ワクチン打ったらマスク外していいの?~専門家に聞きました

ワクチン打ったらマスク外していいの?~専門家に聞きました
新型コロナウイルス対策の切り札と言われるワクチン。少なくとも1回接種を終えた人の数は、これまでに全国で1000万人を超えました。

皆さんの周りにも「もう受けた」という人が出始めて、「ワクチン接種を終えたら以前の日常生活に戻れるのでは…」と期待する人もいると思います。

「ワクチン打ったらマスク外していいの?」「友達と会食していいの?」「実家に帰省して親と会っていいの?」

“接種後”についてのモヤモヤした疑問を専門家に投げかけてみました。

(ネットワーク報道部記者 野田 綾 目見田 健 田隈 佑紀)

接種受けた人の思いは

政府が設置した東京の大規模接種センター。

1回目の接種を終えた皆さんは、どんな思いでいるのでしょうか。
◇東京・大田区の女性(76)「変異ウイルスが心配だし、ワクチンを受けても感染するかもしれないので、マスク着用や手洗いは続けます。周りの人たちの様子を見ながら、マスクを外すタイミングを図るんだと思います」

慎重な意見でした。

◇昭島市の女性(65)「安心しました。2回の接種を終えたら友人を家に招いて趣味のホームパーティーをしたいです。接種を終えた人だけで集まって、マスクなど気にせずに飲食できればいいなと思っています」

東京オリンピックのボランティアもする予定だということで、「楽しみです」と話していました。
◇江戸川区の夫婦(夫86・妻78)「1年以上会えていない息子夫婦や孫の顔が見たいです。ずっとできていない、愛媛県への墓参りにも行きたい…」

これまでの我慢がしのばれますが、「若い世代の接種が進み、感染者が減るまではこれまでの生活を続けます」とも話していました。

期待と不安が入り交じったような気持ちを多くの人が抱いていました。

「マスク外したい」

ネット上では、まだ接種を受けていない人からも期待の声が出ています。

「早くワクチン打ってマスク外したい」
「ワクチン打てば旅行に行くくらい許してほしい」
「母のワクチン接種が無事終わったら、お盆には実家に帰省していいのかな?たぶん私はまだワクチン受けられてないと思うけど」

行動制限や自粛が続いていますが、接種を受けたあとには、どんな行動ができるのでしょうか。

感染症、そしてワクチンに詳しい2人の専門家に、現時点での見解を聞きました。
(※5月末~6月初めに取材)

Q ワクチン接種を受けたらマスクを外していいのでしょうか?
川崎医科大学(小児科)中野貴司教授
接種を受けたとしても、マスクを外していいわけではありません。ワクチンを打ったあとも感染するおそれがあり、知らないうちにほかの人に広めてしまうおそれがあるからです

ワクチンの効果は、▼「感染」そのものを防ぐ効果や、▼感染しても「発症」を防ぐ効果などに分けられ、日本で接種が始まった新型コロナのワクチンは、海外の研究から「発症」を防ぐ効果は高いと考えられています
Q 感染を防ぐ効果はどうなんでしょうか?
「感染」そのものを防ぐ効果については、まだはっきり分かっていません。

海外では感染を防ぐ効果をうかがわせる報告も出ていますが、完全に確定された結論ではないのです。

実際、ワクチン接種後に感染したというケースが国内でも報告されています。

接種後に感染した場合、症状が出なかったり軽症で済んだりすることがあり、感染したことに気付かないままウイルスを出して、ほかの人に感染させるおそれがあるのです。

医療機関では通常、生まれたばかりの赤ちゃんがいる新生児室に入るとき、マスクをします。

私たちに症状がなくても何らかの病原体を持っている可能性があるので、赤ちゃんを守るためにマスクを着けるわけです。

それと同じで、知らないうちに人にうつさないため、そして感染拡大を防ぐために、まだマスクを外せる段階ではないのです。
Q 接種を済ませた人どうしなら、友人と会食してもいいでしょうか?
中野貴司 教授
マスクを外しての会食は避けるべきです。

接種を受けても感染を防ぐことはできず、また、発症を抑えたり重症の人が出るのを防いだりする効果も100%ではありません。

さらに、ワクチンの効果がどれほどの期間続くかも不明です。

現時点では、接種を受けたあとも、これまでどおりマスク着用や密を避ける、人との距離を保つといった対策が必要です。
別の専門家も慎重な意見です。
北里大学 中山哲夫 特任教授
接種を受けても、時間がたつとどうしても免疫力が下がります。

インフルエンザのワクチンは1年たつと免疫力が半分くらいに落ちます。

新型コロナのワクチンは臨床研究が始まってから1年もたっておらず、長期的な効果はまだ分かりません。

そして、感染拡大が長引くと、ワクチンが効かない新たな変異ウイルスが現れるおそれもあります。

接種を受けたとしても、ふだん会わない人と感染対策を取らずに会食するのは避けたほうがいいでしょう。

飲食はやはりリスクが高くなります。
Q 長らく実家に帰省していない人も多いと思います。実家の親が接種を受けた場合、自分たちはまだでも帰省していいでしょうか?
中山哲夫 特任教授
感染の状況が落ち着いて緊急事態宣言などが解除されている場合…という前提ですが、親が接種を終えていれば、帰省すること自体はあまり問題ないと思います。

