いまさらだけどワーケーションって、どうなの?

いまさらだけどワーケーションって、どうなの?
1日パソコンの前に座りっぱなしの在宅勤務が続きます。

家族にはあまり喜ばれず、テレビをつければきょうも新型コロナのニュース…。

そういえば、休暇を取りながら観光地で働く「ワーケーション」ってどうなったんだろうか。
“おんせん県”での勤務が6年目に入った記者が調べてみました。


在宅のストレスを軽くしてくれる、“ミニワーケーション”も紹介します。

(大分放送局 記者 吉田幸史)

温泉地で仕事します

ここは大分県別府市。

言わずと知れた温泉観光地ですが、去年からビジネスマンの姿をよく見かけるようになりました。

これは「ワーケーション」に違いない。
東京などに緊急事態宣言が出る前の4月中旬。

観光地で休暇を取りながら働くってどういうことなの?温泉入って、おいしいもの食べて仕事になるの?

そんな疑問を確かめるべく、東京のIT企業でマーケティングなどを担当する下條新さんと同僚などの皆さんの3泊4日に密着させてもらうことにしました。
▼午前6時。

日が昇り始めた温泉街の広場でストレッチや散歩を行います。

体を動かして頭をすっきりさせながら見る別府の湯煙は、確かにここでしか体験できないですね。
▼午前9時。

朝食を終えると、さっそくテレワークに取りかかります。

ウェブ上での製品の宣伝などを手がける下條さんは、東京の同僚とオンラインで新規事業の内容を練りました。

宿泊先の旅館では、仕事用をしやすいようにテーブルやイスが設置され、通信環境も整えています。

ふだん、自宅で行うテレワークと変わらず、仕事ができたそうです。
▼仕事の合間の時間は自由にしてよいそうです。

午後3時ごろの休憩時間、下條さんは宿の天然温泉を満喫していました。

別の日には水着で温泉に入り、インストラクターの指導を受けながら、足腰を中心に全身を動かすエクササイズも体験していました。

“おんせん県”を売りにする大分県では、お湯の中でリフレッシュしながら体を動かして、ストレスと運動不足の解消もねらう「湯中運動」が広がっています。

下條さんたちは最新のトレンドまで満喫してしまったんですね。

▼夕方は再びテレワーク。

2時間ほど、集中して仕事をします。
▼午後6時。

仕事が終わると、お楽しみの「食事」の時間です。

ミネラルを含んだ温泉の蒸気で、ホタテやエビ、地元産の牛肉などを蒸し上げる「地獄蒸し料理」に舌鼓を打ちました。

もう、仕事とレジャー、どっちがメインなんだか分からなくなりそうですが、下條さんによるとメリハリがついて充実できたそうです。
参加者
「温泉の中で運動するなんて初めてだし、非日常の体験です。
このあとも仕事が詰まっているんですが、新鮮な気持ちで取り組めそうです」

上司にいいづらい面も…

最近、あまり聞かなくなっていたけれど、「ワーケーション」は、うらやましいことずくめじゃないか。

そんなことを感じていましたが、一方で参加した人たちからは意外な反応もありました。

まずは「仕事」と「レジャー」の切り分けに対する周囲の目線です。
参加者
「他の人から見たら何か遊んでいるんじゃないかと見られる」
「実際に行くことにどれほどの効果があるのか。上司に説明がしにくい」
在宅と同じようなパフォーマンスで仕事を進められるんだろうか…。

仮に思った成果が出なかった場合に“温泉なんか行ってるから”と言われはしないだろうか…。

確かに、ワーケーションに取り組む立場になって考えると、私も不安がよぎります。

さらに、滞在先でけがや病気になったとき、それは業務中なのか休暇時間なのか判断がつきづらいこともあるかもしれません。

取材すると、企業側からは「ワーケーションって、やる意味あるの?」などと導入をためらうケースもあると聞きました。

事前に、具体的な業務の仕組みやメリット・デメリットを考えておく必要がありそうですね。

効果を実証してみる

下條さんたちがうらやましくなったところで、私はメリットを探すことにしました。

実は、下條さんが参加したツアーにはもう1つの目的がありました。

12人の参加者の「ストレス」と「集中力」の変化を調べ、ワーケーションの効果を実証することです。
まずは、初日の開始時に数値をチェック。

だ液の成分からチェックできる機器を使ってストレスを調べます。

数値が30を超えると「ストレスがややある」。

60を超えると「ストレスがだいぶある」の目安がある中…。

下條さんは、なんと100を超える高い数値に。

在宅テレワークが増える中で、本人も意識しないうちに、ストレスをためていたようです。
下條さん
「びっくりです。そんなにストレスを感じていない生活を送っていたと思っていたので意外でした」
続いて集中力。

