コロナ禍の就活 内々定の辞退増加 1度も職場を訪れず不安も

新型コロナウイルスの感染拡大の中での、2年目となる大学生などの就職活動では、採用面接などをオンラインで行う動きが広がっています。学生からは面接などの機会を増やすことができたという声の一方で、オンラインだけでは企業のことを十分に知ることができないのではないかという不安も聞かれます。

東京都内の大学に通う4年生の女子学生は、およそ1年前の去年5月ごろから就職活動を始めました。

企業の説明会やインターンシップに参加しながら、自分はどんな仕事がしたいのかなどを考える「自己分析」や、企業の情報収集を進め、去年12月ごろからエントリーシートの提出を行ってきました。

女子学生は、これまでにIT関連やメーカーなど合わせて40社余りに応募し、内々定を受けたり、最終の面接を通ったりした企業が、これまでに7社あります。

就職活動ではスマートフォンのアプリを活用し、企業の採用状況や説明会の日程などを調べています。

さらに、エントリーシートの書き方を学んだり、OB訪問のアポイントをとったりするアプリを複数使っています。

企業の説明会や採用面接などの多くは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でオンラインで行われていますが、対面の形式よりも参加できる機会は多く確保できると感じています。

女子学生は「去年の就職活動では新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、オンラインでの対応などでバタバタしたのを見ているからか、早めから準備をする人が周囲では多かったと思います。電車の移動がなくなったり、録画された説明会を夜間に見ることができたりしたので、オンラインになって今までよりも情報をたくさん得ることができたと思います。オンラインで1日、3社の面接を受ける日もあったので、すごく助かりましたし、選択肢は広がりました」と話していました。

女子学生は6月以降も就職活動を続ける予定です。

今後、受ける企業の採用試験の結果や、自分がどのような仕事、働き方をしたいのかなどを改めて考えたうえで、内々定を受けたいずれかの企業に入社の意思を伝えることにしています。

しかし、オンラインで採用試験を受けたため、1度も職場を訪れたり人事の担当者と直接会ったりしたことがない企業も多くあります。

そうした状況のまま、入社を決めてしまってもいいのか不安を感じているといいます。

女子学生は「同じ企業で長く働きたいと考えているので、職場が実際にはどんな雰囲気なのか、どのような人が働いているのかが分からないと不安に感じます。オンライン上でも、社員の人と話す機会を増やしたり。内々定を受けた学生どうしが少人数でも直接話すことができたりすると安心できます」と話していました。

内々定の辞退 41.5%

人材サービス会社の「リクルート」は5月、来年春に卒業する予定の全国の大学生や大学院生を対象にインターネットを通じて調査を行い、1800人余りから回答を得ました。

それによりますと、5月15日時点で企業から内々定を受けた学生は59.2%と、去年の同じ時期より10ポイント増えています。

また、学生1人あたりの内々定を受けた企業の数は平均で2.08社と、去年の同じ時期から0.32社増加しています。

人材サービス会社では、採用試験や説明会などのオンライン化が浸透し、就職活動を早く始めた学生などが従来の対面形式よりも多くの企業の情報を収集したり、応募しやすくなったりしたことが背景の1つにあるとみています。

また、内々定を受けたという学生のうち「内々定を辞退した企業がある」と回答したのは41.5%と、去年の同じ時期より14ポイント増えました。

内々定を受けた学生のうち、就職活動を続けているのは45.3%だということです。

リクルートは「学生の間では就職活動の進捗状況で2極化しているのが現状だ。企業からの内々定を複数受けたあとも就職活動を続ける学生が多いことがうかがえる。企業には内々定を出した学生にきめ細かく情報を提供し、コミュニケーションをとることが求められている」としています。

オンライン就活 約90%が「メリット感じる」

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、採用面接などのオンライン化が広がるなか、人材サービス会社が大学生などに調査した結果「オンラインの就職活動にメリットを感じる」と回答したのは、およそ90%に上ったことがわかりました。

