専門家“人出増が顕著 感染再拡大の危険性高い” 東京都の会議

東京都のモニタリング会議で、専門家は、都内の新規陽性者数は十分に下がりきっていないほか、緊急事態宣言の再延長後、人出の増加が顕著になっていて、感染の再拡大の危険性が高いと思われると指摘し、人の流れを抑制して基本的な感染防止策を徹底する必要があると呼びかけました。

会議の中で専門家は、都内の感染状況と医療提供体制をいずれも4段階のうち最も高い警戒レベルで維持しました。

新規陽性者の7日間平均は、9日時点でおよそ389人で、およそ485人だった1週間前の2日の時点の80%に減少していますが、十分に下がりきらないまま、第3波の爆発的な感染拡大の前とほぼ同じ高い水準で推移していると分析しています。

さらに今月1日からの緊急事態宣言の再延長後、繁華街の人出の増加が顕著になっていて、再拡大の危険性が高いと思われると指摘し、危機感を示しました。

そのうえで、再拡大を招かないよう、人の流れを抑制し、基本的な感染防止策を徹底する必要があると呼びかけました。

一方、いずれも9日時点で、入院患者は1626人、重症の患者は57人と、減少はしているものの、依然として高い値で推移し、医療機関への負担が長期化していると説明しました。

そして、インドで見つかった「L452R」の変異があるウイルスによる感染拡大が懸念され、新規陽性者の急激な増加で医療提供体制のひっ迫が危惧されると指摘しました。

東京都医学総合研究所社会健康医学研究センターの西田淳志センター長は「今のまま人の流れが増加した場合には、2週間ほど先に実効再生産数が上がり、感染者数の減少が横ばいで底打ちする可能性がある」と指摘しました。

そのうえで「夜間に滞留人口の増加が続くと感染再拡大のリスクは非常に高まっていく。今まさに重要な局面で、夜間の滞留人口、そして土日のレジャー目的の人の流れも抑制していく必要がある」と呼びかけました。
東京都医師会の猪口正孝副会長は「『デルタ株』の感染が拡大すると、一気に医療提供体制がひっ迫する。今はワクチン接種で医療従事者も駆り出されていて、余力が本当にない状態だ。ぜひ感染を拡大させないよう、皆さんの協力をお願いしたい」と呼びかけました。

小池知事「厳重警戒が必要という意識を継続」

モニタリング会議のあと、東京都の小池知事は、都内の新規陽性者数について「まだ高い水準のままで十分に下がりきっていないという認識が必要だ。専門家は、変異ウイルスや、人の流れの増加という要素が加わると、感染の再拡大がいつあってもおかしくないと指摘していて、厳重な警戒が必要だという意識を継続したいと思う」と述べました。

そして、テレワークや時差出勤、職場での3密回避を求めたうえで「夜間、土日の過ごし方が今後の感染状況に大きな影響を与えるので、不要不急の外出の自粛をお願いしたい」と呼びかけました。

また小池知事は、菅総理大臣が9日、希望する人すべてが10月から11月にかけてワクチン接種を終えられるよう取り組む考えを示したことについて「目標は共有したいと思う。いろいろとノウハウが蓄積しているのでスピード感を出したい。都民の皆さんが一日も早く接種を受けられるように、区市町村とも連携しながら進めたい」と述べました。

モニタリング会議 専門家の分析結果

10日のモニタリング会議で示された都内の感染状況と医療提供体制についての分析結果です。

感染状況

新たな感染の確認は、9日時点の7日間平均が389.4人となり、1週間前の2日時点の485.1人よりおよそ95人減少しました。

増加比はおよそ80%でした。

専門家は「先月下旬から80%前後で推移していて十分に下がりきらないまま高い値で推移している」と分析しています。

また第3波の爆発的な感染拡大の前と同じ水準であることを指摘したうえで「第3波の際は、新規陽性者がおよそ3週間、400人前後で推移したあと爆発的に再拡大した。感染力の高い変異ウイルスの影響を踏まえると、新規陽性者を徹底的に減らし、再拡大を防ぐ必要がある」と指摘しました。

今月7日までの1週間に感染が確認された人の年代別の割合は、
▽20代が最も多く27.9%、
次いで、
▽30代が20.9%、
▽40代が17.0%、
▽50代が11.9%、
▽10代が6.2%、
▽60代が5.0%、
▽10歳未満が4.5%、
▽70代が4.0%、
▽80代が2.2%、
▽90代以上が0.4%でした。

20代から40代を合わせると全体のおよそ65%を占めています。

65歳以上の高齢者は、今週は251人で、前の週より154人減り、割合も8.8%で減少しました。

感染経路が分かっている人では、
▼同居する人からの感染が53.8%と最も多く、
次いで、
▼職場が19.5%、
▼高齢者施設や病院、保育園や学校といった施設での感染が9.4%、
▼会食が6.9%でした。

