木材が消えた?身近に迫る “ウッドショック”

木材が消えた?身近に迫る “ウッドショック”
身の回りのさまざまな場面に広がっている新型コロナウイルスの影響。それは「木材の価格」にまで及んでいました。必要な木材が手に入らない!そんな事例が出るほど高騰し、“オイルショック”ならぬ“ウッドショック”とまで言われています。最前線を取材しました。(おはよう日本 岡本潤)

家具が値上がり

東京・銀座の家具店「マスターウォール銀座本店」。
テーブルやベッドなど、アメリカ産の木材を使った美しい木目のオリジナル家具が人気です。

店内には「価格を改定します」というお知らせが。ことし7月から商品の一斉値上げを予定しているのです。
「苦渋の決断です」

鈴木聡店長に聞くと、決断の理由は「木材の仕入れ価格の高騰」。去年から徐々に上がり、今では3割ほど高くなっているということです。感染拡大で売り上げは一時的に落ち込んだものの、その後“巣ごもり需要”で家具にこだわる人が増えたことなどから持ち直してきた矢先の事態でした。

ここまで価格はなんとか据え置いてきました。「これ以上は耐えられない」と今回の決断に至ったといいます。

値上げ幅は最大で20%です。
マスターウォール銀座本店 鈴木聡店長
「一番大事なのは商品の品質を落とさないこと。できることはすべてやって今までと同じ品質を届けられるようにしたいですが、値上げに抵抗を感じるお客さんもいると思うので心配です」

背景に“世界経済の動き”

なぜ今、木材の価格が上がっているのか?

その前に、日本の木材自給率がどのくらいかご存じですか?
国土の7割が森林だから、ほとんどが国産? いえいえ、実は国産は全体の4割ほど。輸入木材の方が多いのです。この輸入木材が値上がりしているから、日本に大きな影響が出てます。

価格高騰の背景をひと言で言うと、コロナ禍で停滞したアメリカ経済が活動を再開し、木材の需要が高まっていることです。アメリカではとりわけ郊外に住宅を建てる需要が高まってます。それに伴って木材の価格が上昇。
シカゴの取引所では木材の先物価格の値段が5月17日時点で1000ボードフィートあたり1327ドルと、この1年で4倍近くに。

アメリカ南部テネシー州で建築会社を経営するジェフ・バークハートさんは「経験したことのない値上がりだ」と証言します。

それでも家がどんどん建つから高くても需要が生まれ続ける。

そうなると輸出する余裕なんてありません。

日本の“買い負け”

また、中国やヨーロッパでも木材の需要は高まり続けています。

ここに、追い打ちをかけているのが世界的なコンテナ船の不足。各国で“巣ごもり需要”が拡大したことで木材を運搬する船を確保できないのです。

こうしたさまざまな条件が重なって、輸入木材の高騰につながっています。高くても木材を買う国に対して、日本が「買い負ける」現象が起きているのです。

国産木材にも影響

これに対して国産の木材で代替しようという動きも広がっています。

農林水産省の「木材流通統計調査」によると、4月の「杉の丸太」の価格は去年の同じ月と比べて10%余り上昇。国産材にも影響が波及してしているのです。まさに“ウッドショック”です。

国も危機感を抱いています。林野庁は木材加工や住宅メーカーの業界団体などに、必要以上の木材の買い付けを控え、過剰な在庫を抱えないよう要請しました。

みんなが欲しいから価格が上がり、奪い合いになる。こんな光景、どこかで見覚えありませんか?。

輸入木材を扱う会社などで構成する日本木材輸入協会の岡田清隆専務理事は「コロナ禍でマスクが高騰して店頭から消えた事態と似ている」と指摘します。
日本木材輸入協会 岡田清隆専務理事
「こうなってしまうと、いつ状況が落ち着くか分かりません。木材のストックをある程度抱えていたり、対応できる体力があったりする大手の住宅メーカーなどはまだしも、規模の小さい地場の工務店などへの影響が心配です」

家が建たない!

その言葉を裏付けるかのように、木材が手に入らなくて困っている工務店が全国的に広がっています。

このうち神奈川県横須賀市にある「中尾建築工房」。年間10棟ほどの木造住宅を手掛けています。
社長の中尾博志さんに聞くと、最近、アメリカ産の「米マツ」という木材が不足しているといいます。主に住宅の「はり」部分に使用する木材で、特徴はその強度。国産材では代替できず、この工務店では使用する木材の6割を米マツに頼っています。

しかし、“ウッドショック”を背景に流通量が減少し、確保が困難に。取り引き先の業者には「もし確保できても値段はどんどん上がっていく」と言われたといいます。木材が確保できないと当然、家が建てられません。

現在、逗子市内に建築中の住宅を案内してもらうと、基礎工事が始まっていました。しかし、“ウッドショック”で肝心の木材が手に入らなくなり、完成の見通しが立たないといいます。
逗子市にマイホームを建築中の佐藤さん夫婦
「今は賃貸の物件に住んでいるので、新居が完成しないと、ずっと家賃を払い続けていかないといけない。見通しが立たないというのも、今後、どのくらい値段が上がるのかも不安です」
中尾建築工房ではほかに受注した新築の案件もすべて一時的に計画をストップさせました。施主たちには今回の事態が落ち着いてから打ち合わせを再開することを納得してもらってはいます。しかし、このままだと仕様変更や住宅への価格転嫁もやむを得ないといいます。
中尾建築工房中尾博志社長
「お金を出しても材料がなければ買えないので、今はどうしようもない状態です。とりあえず状況を見守るしかありません」

懸念は“木材離れ”

こうした事態を乗り切るために、国産材の生産を拡大させることはできないのか? 業界関係者は「そう簡単ではない」と指摘します。
日本木材輸入協会 岡田清隆専務理事
「国産材の生産を拡大したあとに輸入木材の供給量や価格が元に戻ると、国産材が余ってしまう可能性があります。そもそも林業などは人手不足もあって、急激に流通量を増やすことは難しいのです。こうなると、今後『木材離れ』が住宅産業などで起こるかもしれません」
外的な要因に左右されるコロナ禍の“ウッドショック”。

今回、国産材の安定的な増産体制などを考えていくきっかけにする必要があると改めて感じました。
おはよう日本
岡本 潤
平成22年入局
岐阜局、鳥取局、広島局などを経て
現在、おはよう日本の水曜日を担当