人材サービス会社「エン・ジャパン」は5月、来年の春に卒業予定の大学生や大学院生にインターネットで調査を行い650人から回答を得ました。

それによりますと「内々定先の企業はどのような選考方法だったか」を尋ねたところ「すべての過程がオンラインで完結した企業がある」と回答した学生が81%に上りました。

また「オンライン就活にメリットとデメリットどちらを感じるか」を尋ねたところ、
▽「メリットを感じる」が53%
▽「どちらかというとメリットを多く感じる」が39%で、
合わせて92%に上りました。

具体的には、
▽「移動する必要がないので複数の予定を1日に入れることができ、多くの企業の説明会や選考に参加できた」とか、
▽「交通費がかからず、地方からでも企業の選考を受けることができた」
などという声が聞かれたということです。

一方で「デメリットを感じる」と回答した学生の中からは、
▽「社員やオフィスの雰囲気が分かりづらかった」とか、
▽「通信状況が悪くヒヤヒヤした瞬間が多かった」
などの声が目立ったということです。

企業では辞退防ぐ取り組み

企業の間では、内々定の辞退を防ぐための取り組みが広がっています。

東京 千代田区の従業員1100人余りの建設コンサルタント会社は、自治体や企業からの依頼を受け、道路や地質の調査や災害の被害想定を作成する支援などを行っています。

来年の春に入社する新入社員は40人を採用する予定ですが、辞退者が出ることを想定し80人に内定を出す計画です。

これまでに、およそ60人の学生に内々定を出しています。

新型コロナウイルスの感染拡大前は、内々定を出した学生をホテルに集める懇親会を行ってきましたが、毎年、多くの辞退者が出ていました。

そこで、感染対策のためにオンラインでの対応を迫られた去年からは、リモートでの社内見学会を行い、学生に従業員が働く姿を見てもらったり、オンラインを使った学生との座談会で、社長と直接やり取りする機会を設けたりしています。
学生に職場や社員の雰囲気を知ってもらい、安心感や納得感を持ってもらえるよう心がけているということです。

その結果、学生からは「会社のことが分からず不安だったが雰囲気を知ることができ安心した」などという声が多く寄せられました。

内々定を出した学生のうち辞退された割合は43%と、前の年より13ポイント下がって、過去5年間で最も低くなりました。

この会社では感染拡大防止のため、ことしの採用選考もすべてオンラインで行っています。

取り組みは継続する方針で1日は、これまでに内々定を出しているおよそ40人を対象に、オンラインでの社内見学会を開きました。

見学会では、人事担当者がスマートフォンで撮影しながら社内のフロアを回り、若手やベテランの社員に声をかけて職場の雰囲気や、これまで携わった仕事の内容などを紹介しました。
「応用地質株式会社」の成田賢社長は「会社の雰囲気や上司を見て、学生が安心感を持つということがわかり、辞退率を少なくするため学生との親密な情報交換に取り組むようになりました。学生を囲い込んで採用しても、ミスマッチが起こると双方とも残念なことになるので、ふだんの状況を含めて、会社をいかに学生に見てもらうかが重要だし、企業側がやらないといけないと思います。オンラインだと、いろいろなツールがあり、今までやってきた採用に比べて実態を学生に知らせることができるので、うまく取り入れていきたい」と話していました。
企業の採用活動に詳しい採用コンサルタントの谷出正直さんは「新型コロナウイルスの感染拡大前からの人手不足がつづく企業も多く採用の意欲がそこまで落ちていないので業績がいい企業は積極的に内定を出している。またオンライン化の浸透で企業も学生も互いの考えを理解するのが難しいという不安から、内定をだしても学生が承諾をしないのではと企業が不安に思っている面があり内定を多めに出す動きがある」と指摘します。

そのうえで「これまでは企業の方が力関係が強く企業が学生を選んでいる面があった。しかし若手の人口が減っている中今後は学生が企業を選ぶように変わってきている。企業は選ばれる会社になるために自分の会社の情報を学生に対して飾らずに提供し入社すればどういうメリットがあるのか納得してもらう努力が求められる」と話していました。