早く接種を行いたいです」と話していました。