ビジネス特集

その家電、修理できますか?

洗濯機やテレビ、スマートフォンなど、私たちの生活を支える家電製品。故障すると、たちまち困ったことになります。すぐに、そして、安く修理できればよいのですが…。

こうした声に応えようという動きが今、コロナ禍もあって、ヨーロッパで広がっています。(ヨーロッパ総局 藤井俊宏)

オンラインで修理をサポート

フランスで人気を集めているのは、オンラインでの家電の修理相談です。

エンジニアがいるのはパリ郊外の会社のパソコンの前。利用客は、自宅でスマートフォンのビデオ通話機能を使って故障した家電の状態を見せます。

取材した日は、洗濯機が動かなくなったという女性の相談に応じていました。
利用客:「洗濯槽が回らなくて、鈍い音がするんです」

エンジニア:「洗濯機が見えるようにカメラを向けてください」
利用客にボタンを押して動作を確認してもらったり、洗濯槽を手で回してもらったりした結果、原因は洗濯槽とモーターをつなぐベルトが切れている可能性が高いことがわかりました。

この間、かかった時間は10分余り。替えのベルトを送り、利用客が自分で修理することになりました。
9年前にパリ郊外で創業したこの会社は、オンライン相談で故障の原因を特定し、替えの部品を販売するのが主な事業です。
さらに、修理のしかたを説明する動画をつくり、誰でも閲覧できるよう、ネットで公開しています。

これまでに作成した動画は900本近く。洗濯機や食洗機、冷蔵庫など、製品ごとに詳しく解説しています。

コロナ禍で需要増、背景は

去年の春、新型コロナウイルスの感染拡大で厳しい経済活動の制限「ロックダウン」が行われると、需要が急増。1か月の売り上げは、それまでの2.5倍に拡大したといいます。

多くの企業が従業員を休ませるなかで、この会社は従業員を倍近くに増やしました。

人気の理由の1つは価格です。部品代も含めて修理にかかる費用は日本円で平均およそ5000円。人件費の高いパリで修理業者に来てもらう場合に比べると、3分の1ほどの安さだといいます。
男性客
「何でも自分でやるのが好きですし、その方が安く済みます。捨てるのは環境によくないし、安く直せるなら使い続けたいですね」
また、コロナ禍で休業を余儀なくされた業者が増えたことや、感染を防ぐため、自宅に外部の人を入れるのを避ける動きが広がったことも、需要を押し上げました。
Spareka ジュフロア・マラテールCEO
ジュフロア・マラテールCEO
「フランスでは毎日1万5000台の洗濯機が故障しますが、修理するにも業者が訪問できず、オンライン相談が大幅に増えました」
気になるのは安全面ですが、この会社は、メーカー保証の期間内であればメーカーへの修理依頼を勧めているほか、危険な作業を伴う可能性がある場合は、専門の業者を紹介しているということです。

修理のしやすさを“指数”に!?

指数を紹介するフランス政府のホームページ
地球環境のために家電を修理して長く使い、ごみを減らそうという取り組みは、フランス政府もコロナ禍の前から進めてきました。

ことし1月、洗濯機やテレビなど、5つの品目を対象に表示が義務づけられたのが、その名も「修理のしやすさ指数」。最高の評価は10で、数字が大きいほど修理がしやすいことを示しています。

分解や替えの部品の入手のしやすさ、それに修理のための情報提供の度合いなどの基準をもとにメーカーがみずから評価し、政府の機関が監督します。

消費者に修理しやすい製品を選んでもらうように仕向けることで、修理して長く使える製品づくりをメーカー側に促すねらいがあります。
指数の導入を推進するNGO レティシア・バスル共同代表
レティシア・バスル共同代表
「修理のしやすさが一目で分かるので、メーカーの間で競争になることを期待しています。他社の製品よりも自社のもののほうが修理しやすいというアピールにつなげられます」

本腰を入れる大手メーカーも

修理のしやすい製品づくりで先駆的な取り組みを行う大手のメーカーがフランスにあります。

主に小型家電を製造するこのメーカーは、業界でもいち早く10年以上前から取り組んできました。
業者に持ち込まれたこのメーカーの製品の修理の様子を見せてもらうと、電気圧力鍋は、分解するのにドライバー以外、特別な工具は必要ありません。故障した心臓部の基板も、ソケットから取り外し、替えの基板をはめ込むだけで簡単に交換できていました。
修理に欠かせない替えの部品の準備にも万全を期しています。フランス東部と香港にある倉庫には、世界各地の部品メーカーから取り寄せた部品、合わせて800万点を保管。

注文があれば、基本的に数日で世界各地に届けられる体制をとっています。
さらに、在庫がない部品は、注文に応じて3Dプリンターで作ります。

こうした取り組みで、生産が終了してから10年から15年たった製品についても部品を供給し、修理できるようにしています。
大手家電メーカー「グループセブ」アラン・ポトロさん
アラン・ポトロさん
「部品を保管するには広い場所が必要で、コストがかかりますが、1ユーロ(=130円余)の部品があれば、500ユーロ(6万6000円余)の製品を修理できるので、消費者のメリットは非常に大きいです。10年前に購入した製品も修理できますから」
修理が容易であればあるほど、新しい製品が売れなくなって会社にとってマイナスなのではないかという疑問もわきます。

しかしこの会社は、そうした時代は過去のものだといいます。
アラン・ポトロさん
「耐久性があって修理できることをアピールするメーカーは多くなっていますし、消費者も長い間使えないものは買わなくなってきています。買い替えるよりもはるかに低コストで修理でき、長く使えることを消費者に知ってもらうことが、より重要になっています」。

「修理する権利」って?

ヨーロッパでは、今、「修理する権利」という考え方が注目を集めています。

消費者が、自分が持つ製品を修理し、使い続けることは「権利」であり、メーカーは、そこに配慮した製品づくりを行うべきだという考え方です。

EU=ヨーロッパ連合の議会は、去年11月、EUとしてこの権利の確立に努めるよう求める決議を賛成多数で採択し、部品が入手しやすく、修理に費用がかからない製品をEUとして認証する制度を導入することなどを提言しました。

ヨーロッパだけでなく、アメリカでも、メーカーに対して製品の情報公開など、「修理する権利」を尊重するよう求める動きが起きています。

世界的な潮流とも言えるこうした動きについて、私が話を聞いた、ある日本メーカーの関係者は、修理のしやすさを追求するとコストが増え、価格に転嫁せざるを得なくなると懸念していました。

ただ、世界的な環境意識の高まりとともに、家電製品をできるだけ長く使うという流れは後戻りすることはないとみられます。日本メーカーも、取り組みの強化を求められることになりそうです。
ヨーロッパ総局記者
藤井 俊宏
1997年入局
沖縄局 カイロ支局などを経て現所属
中東、ヨーロッパを幅広く取材

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