“人と比べない” 新たな学力テスト 導入広がる

コロナ禍で去年は中止された全国学力テストが先日、2年ぶりに実施されましたが、いま、新たな学力テストが教育現場で注目を集めています。
子どもたちが平均点との比較ではなく、過去の自分と比べて伸びを把握できるのが特徴で、この3年で100を超える市町村に導入が広がっていることがわかりました。

埼玉県が独自に開発

新たな学力テストは、埼玉県が独自に開発し、2015年からさいたま市を除く県内全域で小学4年生から中学3年生全員を対象に、国語や算数・数学それに英語などが実施されています。

ことしは先月中旬に実施され、コロナ禍で子どもたちはマスクをしながらテストに臨んでいました。

国の全国学力テストが、学校や自治体が平均点を競う傾向にあると指摘される一方、新たなテストは6年間継続して把握する中で、平均点との比較ではなく子どもが過去の自分と比べて伸びを確認できるよう設計されているのが特徴です。

具体的には、各教科で6年間に習得すべき力を難易度別に36段階で示し、段階に応じて個々の問題が作られています。

児童や生徒に渡される結果票には自分の学力がどの段階まで伸びたか図で記され、「着実に伸びている」とか「自分の努力に自信を持って」などとアドバイスも書かれています。

教員たちへの結果も、平均点より前年度から伸びた児童や生徒の割合が重視されます。

学習の土台となる力=非認知能力も調べる

またテストと合わせて、学習の土台となる力も調査していて、自信をもって取り組む「自己効力感」や「やりぬく力」、「勤勉性」などの『非認知能力』と呼ばれる力と、学力との関係についても分析しています。

これまでの結果では、学力が同程度でもこうした力が高い子どものほうが、その後の学力が伸びる傾向があることがわかってきました。

3年ほど前から、ほかの自治体にも広がり、現在では福島県全域や高知県や京都府の一部など、11都府県の101の市町村で導入されていて、教育現場で注目を集めています。

独自のテスト結果 授業に生かす

独自の学力テストを実施してきた埼玉県内の小学校では、結果を授業に生かそうと試行錯誤を重ねています。

埼玉県戸田市で700人余りが通う新曽北小学校では過去の独自テストの結果から授業の改善に取り組んでいて、先月25日には6年生の担任教員が集まって議論しました。

この中では、個々のテストの結果から前年度に比べて伸び悩んでいる児童の傾向について、授業中に自信がなさそうに見え、学習意欲の低下につながりかねないと意見が交わされました。

対策として、手をあげにくい子はタブレット端末を活用して意見を吸い上げて評価し、失敗しても子どもたちに任せて主体性を伸ばしていくことが話し合われました。

実際の6年生の国語の授業では、北海道や沖縄への旅行を題材にみずからの考えを組み立てて発表することになり、担任の教員は「『なるほど』ということばをキーワードに、意見の違う相手の考えも尊重して聞いてみよう」と呼びかけていました。

子どもたちは、タブレット端末で資料を作成し、4人1組のグループで発表する際には、互いにうなずいたり「なるほど」と相づちを打ったりしていました。

女子児童のひとりは「意見を認め合うことを学びました。真剣に聞いてもらえるとうれしいです」と話していました。

点数でははかれない力を伸ばす

一方、独自の学力テストの導入を機に、点数でははかれない力を伸ばす視点が日頃の授業に加わったといい、3年生の帰りの会では友達がその日に頑張っていたことを発表する時間が設けられています。

日直の児童が「発表がある人はいますか」と呼びかけると、子どもたちは一斉に手を上げ、国語の授業で音読を頑張った友達のことや、体育の授業での取り組みなどが発表され、拍手が送られていました。

担任の棚田賢児教諭は「声が小さかったり、話すのが苦手だったりする子どももいますが、間違ってもよいし、聞こえなくても待つ姿勢で接しています。『これをやれば』という正解はないので、個別の対応や異なるアプローチで工夫し、学習を下支えする力を伸ばせたらと思っています」と話していました。

川和田亨校長は「ペーパーテストの結果は学力の一面であり、学習意欲や挑戦すること継続する力なども大変大事になってきます。点数化しづらい側面はありますが、子どもたちの将来に影響すると指摘されており、そうした力が伸びるよう意識をしています。それがゆくゆくは学力を高めることにもつながると感じています」と話していました。

専門家「教育の本当のゴールは幸せに生きること」

独自の学力テストを分析している教育経済学が専門の慶應義塾大学の中室牧子教授は、全国に広がる現状について「子どもたちが『自分も学力が伸びたんだ』と自己肯定感を改善させ、次に努力する意欲を引き出すテストに、共感する教員が多いのではないか」としています。

また「海外の研究と同様に、埼玉県の学力テストでも自己肯定感などの『非認知能力』と学力に非常に強い相関があることがわかった。子どもたちが他人と比較する方法でしか自分の価値を決められないとなると、その積み重ねが自己肯定感の低下につながってしまう。われわれの社会は偏差値や学力を非常に重視してきたが『非認知能力』に目を向け育てることも必要だ」と話しています。

そして「そもそも学力は、教育を受けている期間の1つの指標にすぎず、本当のゴールは学校を卒業したあとに生きがいや職業を見つけ、社会に貢献しながら健康で幸せに生きることだ。その達成に向けて教育機関がいま何をやるべきか問いを立てる必要がある」と指摘しています。