ベトナム人帰国のための「レスキュー便」約3週間ぶり運航

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、1か月近く運航が止まっていた日本から帰国するベトナム人向けの航空便が、5日成田空港から運航され、空港には帰国を希望するベトナム人が大勢詰めかける事態となりました。

ベトナムでは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う水際対策で現在、日本からの定期便が運航されていません。

このため、ベトナム政府は日本で暮らすベトナム人で病気や妊娠など特別な事情がある人が優先的に帰国できるように「レスキュー便」を運航していますが、水際対策がさらに強化され、先月中旬以降、1か月近く運航が止まっていました。

5日、成田空港ではベトナムに向かうレスキュー便がおよそ3週間ぶりに2便運航され、帰国するベトナム人の技能実習生や留学生など、合わせて300人余りが長い列を作って乗り込んでいました。

帰国するベトナム人留学生の男性は、「1年間、帰国を望んできてやっと帰れます。彼女や両親に会えるのでとてもうれしいです」と話していました。

一方、レスキュー便のチェックインカウンターの付近には、あらかじめチケットを手に入れることができず、キャンセルを待つ人たちも数多く詰めかけていました。

成田空港の国際線ロビーは新型コロナの影響でふだんは閑散としていますが、5日は航空会社のスタッフが帰国しようと集まった人たちの誘導にあたっていました。

ベトナム大使館によりますと、日本から帰国を希望しているベトナム人は、先月末の時点でおよそ7000人に上るということですが、大使館では今のところ、今月成田空港から運航するレスキュー便は5日の2便のみと発表しています。

ベトナムの水際対策で帰国難しく

なぜいま日本で暮らすベトナム人の帰国が難しくなっているのか。

ベトナム大使館などによりますと、これまで感染拡大を抑え込んできたベトナムで、4月末以降、再び感染が広がっていることが背景にあります。

変異ウイルスへの感染も相次いで確認されるようになり、ベトナム政府は「水際対策」を強化し、帰国者や入国者の隔離期間を延長しました。

しかし、ベトナム国内で帰国者などを隔離する施設の収容人数に限界があることから、ベトナム行きの航空便の数が制限されているということです。

感染拡大前には、成田空港から一日10便飛んでいたベトナム行きの定期便は現在は運行していません。

このためベトナム政府は日本で暮らすベトナム人で病気や妊娠など特別な事情がある人が優先的に帰国できるように、「レスキュー便」を運航しています。

ただ、レスキュー便に乗るためのチケットにも限りがあるため、ベトナム人を支援する団体を運営する松本伸彦さんは、帰国できないベトナム人に対し、宿泊場所を提供するボランティアを行っています。

松本さんは5日も成田空港で帰国できずに困っているベトナム人がいないか声をかけていました。

松本さんが声をかけたベトナム人のトゥエットさん(24)は妊娠4か月でレスキュー便のチケットを持っていませんでした。

トゥエットさんは技能実習生として来日したものの暴力を振るわれたことなどから岡山県内の実習先から逃げ出し、お金や住む場所がなく、友人の家を転々としているということです。

トゥエットさんは「日本では保険もないのでとても心配です。ベトナムに早く帰国したいです」と涙ながらに話していました。

またカップルの中にはパートナーがチケットを持っていないため離ればなれになってしまう人もいて、涙を流して別れを惜しむ姿も見られました。

松本さんは、「ベトナムに帰国する航空便が減り、行き場を失ったという相談が相次いでいます。就労や留学でベトナム人を受け入れてきた日本側は帰国まで責任を持ってほしいです」と話していました。

日本政府も水際対策強化

一方、日本政府は、ベトナムで変異した新型コロナウイルスによる感染が拡大していることを受け、水際対策を強化しています。

政府は、4日からベトナムからの帰国者や入国者に対し、14日間の待機期間のうち、入国後6日間、国が確保した宿泊施設にとどめて検査を行う「停留」措置を始めました。

5日朝、ハノイから成田空港に到着した便の乗客は、検疫所の検査を受けたあとスタッフの誘導でバスに乗り込み宿泊施設に向かいました。

ベトナムの保健当局は、インドで最初に確認された変異ウイルスについて、さらに別の変異が起きたものが検出されたとする分析結果を公表しています。

ベトナムから帰国した60代の日本人の男性は、ワクチンを接種するため一時帰国したということで、「ベトナムで新しい変異ウイルスが検出されたことで、現地でも不安が広がっているのを感じました。6日間、宿泊施設での停留措置はやむをえないので、運動不足に気をつけながら過ごします」と話していました。