今週は施設での感染が前の週より6.9ポイント低くなり、70代以上が施設で感染する割合も大きく低下しました。

専門家は「今週は小中学校や大学など学校関係の施設での感染事例が散見されている。また、同じ職場で一度に十数人が感染した例も報告されている」として警戒を呼びかけました。

今月7日までの1週間の新規陽性者2867人のうち、16.5%にあたる474人は無症状でした。

「感染の広がりを反映する指標」とされる、感染経路がわからない人の7日間平均は9日時点で238.1人で、前の週からおよそ48人減りました。

増加比も9日時点で83.1%で、専門家は「今月は80%前後で推移している。第2波や第3波のあとも増加比が80%前後で下げ止まっていて、第3波では緩やかな上昇傾向のあと急激に再拡大したことから、十分な注意が必要である」と指摘しました。

そのうえで「再拡大を回避するためにはさらに増加比を低下させる必要がある。人流や人と人との接触の機会を減少させ、感染防止対策を徹底することが必要だ」と呼びかけました。

感染経路がわからない人の割合はおよそ60%と前の週とほぼ同じでした。

専門家は「保健所の積極的疫学調査による接触歴の把握が困難な状況が続いている。その結果、感染経路のわからない人とその割合も高い値で推移している可能性がある。小中学校や高齢者施設などで新規の陽性者が発生すると、同じ地域内に感染者が集積し、さらに周辺にも感染が拡大するおそれがある」と指摘しています。

医療提供体制など

検査の陽性率の7日間平均は、9日時点で4.3%となり、前の週の2日時点と比べて1ポイント低下しました。

入院患者は9日時点で1626人と、2日時点と比べて306人減少しましたが、専門家は「依然として高い値で推移している」と指摘しています。

そのうえで「医療機関は、およそ1年半にわたり新型コロナウイルス患者の治療に追われている。現在はワクチン接種にも人材をあてていることから、負担は増している」と述べました。

入院患者を年代別でみると、60代以下が全体のおよそ67%を占めています。最も多いのは50代でおよそ17%、次いで70代でおよそ16%でした。

都の基準で集計した9日時点の重症患者は、今月2日時点より16人減って57人でした。男女別では、男性が44人、女性が13人です。

また、年代別では、
▼70代が最も多く21人、
次いで、
▼60代が16人、
▼50代が10人、
▼40代が5人、
▼80代が4人、
▼90代が1人でした。

60代以下の割合はおよそ54%で、専門家は「依然として高い」と指摘しています。

このほか、人工呼吸器やECMOの治療がまもなく必要になる可能性が高い状態の人は9日時点で259人で、先週の時点から28人減りました。

専門家は「重症患者数は、第3波のピーク前の去年末とほぼ同数だ。新規感染者数が減少傾向にある一方で、重症患者数や重症患者に準ずる患者数は高い値で推移していて、厳重に警戒する必要がある」と呼びかけています。

また、9日時点で陽性となった人の療養状況を2日時点と比べると、
▼自宅で療養している人は341人減って835人、
▼都が確保したホテルなどで療養している人は221人減って767人、
▼医療機関に入院するか、ホテルや自宅で療養するか調整中の人は79人減って511人でした。

「療養が必要な人」全体の数は9日時点で3739人と947人減りましたが、専門家は「依然として高い水準で推移している」と指摘しています。

そのうえで「今後の大幅な感染拡大に備え、入院医療に加えて、宿泊療養および自宅療養の体制の充実・強化を図る必要がある」としています。

また、今月7日までの1週間では、新型コロナウイルスに感染した56人が亡くなりました。前の週より18人増えました。死亡した人のうち、50人が70代以上でした。

専門家 五輪・パラ「開催中も人の流れ抑えるような感染対策」

ワクチン接種が進む中で求められる感染対策について、専門家会合のメンバーで国際医療福祉大学の和田耕治教授は「国内のワクチン接種の勢いは非常に加速していて、オリンピックが開催される予定の来月下旬までに多くの高齢者に接種できるかもしれないが、64歳以下への接種は限定的だろう。感染を広げるのは、20代から50代の活動的な年代で、変異株の影響を考えると、40代から60代の重症者数が増加するおそれがある」と話しています。

これについて京都大学の西浦博教授も、緊急事態宣言が今月20日までで解除された場合、来月末までに高齢者へのワクチンの接種が完了したとしても、感染対策がとられずに感染の再拡大が起きた場合には、東京都では再び医療がひっ迫する可能性があるとするシミュレーションの結果を示しています。

和田教授は、このシミュレーション結果をふまえたうえで「オリンピック、パラリンピックが始まる段階では、ワクチンによって地域での流行が抑えられる状況にはなっていないと考えられ、開催期間中も人の流れを抑えるようなしっかりとした感染対策が求められる。ワクチン接種が広がり、都市部での感染者数が減少すると、多くの人が楽観的な見通しを持つようになるかもしれないが、これまでも2週間から1か月ほどの短い期間での人の流れの拡大が大きな感染の波につながったことを忘れずに、感染対策を続けてほしい」と呼びかけています。