帰省する人は日頃から感染対策に気をつけて、移動中も注意を払い、そのうえで帰省先の実家で食事をともにするくらいは許容範囲ではないでしょうか。

海外に目を向けると

基本的に対策の手を緩めるわけにはいかないようです。

でも、海外に目を向けると、最近は接種が進んだ国で規制を緩和する動きが出ています。

イスラエルでは、4月に屋外でのマスク着用の義務が解除されました。

5月には、アメリカのバイデン大統領が、ワクチン接種を完了した人は公共交通機関を利用する場合などを除いて、屋内外でマスクを着けなくてもいいとする新たな指針を示しました。
その後も、ドイツの首都ベルリンでは、およそ半年ぶりに飲食店の屋外での営業が再開されました。

ビアガーデンでは、マスクを外してビールを楽しむ人たちの姿が見られるようになりました。
Q 接種が進む一部の国では、コロナ前の日常生活を取り戻しつつあるように見えます。日本でも同じようにはいかないのでしょうか?
中山哲夫 特任教授
日本は欧米などと比べてまだ接種率が低く、以前の生活を取り戻せるレベルではありません

アメリカで5月に新たな指針が示されたとき、2回の接種を済ませた人が18歳以上の40%を超えていました。

感染者の数が以前より減っていく中で原則としてマスクを外してもいいという判断をしましたが、この背景には、
◆アメリカ国民の間でマスクを着け続けることへの抵抗感が強いこと
◆ワクチン接種を促すため「接種すれば日常に戻れる」という動機づけをしてきたこと、
こうしたアメリカの事情もあると思います。

実際は、接種を受けていない人も相当数いるので、感染を封じ込めるにはマスクなどの対策を続けるのが望ましいです。
中野教授も慎重な見解です。
中野貴司 教授
日本はまだまだ接種率が低いです。

仮に「接種を受けた人はマスクを外していい」としても、誰が本当に接種を済ませたのか確認して管理するのは難しいです。

接種率がもっと高くなって感染者数が十分に減った段階で、ようやくマスクを外せるかどうか検討できると思います。
Q なかなか出口が見えず、我慢が続くと思うとつらくなります。どうなったら日常を取り戻せるのか、道筋はありますか?
中山哲夫 特任教授
マスク着用や密を避けるといった基本的な対策は、この先、2~3年は続ける必要があると考えています。

ただ、国内での接種率が人口の40%を超えたあたりで、行動制限を緩められないか、社会的に議論するタイミングが来るかもしれません。
Q どうして40%なのでしょうか?
中山哲夫 特任教授
多くの人がウイルスへの抗体を持つことで社会全体が守られる「集団免疫」がどれほどの接種率で実現できるかは、感染症の種類によって異なります。

例えば、感染力がとても強いはしかを封じ込めるには、接種対象者の接種率を95%以上にする必要があります。

一方、新型コロナの流行状況や接種が進んだ海外の現状から分析すると、求められる接種率は40%前後と考えられます。

イスラエルでも接種率が40%になったころに感染者の数が減り始め、アメリカが原則マスクを外していいとする指針を示したのも、これを参考にしたとみられます。

日本で40%を超えるのは早くても8月以降になると思いますが、そのころには海外からもより多くの情報が入ってくると思うので、どういう行動なら許容できるのか検討することはありうると思います。
最後に、こんな質問を投げかけてみました。
Q コロナに打ち勝つために、何が大切だと思いますか?
中野貴司 教授
社会全体の接種率を着実に上げていくことです。

今、接種が進められている高齢者は重症化のリスクもあり、接種を希望する人が多いと思います。

これに対し、比較的症状が軽いと言われる若い人の中には関心が低い人もいると考えられます。

若い人を含め、しっかりと接種を受けて流行を抑制する、そして、マスク着用や密を避けるなどの対策を続けること、これが結局、元の生活を取り戻すための近道と言えます。
中山哲夫 特任教授
コロナ以前の日常に戻るにはまだかなり時間がかかりますが、接種率が伸びるにつれて、行動制限も徐々に解除されていくと思います。

こうした中で、それぞれの人がどんなところに感染リスクがあるか理解して、自分たちで考えながら行動していくことが大切です。

ワクチンと、一般的な感染予防策の両輪を回すことで、ワクチン接種を受けられない人、受けたくないという人も含めて、社会全体を守っていく必要があると思います。
確かな情報に基づいて安全・安心を実現するために、今しばらく“踏ん張りどころ”が続きそうです。

※個別に取材した内容を構成しました。