医薬品メーカーへの調査強化 都道府県の3分の1が見通し立たず

福井県の医薬品メーカー「小林化工」が製造した治療薬に睡眠導入剤の成分が混入した問題を受けて、国は都道府県に対し、医薬品メーカーへの事前通告なしの立ち入り調査を増やすよう求めていますが、NHKのアンケート取材に対し、都道府県の3分の1余りが「増やす予定だが具体的な見通しが立っていない」と答えました。多くの自治体が職員の不足や育成の難しさを指摘しています。

小林化工の問題をめぐっては、厚生労働省と福井県の調査で、国が承認していない工程での製造や、いわゆる「二重帳簿」の作成などによる組織的な不正の隠蔽が明らかになりました。

この問題を受けて、厚生労働省はことし2月、再発防止策として、医薬品メーカーへの事前通告なしの立ち入り調査を増やすよう都道府県に通知していて、NHKは先月、対応の状況をアンケート取材しました。

その結果、今年度の事前通告なしの立ち入り調査の回数について、
▽「増やした」、または「増やす予定で具体的な日程などのめどが立っている」という回答が22の自治体からあった一方、
▽「増やす予定だが具体的な見通しは立っていない」という回答が16の自治体と、全体の3分の1余りに上りました。
また、現状の体制の課題を複数回答でたずねたところ、
▽「検査回数を増加・継続するための職員の数が少ない・不足している」が最も多く26の自治体、
▽「検査にあたる職員の十分な育成が難しい」が24の自治体に上りました。

自由記述の回答では、「高い専門性が求められるが適切な教育・訓練などを受ける機会が少ない」、「教育・訓練に多くの時間を要する一方、定期的な異動が避けられない」などとする指摘がありました。

また、「緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域となっているため現場に出ての調査や研修を増やすことができない」などとコロナ禍での難しさを指摘する回答もありました。

課題の解決に向けて国などに要望したいことについて自由記述で尋ねたところ、研修や訓練など教育の機会を設けることや、調査のガイドラインを充実させることなど、事前通告なしの立ち入り調査の強化に向けて国の支援を求める回答が多く寄せられました。

立ち入り調査 自治体によって職員の体制に差

都道府県へのアンケート取材では、医薬品メーカーへの立ち入り調査に当たる職員の体制などについても聞きました。

医薬品メーカーの監視は「法定受託事務」として国から都道府県に業務が委託されていて、厚生労働省によりますと、配置する職員の人数はそれぞれの都道府県が必要な数を判断しているということです。

アンケート取材の結果、検査を行う担当部署に専任の職員を置いているのは11の自治体で、全体の4分の1ほどにとどまり、ほかの業務との兼任という回答が多くなりました。

また、担当部署の職員の数は2人から30人と、自治体によって差がありました。

背景には調査対象となる医薬品メーカーの製造所の数の違いがあるとみられるものの、中には調査対象がほかの自治体より多くても担当の職員が少ない県もありました。

通告なし立ち入り調査大幅増加の県も 他業務効率化で

静岡県は、医薬品メーカーへの事前通告なしの立ち入り調査を増やそうと、業務の効率化を進めています。

静岡県は、2019年度の医薬品生産額がおよそ8400億円と全国で3番目に多く、県内には70近くの医薬品メーカーの製造所があります。

県は、医薬品メーカーの監視や指導を担う専従の担当班を2つ設置し、兼任の職員を含む13人の体制で、これまで年間十数回の立ち入り調査を行ってきました。

厚生労働省からの通知を受けて、今年度から、事前通告なしの立ち入り調査の回数を大幅に増やすことを計画しています。

一方、職員の体制は今のままなので、立ち入り調査以外の業務の効率化を進めようとしています。

具体的には、県庁から40キロほど離れた場所に拠点を置く専従の担当班と本庁との打ち合わせは、原則としてオンライン会議に切り替え、移動の時間のむだを無くしました。

また、年間1000件ほどに上る医薬品メーカーなどからの相談も、できるかぎり先方には出向かず、電話やオンライン会議に切り替える方針です。
静岡県薬事課薬事審査班の吉澤義光専門主査は「無通告での立ち入り調査は、調査する側も受ける製造所側にとっても非常に負荷のかかるものだが、一方で、現在医薬品に対する信頼は非常に揺らいでいる状態にあり、難しいことではあっても、やっていかなければいけない」と話しています。

専門家「都道府県単位での監視では限界」

アンケート取材の結果について、薬剤学が専門の北陸大学薬学部の村田慶史教授は「都道府県ごとに検査体制や経験に差があり、都道府県単位での監視では限界がある」と指摘しました。
そのうえで「現状の体制は問題が起こるとの前提で組織が作られておらず、専門的知識を持った人員を確保して自治体に補充し、調査に活用するべきだ」として、専門家や医薬品メーカーOBなどの人材を国が確保して都道府県を支援するべきだとしています。

また、医薬品政策に詳しい神奈川県立保健福祉大学大学院の坂巻弘之教授は「今後は会社側が悪意を持ってデータ改ざんなどの準備をしている可能性を考えなくてはならず、調査の際には社内の他部署の職員も含め幅広く話を聞くなど、今までと違うやり方で行う必要がある」として、国が調査の方法や手順を見直して都道府県に示す必要性を指摘しました。
そのうえで「製薬会社の製造プロセスが安全なものだということを国民に説明できるよう、国が各企業の製造や品質管理のプロセスをもっと『見える化』させるなど、積極的に関わることが重要だ」としています。

厚労省「都道府県の支援進める」

医薬品の監視を担当する厚生労働省監視指導・麻薬対策課は「医薬品の製造管理や品質管理を徹底し、安全な医薬品を提供するためには、都道府県による調査が果たす役割は極めて大きいと考えている。厚生労働省としても都道府県の意見を踏まえながら、調査ガイドラインの作成や研修会・模擬査察の実施など、都道府県の調査業務を支援する取り組みを進めていきたい」とコメントしています。