パブリックビューイング会場整備始まるも 都「難しい判断」

東京オリンピック・パラリンピックの期間中、都内では人を集めて競技の中継を観戦する「パブリックビューイング」が行われる予定で、会場の整備が始まっています。
ただ、開催時の感染状況によっては今、都が呼びかけている人の流れの抑制とは逆行するイベントとなり、都は「難しい判断になる」と話しています。

開催都市の東京都や大会組織委員会は、代々木公園や井の頭公園など都内6か所で、人を集めて競技の中継を観戦する「パブリックビューイング」の会場を設ける予定です。

このうち代々木公園では作業をする車両が通れるよう一部の木の枝を切るなど、会場の設営に向けた準備が今月から始まっています。

こうした会場について、都は事前予約制にして人の密集を防ぐ方針です。

一方、感染状況が見通せず、定員はイベントに関する制限を考慮しながら検討するとしていてまだ決まっていません。

また、都は今、人の流れの抑制を呼びかけていますが、開催時の感染状況によっては抑制とは逆行するイベントとなります。

都の担当者は「難しい判断になる。ある程度の人が集まって中継を見ることは価値があるが人の流れにどのくらい影響するかはっきり分からない。人の流れをできるだけ減らすため来場者を抑える考えだ」と話しています。

公園利用者「イベントによる感染は不安」

散歩のため代々木公園を訪れた都内在住の30代の男性は「中継の会場をつくりオリンピックを楽しむ試みとしていいと思うが、イベントをやるなら感染対策をしっかりとってほしい」と話していました。

公園の近くに住んでいて、毎日犬の散歩で利用するという50代の女性は「公園にわざわざ手を加える必要はないし、利用する人たちに迷惑をかけているのでやめてほしい。イベントによる感染も不安だ。誰のためにやっているのかわからない」と話していました。

小池知事「工夫をしながら運営」

東京オリンピック・パラリンピックの期間中に、都が観客を集めて競技を観戦する「パブリックビューイング」を6か所の会場で行う予定としていることについて、小池知事は記者会見で「コロナ対策を行ったうえで、来場者数をどうするか、事前の申し込み制にするかなどについて検討し、いろんな工夫をしながら運営していく」と述べました。

また、会場の1つの代々木公園で準備のために木の枝が切られていることをめぐり、一部で疑問の声があがっているとして見解を問われたのに対し、小池知事は「ふだんから樹木の管理を担っている専門業者と相談したうえでの実施と聞いている。設営準備における安全の確保のための作業だ」と述べました。

会場運営の予算 45億円を計上

東京都は東京オリンピック・パラリンピックの期間中、入場無料で競技を観戦できる会場を東京の6か所以外にも東日本大震災や熊本地震の被災地の6か所に設けるとしています。

被災地の会場は盛岡市の「盛岡城跡公園多目的広場」「JR盛岡駅前滝の広場」、仙台市の「勾当台公園」、福島県会津若松市の「鶴ヶ城公園」いわき市の「アクアマリンパーク」、熊本市の「熊本城ホール」です。

東京都が合計12か所の会場などを運営するために計上した予算は37億円で、会場での新型コロナウイルス対策の費用を加えると合わせて45億円となります。

最も広い代々木公園の会場では当初、1日3万5000人が入場する想定でした。感染が収まらず緊急事態宣言が続く中ですが、現在も同じ広さが確保され、ほかの会場の広さも当初の計画から変更されていません。

本格的な工事は6月1日に代々木公園から始まり、そのあとほかの会場でも始まることになっています。

イベントを開催すること自体が人の流れの抑制に逆行するという声も上がっていますが、東京都は今後の状況に応じて定員などを決めるとしています。

東京都とは別に、全国の多くの自治体も「パブリックビューイング」の開催を予定していて、それぞれの自治体がどう対応していくのか判断を迫られることになります。

ネット上で中止求める署名活動も

東京 代々木公園のパブリックビューイングをめぐっては、ネット上で計画の中止を求める署名活動が行われています。

これは日本在住のアメリカ人で経営コンサルタントのロッシェル・カップさんが、WEBサイトで呼びかけているものです。

そこでは「新型コロナが拡大しワクチン接種の進捗率も遅い中で何千人もの人を集めるという行為自体がおかしく、多くの木をせんていする必要はない」などと訴えています。

今月22日から28日の午後6時までに10万2000余りの署名が集まったということです。

感染症対策の専門家「状況によっては中止の検討も」

感染症対策の専門家は、東京都が代々木公園などに計画しているパブリックビューイングについて、感染状況によっては中止の検討も必要になると指摘しています。

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで、東邦大学の舘田一博教授は東京都が計画しているパブリックビューイングについて「今はステージ3の感染レベルだと言え、このままの状況が続けば感染リスクはかなり高く実施すべきかどうかを評価すべきだ。せっかく会場を作ったけれど人は入れられないということもありうる」と話し、感染状況によっては中止の検討も必要になると指摘しています。

そのうえで「もし実施するとなってもしっかりとしたガイドラインを作って感染対策を徹底する必要がある。さらに、競技を見終わったあと食事に行ったりお酒を飲んだりすればリスクが高まる。パブリックビューイングの前後も含めてしっかりと感染対策を取っていくことが大事だ」と話しています。

分科会 尾身会長「感染増加リスクある」

政府の分科会の尾身会長は、衆議院厚生労働委員会で「オリンピックは、ほかのスポーツイベントとは、規模や社会的な注目度が別格だ。ただでさえ注目が集まり、みんなが外に出て見たいという雰囲気がある中で、パブリックビューイングのようなことをすると、今までの経験を踏まえれば、人流が増えて人々の接触の機会が増えるので感染が増加するリスクがずいぶんある」と述べました。