米議会上院 先端技術分野強化に27兆円の法案可決 中国に対抗

アメリカの議会上院は、半導体や次世代の通信技術など、経済と安全保障が密接に絡む分野で中国に対抗していくため、国内産業に巨額の予算を投じる法案を賛成多数で可決しました。

「アメリカ・イノベーション競争法」と名付けられたこの法案は、中国に対抗していくため、半導体やAI=人工知能、次世代通信ネットワークなど、国の安全保障にも関わる先端技術分野を強化することを柱としていて、研究開発や、サプライチェーンの構築などのために5年間で総額2500億ドル、日本円で27兆円近くの国家予算を投じる内容となっています。

また、いわゆる経済安全保障の分野で、高い技術力を持つ日本など同盟国との協力を強化していくことも盛り込まれています。

アメリカ議会上院は8日、採決の結果、賛成68、反対32の賛成多数で法案を可決しました。

バイデン大統領は、この法案を支持していて、今後、下院で可決されれば成立する見通しです。

アメリカでは、前のトランプ政権の時代に政治的分断がさらに深まりましたが、今回は野党・共和党の議員の一部も賛成し、超党派での協力が実現していて、議会の対中強硬姿勢がより鮮明になりました。

中国の人権問題や冬の北京五輪への対応についても

「アメリカ・イノベーション競争法」には、経済と安全保障が密接に絡む分野だけでなく、中国の人権問題や北京オリンピック・パラリンピックへの対応についても盛り込まれています。

来年開催予定の冬の北京オリンピック・パラリンピックについては「外交的にボイコット」するよう求めていて、政府関係者の派遣のために政府予算を使うことを禁じるとしています。

一方で代表選手や、オリンピック・パラリンピック委員会の関係者の派遣については例外とするとしていて、選手団を派遣すること自体は禁止していません。

また、法案では新疆ウイグル自治区で続く「ジェノサイド」を含む、中国共産党による人権弾圧の停止を呼びかけています。

バイデン大統領が声明「世界で最も革新的で生産的な地位維持を」

「アメリカ・イノベーション競争法」の法案が議会上院で可決されたことを受けて、バイデン大統領は声明を発表しました。

声明では「議会上院が団結しこの法案を可決したことを称賛したい。法案は私が打ち出した雇用計画に取り組む内容で私は超党派の努力に勇気づけられている」として可決を歓迎しました。

そのうえで「雇用計画に加えて法案は重要な産業を発展させ、ここアメリカで人工知能や蓄電池など将来の最も重要な技術を強化することを可能にする。技術革新のインフラを強化することで、次世代のためにアメリカの雇用や製造、技術におけるリーダーシップの基盤をつくることができる」としています。

さらに「われわれは21世紀を勝ち抜くための競争のさなかにある。ほかの国々が研究開発に投資する中、私たちが遅れをとるわけにはいかない。アメリカは世界で最も革新的で、生産的であるという地位を維持し続けなければならない」として、中国を念頭に法案の意義を強調しました。

中国「関係法案推進や中国への内政干渉やめよ」

アメリカの議会上院が「アメリカ・イノベーション競争法」の法案を可決したことについて、中国外務省の汪文斌報道官は、9日の記者会見で「この法案は中国に関する事実をわい曲し発展の道筋や政策を中傷して中国脅威論をあおるもので、断固反対する」と述べて反発しました。

そのうえで「アメリカには意識をただし、両国関係の大局と重要な領域での協力を損なわないためにも、関係法案の推進や中国への内政干渉をやめるよう求める」と述べ、法案をめぐる手続きをこれ以上進めないよう求めました。

専門家「中国を邪魔するより米を強くする内容」

アメリカ政治に詳しい笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員は「アメリカでは法律にいろいろな内容を盛り込もうとし、それができる仕組みになっている。こうした法律はクリスマスツリーにオーナメントという飾りをいっぱい付けることから『クリスマスツリー』とも呼ばれている」と話しています。

その内容については「今回はアメリカの産業競争力を強化することが主眼となっている。中でも半導体が大きく、中国との競争に勝つという大きな方向の中で中国を邪魔するというより、アメリカを強くするという内容だ。バイデン政権になって初めての大きな法律でしかも超党派で合意が得られた法律だ」と指摘しています。

そして可決の時期については、G7サミットを前に外相会合で中国への対応で一定の合意ができていることを踏まえ「G7で中国に対抗していくという合意ができているタイミングだ」としています。

さらに「中国の経済を全く切り離すデカップリングのようなことはできないしやるつもりもないが、むしろ本当に機微な技術に絞って中国にいかないようにしつつ、アメリカとアメリカの同盟国が競争力で強くなり、技術を高めて産業を発展させるというメッセージを送っているのだと思う」と分析しています。

さらに「アメリカが中国に対抗する時にこれだけ共和党と民主党が合意をしてくれることは同盟国の日本としてはありがたいということになる」としています。