子どものヘディング 危険なの?

子どものヘディング 危険なの?
頭に繰り返し衝撃が加わることで、脳に影響がでる“かもしれない”。

そんな考えで海外ではサッカーで子どもの「ヘディング禁止」をする国が出てきています。

そして日本でも先日、ヘディングの指導方針を示したガイドラインが発表されました。
ヘディングって危険なの?

(ネットワーク報道部 記者 林田健太)

きっかけとなった調査

200を超える国と地域で楽しまれている世界的なスポーツ、サッカー。
いまヘディングをめぐる議論が世界で盛んにおこなわれています。

背景のひとつは、イギリスでおととし発表されたある調査結果です。大学の研究チームが、亡くなった元プロサッカー選手、7000人以上を調査した結果、認知症などの病気が主な原因という割合が、一般の人の3倍以上にのぼったというのです。
いまやイングランドやスコットランドなどの協会が11歳以下は原則禁止するなど、育成年代のヘディングに制限を設けるようになっています。

禁止されて起きたこと

アメリカでは親たちの声を受けて、それよりも早く、2015年に子どものヘディングへの具体的な指導方針が示されました。

アメリカ在住の日本人、近本めぐみさんはハワイ州に住んでいた5年前、9歳の長男が通っていたサッカークラブで、突然、ヘディングが禁止されました。
近本めぐみさん
「コーナーキックにあわせて、ヘディングでシュートもしていたんですが、急にダメになりました。頭にボールが当たるだけで相手にフリーキックが与えられてしまう。それくらい厳しかったです」
ヘディング自体がペナルティーになるような状況です。
移り住んだユタ州でも、リフティングでサッカーボールを頭で扱うことすら許されませんでした。

長男が12歳になって、ようやくヘディングの練習が始まりました。
近本めぐみさん
「ヘディングがめちゃくちゃ下手になっていて、びっくりしました。頭の近くにボールがきたら避けてしまう子もいました」
ボールをタイミングよく頭に当てることができず、逆にけがにつながるのではないか。

そう心配する夫のアドバイスを受けて自宅でサッカーボールより軽い、バレーボールを使った練習を繰り返したことで、長男は徐々に感覚を取り戻しました。
ヘディングが禁止されたことで技術の習得に遅れはでましたが、その一方で、近本さんは頭のけが全般に対する意識が少しずつ変わってきていると感じています。
近本めぐみさん
「頭を打ったら、コーチは子どもをベンチに座らせて、その後はプレーをさせなかったり、大きな大会だとメディカルスタッフが脳震とうの症状があるかをチェックして、試合のあとに詳しく説明してくれたり、頭のけがへの意識が高くなってきたのかなと思います」

医学的な根拠は…

実際、ヘディングは危険なのか。

スポーツのけがに詳しい、脳神経外科の専門家は医学的に明確な証拠はなく、危険を証明することも難しいと言います。
獨協医科大学 荻野雅宏准教授
「こうした研究では脳が衝撃を受けた時期と症状がでた時期にはかなりの間があります。本当にヘディングの衝撃が病気の原因なのかはわかりません」
そして、海外で子どものヘディングを制限したことについて次のように分析しています。
獨協医科大学 荻野雅宏准教授
「子どもは首の力が弱くて、大人がイメージするよりも大きな衝撃が加わっているんじゃないかと推察することは自然です」
「なるべく避けておくほうが合理的だと考えて、制限しているのでしょう」

日本は「正しく恐れる」

こうした流れを受けて日本サッカー協会も、先月新たにガイドラインを示しました。

「禁止するのではなく『正しく恐れ』、より適切な方法によるヘディングを目指す」
ガイドラインの冒頭にはそう書かれていて、年代に合わせた具体的な練習法を提示しました。
かなり細かく練習方法を示していて、そもそもその年齢でヘディングの練習が必要かどうかや、リフティングの回数も示しています。
▽幼児期は、放り投げた風船をキャッチするなど、空間把握や距離感を養うことが大切としています。

▽小学1、2年生は軽量のゴムボールを額に当てる程度などとなっていて、小学5、6年生になってようやくサッカーのボールを使ったヘディングの練習を取り入れるとしています。

▽中学校ではヘディング練習とともに、体幹や首回りを強化するトレーニングも取り入れるとしています。
内容は日本サッカー協会のホームページで見ることができます。

ガイドラインについて専門家は、子どもたちの指導にかかわる日本のスポーツ環境からも高く評価できるとしています。
獨協医科大学 荻野雅宏准教授
「日本はライセンスをもった指導者ばかりではなく、部活動の顧問や、手弁当で教えている保護者たちも指導します」

「そこを考えていることもあって、すごく具体的に踏み込んだ内容を示している。ガイドラインとしてのあるべき姿のひとつだと思います」
日本サッカー協会では、今後も医科学的な研究を確認しながら、ガイドラインの内容を更新していくそうです。

安全と成長の両立を

6月2日時点でのJリーグの得点ランキングをみてみると、10点前後の得点をあげている上位6人の選手は、いずれもヘディングでの得点がありました。

なかには9得点のうち4点をヘディングであげている選手もいて、ゴール前の競り合いの中でヘディングをうまく使えるかどうかが、得点に大きくつながっていることがここでもうかがえます。

ヘディングはサッカーの醍醐味のひとつで、その技術を安全に配慮しながら身につけることは、選手として成長するためにも、サッカーのおもしろさを知るためにも大切なポイントとなっています。

サッカーと同じように人気の高いスポーツ、野球でもここ数年ピッチャーが肩やひじのけがをしないよう投球数を制限する動きやけがをしにくい投げ方を研究する動きが進んでいます。

どうやって子どもたちが安心してスポーツを楽しみ成長していけるのか、さまざまなスポーツの練習方法が、そうした観点から見直されていくのかもしれません。