採用活動にも使われる大量の計算問題にチャレンジです。

30分間、ひたすら足し算を続けるという苦行。

社会人になってからは見たくもなかったようなテストです。

が、どれくらい集中して問題に答えられるかを数値化していきます。

「ストレス」と「集中力」のテストは最終日にも行い、数値を比較します。

気になる結果は

まずはストレス。

「だいぶある」の領域だった下條さん。

数値は4分の1程度にまで減少。

「ストレスはない」とされるレベルまで下げることができました。

毎日何度もつかった温泉の効果ですね。

参加者12人の平均でもストレスの数値は半減。

このほか、肉体疲労は10%低下、血管年齢は、およそ1歳若返っていました。

たった3泊4日でアンチエイジングまでできていたとは。

さらに、集中力テストでは1分間に解ける計算量が10%増加するなど、こちらも効果が表れていました。
下條さん
「オフィスに行って働く必要って、正直ない。リフレッシュして、働きやすいという環境は、忙しい人にこそ、おすすめしたい」

客観的なデータで“やる意味”に

日々の仕事の疲れを、別府の温泉とおいしいごはんで癒やしているんだから、結果は一見、当たり前のように見えます。

でも、客観的なデータで可視化すると、結果的にパフォーマンスの向上という企業側のメリットが見えてきます。

“ミニワーケーション”はいかが

とはいっても「遠くの温泉地まで行く時間やお金がない」「仕事がらワーケーションなんて無理」という人も多いのが実情だと思います。

そこで、自宅にいながら温泉ワーケーションの効果を得られる“ミニワーケーション”を紹介したいと思います。
話を聞いたのは温泉の医学的な効果を研究している医学博士の後藤康彰さんです。

ストレスの解消と仕事の効率を上げるためには自宅のお風呂などでも、いいと教えてくれました。
後藤さん
「ワーケーションに1回来て、数値がよくなりましたと満足してしまうのはもったいない。ふだんのルーティンに入浴を取り入れることで、より高い効果を得ることができると思いますよ」
さらに後藤さんは、目的にあわせて入浴方法を使い分けるとより効果が上がるといいます。
○お風呂ですっきりしたいとき

→41度のお湯に肩までつかり、10分全身浴

○熟睡したい…

→就寝の1~2時間前に、ぬるめのお湯に入る

○なんだか力が入っている…

→全身浴で頭を浴槽にふちに

おしりを浮かせて力を抜いてみよう

○朝からすっきりしたい

→42度程度のシャワーを5分ほど

朝食も!

でも、やっぱりワーケーションに来てほしい

自宅でのミニワーケーションもいいけれど、やっぱり、感染が終息したらワーケーションしに来てほしい。

そう考えているのが、今回の舞台となった大分県別府市です。

別府市民11万人あまりのうち、およそ9割が観光業に関わっていると言われています。

平日にも集客が見込めるワーケーションには、“観光革命”につながる新たな産業として、非常に強い期待を持っているといいます。
長野 別府市長
「ほかの温泉地もそうだが、別府は週末に客が集まり、平日は閑散としている。ワーケーションは仕事を兼ねるので、平日に来ることが多いと見込んでいる。週末も、平日も一定のにぎわいがあると、観光地の経営はずっと良くなる」

コロナ禍だからこそ考えたい新しい働き方

新型コロナとともに、リモートワークなどの新たな生活様式も長期化しています。

気がつかない間にストレスをためているというのは私も、あなたも、隣の人も同じかもしれません。

仕事とプライベートの線引きがあいまいになりがちだけれど、メリハリが求められる今だからこそ、ワーケーションを新しい働き方として選択肢の1つに入れてもいいんじゃないでしょうか。
大分放送局 記者
吉田 幸史
2016年入局。
別府市政担当。
ワーケーションや宇宙ビジネスの動きなど地域経済の最新動向を取材中。