千葉県 コロナ対応で職員が残業「過労死ライン」超え344人に

千葉県の職員で新型コロナウイルスなどへの対応でいわゆる「過労死ライン」と呼ばれる月80時間を超える残業をした人は、ことし1月までの10か月の間で340人余りにのぼることがわかりました。県は臨時職員を増やすなど負担の軽減に取り組んでいます。

NHKはことし4月、千葉県庁に対して昨年度行われた職員の健康管理などを審議する安全衛生委員会について情報公開請求を行い、先月、資料が開示されました。

それによりますと、去年4月からことし1月までの10か月の間に、過労死ラインと呼ばれる月80時間を超える残業をしていた職員は344人で、延べ606人に上っていたことがわかりました。

これは管理職を含む知事部局の職員のおよそ5%にあたるということです。

残業時間が最も長かったのは農林水産部の職員で、ことし1月に281時間余りと過労死ラインの3倍以上に達しているほか、健康福祉部の職員は9か月にわたって長時間労働を続けていました。

県によりますと、新型コロナウイルスの感染拡大や発生が相次いだ鳥インフルエンザの対応に追われた職員が多く、例年に比べ残業時間が増えたとということです。

一方、過労死ラインを超えた職員に対して実施することが定められている医師との面接については、およそ半数しか実施されていませんでした。

県は職員の負担を軽減するため、保健所でコロナ対応にあたる臨時職員を30人余り雇用したほか、電話相談やデータ入力などの民間委託、業務のデジタル化の推進などの取り組みを始めています。

県は「新型コロナウイルスへの対応などが続き、特定の部署の職員が長時間にわたる時間外勤務を行っている実態がある。特定の職員に業務が集中しないよう応援態勢の構築や外部人材を活用するなどして、引き続き時間外勤務の縮小に努めていきたい」と話しています。

半数近くは新型コロナ対応にかかわる業務

過労死ラインを超えていた職員の数を所属する部署ごとに見ると、最も多かったのが新型コロナウイルスの対応の中心的な役割を担っている「健康福祉部」が152人と半数近くを占め、次いで、鳥インフルエンザなどを担当する「農林水産部」が68人、河川や道路の管理などを担当する「県土整備部」が51人などとなっています。

また、月別で見ると、最も人数が多かったのはことし1月が137人、次いで、去年4月が106人、去年12月が86人などとなっています。

去年10月以降、およそ40人に行われた産業医の面接指導の結果、多くの職員は「通常業務に支障はない」とされていますが、中には疲労蓄積度が「非常に高い」と判断された人や「通常業務に支障がある」とされた人もいました。

これに対して、各部署では臨時職員を雇用するなど応援態勢の確保や、ノー残業デーの活用を進めるなどして対応するとしています。

労働組合「精神的にも大きな負担 改善求めていく」

去年4月、1回目の緊急事態宣言が出された時期に県職員の労働組合が保健所の職員の働き方について聞き取りをしたところ、昼夜を問わず、業務が続き肉体的にも精神的にも厳しい状況だったことがわかりました。

職員の勤務時間は基本的に午前8時半から午後5時15分までですが、保健師として保健所で働く職員は新型コロナウイルスに感染した患者の入院調整や自宅療養者の対応などの業務が勤務時間後も続き、終電で帰宅することも多かったということです。

さらに夜間も容体が急変した患者の入院先を探すなど、帰宅後も携帯電話が手放せず、電話がいつ鳴るかわからないため緊張して寝ている間も気持ちが休まることはなかったといいます。

現在は、夜間に電話対応する担当を作り、担当の職員は呼び出しに備えて勤務時間が終わるとすぐに帰宅できるようになって負担は軽減されたということです。
千葉県職員労働組合の片山敦史中央執行委員長は「このような状況が続くのはとんでもない話で、非常勤職員も含めて抜本的に人を増やさないと職員の健康や県民サービスを守ることができない。肉体的な健康だけではなく、精神的な部分にも大きな負担が出ているので、改善を求めていきたい」と話しています。

県独自のシステム運用も

人員の増員に限界がある中で新型コロナに関わる職員の負担を減らすため、新たに開発した独自のシステムの運用も始まっています。

新たに始まったのは感染者の情報を一元的に管理して効率化を図る県独自のシステムです。

これまで、感染者が確認されると保健所は発生届けなどの情報を元に10種類以上の資料を作成し、複数の担当者が同じ内容をそれぞれの書式に応じてデータを打ち込んでいました。

しかし新しいシステムでは、一度情報を入力すればほかの資料にも反映され、同じ情報を何度も入力する手間を省くことができます。

これで療養施設に搬送する患者のリストや、感染者へ配布する文書などの作成のほか、全国の感染者の情報を集約するシステムへの入力も自動化されるようになりました。

新たなシステムは現在、県内5か所の保健所で運用が始まっていますが今月中に県が所管するすべての保健所での導入を目指しています。
千葉県のDB導入グループの屋宜哲也副主幹は「経験した事のない量の仕事をやらなくてはいけなくなったうえ、これまでの紙中心の管理が業務の負担に拍車をかけていた。職員はとても疲弊しているので少しでも早く家に帰って心や体を休めてもらって、業務に明るい気持ちで取り組んでもらえるようにしたい」と話していました。

茨城県でも「過労死ライン」超え 昨年度136人

一方、茨城県でも昨年度、新型コロナウイルスへの対応などで職員の残業が急増し、136人が「過労死ライン」と呼ばれる月80時間を超える残業をしていたことが分かりました。

茨城県によりますと、管理職を除く県職員4000人余りのうち、昨年度「過労死ライン」とされる月80時間を超えて残業をした職員の数は136人に上ったということです。

「過労死ライン」を上回ったのは新型コロナウイルスの対応にあたっている保健福祉部の職員が全体の8割を占め、県の8つの保健所で合わせて43人、疾病対策課で33人などとなっています。

このうち、疾病対策課では、残業が月215時間に上った職員もいて、この職員は昨年度「過労死ライン」を上回った月が5回あったということです。

県によりますと、新型コロナウイルスの感染拡大の時期に残業時間が増える傾向になっていて、働き方改革などを担当する県の行政経営課は「今年度から組織改編で新型コロナに対応する部署の体制を強化したことに加え、部署を越えて応援の職員を派遣するなどして職員の負担軽減に努めたい」と話しています。

専門家“正規の職員増やすべき”

自治体職員の労働環境に詳しい、茨城大学人文社会科学部の清山玲教授は「過労死ライン」と呼ばれる月80時間を超える残業をしていた県職員が相次いだことについて「県がこれまで職員の定数の削減や非正規化を進めてきたことが、新型コロナウイルスに対応する職員の業務量の増加につながった」と指摘しています。

そのうえで「改善が図られなければ休職者や離職者が出ることにつながり、人手不足の中でさらに職員の負担が増すことになる」として「新型コロナの感染拡大のような突発的な事象が生じたときにも月の残業が80時間を超えないよう、正規の職員の数を増やすことが求められる」と話しています。