新型コロナ 東南アジアで感染拡大 マレーシアでロックダウン

東南アジアは新型コロナウイルスの感染が比較的抑えられているとされてきましたが、4月以降、感染が拡大する国が相次いでいます。ワクチンの接種が欧米などと比べて遅れている中、各国は厳しい外出制限を導入するなどして警戒を強めています。

このうちマレーシアでは5月中旬以降、1日当たりの感染者が連日6000人以上確認されていて、感染の拡大に歯止めがかからない状態となっています。

このためマレーシア政府は6月1日から2週間、全土で企業の経済活動などを厳しく制限するいわゆるロックダウンを実施しています。

またシンガポールでは4月以降、病院や空港などで複数のクラスターが発生し、変異ウイルスの感染も広がっているとみられています。

これを受けて、6月初めに予定されていたアジア太平洋地域の国防相らが集まる会議など対面での開催を目指していた大規模な国際会議が相次いで中止となりました。

シンガポール政府は5月中旬、外出は2人までとするほか企業は原則在宅勤務などとする厳しい措置を導入しています。

一方、ベトナムでは4月末以降、多い日には1日に400人以上の感染が新たに確認されるなど増加傾向が続いています。

5月にはインドで最初に確認された変異ウイルスに感染した人からさらに別の変異が起きたものを検出したとする専門家の分析結果が公表されました。

東南アジアではワクチンの接種率がシンガポールを除いて1ケタ台となっている国が多く、欧米などと比べて遅れていて、各国は厳しい外出制限などで警戒を強めています。

マレーシアではロックダウン

マレーシアでは5月中旬以降、1日当たりの感染者が連日6000人を超えるなど感染が急速に拡大しています。

イスラム教の断食月ラマダンが終わり大勢の人たちが会食などで集まる機会が増えたことや変異ウイルスの感染拡大が主な原因と見られています。

国内の医療体制はひっ迫していて、新型コロナウイルスの治療にあたる医療機関では5月29日時点で集中治療室のおよそ9割が使用されています。

事態を重く見たマレーシア政府は6月1日から全土で企業の経済活動などを厳しく制限するいわゆるロックダウンを実施しています。

ロックダウンは6月14日までの予定で、スーパーや銀行、それに一部の製造業を除いて経済活動が禁止され、人々の外出は生活必需品の買い出しや通院などに限るとしています。

ただ、操業が認められている一部の製造業でも出勤できる従業員は6割に制限されていて、景気の悪化が懸念されています。

マレーシア 町は閑散

経済活動を厳しく制限するいわゆるロックダウンが実施されているマレーシアでは、生活に欠かせない買い物や通院などを除く外出は制限されているため町は閑散としています。

臨時に設置された検問所では警察官が車を止めて乗っている人たちに外出の目的を確認しています。

首都クアラルンプールの中心部にある薬局では、感染拡大後は肺炎などの呼吸不全を起こしていないかを調べるため体内にどの程度酸素を取り込めているかを測定する機器などを買い求める人がいたということです。

しかし6月に入ってからは売り上げがおよそ半分に減少したということです。

経営者の男性は「ロックダウンの期間を乗り切れたとしても感染拡大が収まらなければ制限期間は延長されるでしょう。商売人としては悪夢です」と話していました。

一方、レストランや屋台などの飲食店では店内や店先での飲食が禁止されています。

中心部にあるマレー料理の店ではテイクアウトで料理を提供していますが、客は少ないということです。

経営者によりますと売り上げは8割ほど減少したということで「われわれのような小規模の飲食店は深刻な影響を受けています。市場に流通する食材も少なく高値になりましたが、料理を値上げしたら客は満足してくれません」と話していました。

市民はどう暮らしているのか

ロックダウンのもとで市民はどう暮らしているのか、首都クアラルンプールに住むシャ・アヒョさん(60)を取材しました。

高齢の父親と暮らすシャさんはこれまで外食が中心でしたが、ロックダウンで自炊する機会が増えたということで、自宅には1週間程度食事を作れるだけの食材や調味料を保管しています。

また、父親が運動不足にならないようにと毎日1時間ほど一緒に散歩することを日課にしているということです。

シャさんはふだん講演活動を行っていますが、ロックダウン期間中は自宅で原稿の執筆に力を入れているということです。

シャさんは「日課を決めて家での時間が退屈なものにならないよう心がけていますが、何をしていいのかわからなくなるときがあります。自由に外出して仕事をし、人と会えるようになることを願っています」と話していました。

感染拡大 パーム油影響

マレーシアでは、感染拡大を受けて、主要な輸出品であるパーム油の生産にも大きな影響が出ています。

マレーシアは食用油やせっけんなどの原料となるパーム油の世界第2位の生産国で、日本にとっては輸入するパーム油のおよそ6割を占める最大の輸入先となっています。

しかし、感染拡大に伴う入国制限の影響で、パーム油を採取するアブラヤシの農園では、外国人労働者が十分に確保できておらず、中国などでの需要増も重なって供給不足の懸念が出ています。

こうした状況を背景にマレーシアでは去年の春以降、パーム油の取り引き価格は上昇傾向が続き、ことし4月の平均価格は、去年の同じ時期のおよそ1.8倍になりました。
首都クアラルンプール近郊のヌグリスンビラン州にあるアブラヤシ農園でも感染の拡大前には40人ほどいた外国人労働者が10人まで減り、生産量もおよそ4分の3に減っているということです。

6月からはいわゆる「ロックダウン」も始まるなど労働者が戻ってくる見通しは立っておらず、農園を経営するトン・ナムキンさんは「十分な数の従業員が仕事できるようになれば、生産を増やせるが、政府の行動制限には従わなければならない」と話しています。

パーム油に加えて大豆の価格なども国際的に上昇しているため、日本ではことしに入って大手食品メーカーが食用油を相次いで値上げし、日本の家計にも影響が及んでいます。

専門家 「日本の家計にも影響出る可能性」

東南アジアの経済に詳しい第一生命経済研究所の主席エコノミスト、西浜徹さんは感染拡大の背景について「東南アジアの多くの国はワクチン接種が遅れている。水際対策を厳しくやってきたものの、抜け穴的に変異ウイルスが入ってきて感染拡大につながった」と指摘しています。

そのうえで「ロックダウンが行われることで、移民労働者を中心に労働力の確保が難しくなる。その結果、原材料価格や食料品などの価格高騰につながっていく可能性は十分にあり、日本の家計にも影響が出てくる可能性がある」と話しています。

さらに西浜さんは「中国にサプライチェーンを集中するリスクが意識され、その分散先として東南アジアは注目されてきたが、今は感染拡大の中心になってしまっている。サプライチェーンの寸断によって、日本企業を中心に経済活動に悪影響が出ることは避けられない」として、感染の拡大が東南アジア各地に拠点を持つ日本企業にとっても懸念材料になるという見方を示しました。