苦境のバス会社「一本足打法」の経営から脱却を

苦境のバス会社「一本足打法」の経営から脱却を
人々の生活に欠かせないバスですが、コロナ禍で苦境に立たされています。高速バスなどはおととしに比べて乗客数が60%近く減少。このままでは路線を維持できなくなるとバス会社は危機感を強めています。こうした中、バス頼みの経営から脱却し、新たな収益源を確保しようという模索が始まっています。(山形放送局記者 堀 征巳・仙台放送局記者 杉本 織江)

ドル箱路線が大打撃

毎朝、JR山形駅前にやってくるバス。山形市の山交バスと仙台市の宮城交通が運行する「山形ー仙台線」です。ラッシュアワーの午前7時前後は、実に4分間隔で運行しています。

実は山形と仙台は隣接していて、通勤・通学で行き来する人が多くいます。感染拡大前、この路線の乗客は年間およそ170万人にのぼり、バス会社にとって「ドル箱路線」でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で昨年度はおよそ80万人と半分以下に減りました。

こうした傾向は全国共通です。国土交通省によりますと、2021年4月の乗客数はおととしに比べて路線バスで24.4%減少、高速バスなどに至っては59.1%減少しました。

不安抱えながら利用する乗客

なぜ乗客数がここまで落ち込むのか。感染拡大でバスでの移動に不安を感じる人が増えているからです。山形市から仙台市の大学に通う学生に話を聞きました。

感染拡大を防ぐため、大学での授業は週2日だけですが、それでもバスに乗ることにはためらいもあると言います。
仙台市の大学に通う学生
「バスは密室でもあると思うので、大勢の人と一緒に空間を共有し合うのはリスクが高いのではないかと思う。それでも大学に行く手段はバスぐらいしかないので、なんとか対策をしながら乗っている」
なかにはバスの利用を減らし、密にならない自家用車での移動を増やしている人もいます。自営業の男性(39)は「バスで行ったり、自家用車で行ったりを繰り返している。バスは便利なので個人的には使いたいが、家族の不安を和らげるための選択をしている」と話していました。

運行見直しの可能性も

バス会社は、車内の密を避けるため、平日の本数は感染拡大前の9割を保っていますが、乗客回復の見通しは立っていません。このままでは路線バスの運行の見直しを検討する可能性も出てくるとしています。
山交バス 高橋常務
「新型コロナウイルスの影響が出始めて1年以上になるが、当初は、こんなに長引くとは考えていなかった。現状が改善しない場合、今までどおり運行するのは難しく、地域の公共交通の役割が果たせなくなってくるのではないか」

始まったバス会社の模索

厳しい経営環境を乗り切ろうと、事業の在り方を大きく見直そうとしている会社もあります。仙台市にある宮城交通は昨年度、過去最大規模のおよそ10億円の赤字を計上しました。

この会社の青沼正喜社長は、収入源の大半をバス事業が占める現状のままでは、路線を維持できないと考えました。そこで掲げたのが「交通を核とした総合産業化」です。バス以外の収入源を確保することで、経営を安定させようというのです。
宮城交通 青沼社長
「バス事業すべてが大赤字の状態です。事業領域を拡大しながらバスに補填(ほてん)できるような体制づくりが必要なんだと思います」

不動産事業を新たな柱に

検討しているのは、バス事業と連動した不動産事業です。バス会社は、車両を待機させるための場所など多くの土地を所有しています。

この中の空いたところに貸店舗や集合住宅を建て、安定した家賃収入を得ようというのです。将来的には、そうした場所をバス路線で結んで、乗客を増やすことも想定しています。
宮城交通 青沼社長
「生活の足として期待されている以上、私たちはどんな形でもバス路線を守っていかなきゃいけない。事業者としていろんな知恵を絞っていきたいと思っています」

重複路線を共同経営

事業を効率化することで、経営を改善しようという模索は各地で始まっています。その1つが、熊本県や岡山県で始まっている「共同経営」です。

複数のバス会社が、協力してバスを運行し、収益を回復させようとしています。
これまで会社どうしで運行本数などを協議することは独占禁止法で規制されていましたが、去年、地方のバス会社に特例を認める法律ができ、ほかの地域でも導入が検討されています。
また山形県鶴岡市では、郊外の路線を乗り合いタクシーやコミュニティーバスに切り替え、中心部を循環する路線バスの維持につなげています。

バス停の間隔を300メートルごとに狭め、高齢者が乗りやすくする取り組みも進めようとしています。

「生活の足」を守れ

東北運輸局のまとめによりますと、東北地方では平成29年度以降、毎年1000キロのペースでバス路線が廃止されています。

バス会社の多くは、新型コロナウイルスが収束しても、一度減った乗客は完全には戻らないとみていて、路線廃止のペースはさらに加速しかねません。

これまで当たり前のように走って私たちの暮らしを支えてきたバス。乗客減少を受けて、バス会社には将来を見据えた変革が求められています。
山形放送局記者
堀 征巳
2004年入局
国際部、ヨーロッパ総局を経て2018年から現所属
仙台放送局記者
杉本 織江
2007年入局
国際部、アジア総局などを経て2019年から現所属
地域経済や生活の課題を取材中