WEB特集

大阪 緊急事態宣言下の病院は? 密着24時間「ギリギリの状態」

大阪などへの緊急事態宣言は再び延長されることになりました。

その理由として挙げられているのは医療体制のひっ迫です。

実際、現場はどのような状況になっているのか。

NHKは3度目の緊急事態宣言が出されたその日、大阪の救命センターに24時間密着。

そこで目にしたのは、コロナ以外の医療にも大きな影響が出ている崩壊寸前の地域医療の現状でした。

(大阪拠点放送局 記者 井上紗綾 田辺幹夫)

AM9:00 あと1人しか受け入れられない

東大阪市にある大阪府立中河内救命救急センター。

30床ある病床のうち10床を新型コロナの重症患者の治療に充てています。

大阪に3回目の緊急事態宣言が出された4月25日は日曜日。

当直の医師2人が午前9時から24時間体制で、入院患者の治療や救急患者の受け入れに対応します。
山村仁所長(左)と道味久弥医師(右)
前日までの大阪府内の新たな感染者数は、5日連続で1000人超え。

大阪府内の重症患者は348人と、287床の重症病床を大きく上回り、危機的な状況です。

この病院の新型コロナの重症病床にも9人が入院していて、あと1人しかコロナの患者を受け入れる余地はありません。

AM9:30 遠くで起きた交通事故のけが人が

午前9時半。

大けがをした50代女性が搬送されてきました。

この病院は地域唯一の救命センターで、いわば地域医療の“最後の砦”。

コロナ患者以外も搬送されてきます。
この女性は隣の大阪市内で交通事故にあい、足を骨折していました。

通常、大阪市内で起きた交通事故は市内の近くの救急病院へ搬送されます。

しかし、コロナの影響で、大阪市内の病院が受け入れを拒否。

隣接した東大阪市にあるこの病院が受け入れることになり、一般病棟に入院することになりました。

大阪は交通事故にあっても、近くの病院に搬送されるとは限らない状態になっています。

PM0:00 “もっと早く検査の機会があれば…”

午後0時すぎ。

隣の大阪市内からまた一人、若い女性が搬送されてきました。
女性は39度を超える発熱がありました。

血液中の酸素の状態を示す値「酸素飽和度」が80%台と低く、息が苦しそうな様子です。

女性は3日前に発熱し、別の医療機関を受診。

その時のPCR検査は陰性だったそうです。

いったん様子を見ることになり、医療機関ではなく自宅で療養を続けていましたが、容体が急変しました。
この病院でのコロナの検査も、結果は陰性。

一方、精密検査を行った結果、女性は別の重篤な病気でした。

搬送からおよそ3時間後、この女性は亡くなりました。

別の重篤な病気だったにもかかわらず、最初に受診した病院ではコロナが強く疑われたため、PCR検査しか行われませんでした。

所長の山村仁医師は血液検査などがしっかり行われていれば、もっと早く重篤な病気を見つけることができた可能性が高いといいます。
山村仁所長
「いまは、患者に発熱があると、従来のように病院をスムーズに受診できる体制ではない。そのために、治療の開始が遅くなることがあるのが現状だ」

PM5:00 受け入れる患者を交換して重症病床を確保

午後5時前。

「容体が急変した40代男性患者を受け入れてほしい」

コロナ患者の受け入れ先を探す大阪府のフォローアップセンターから連絡が入りました。
入院した時は中等症と判断されましたが、その後わずか数時間で急速に容体が悪化したといいます。

しかし、この患者を受け入れると、コロナ患者用の病床10床がすべて埋まってしまいます。

地域唯一の救命センターなのに、この先、緊急性が高い患者を受け入れることができなくなってしまう。

なんとか解決策はないか。

山村医師は男性が入院している病院に交渉を持ちかけました。

男性を受け入れる代わりに、容体は少し落ち着いたものの転院先が見つからない50代の女性を引き受けてもらう。

いわば“患者の交換”です。
山村仁所長
「この地域で自宅待機しているコロナ患者が急に状態が悪化したり、急病の救急患者が出たりした場合、すべてここで受けることになる。空き病床がゼロだとこうした患者に全く対応できないことになってしまう。救急からコロナまで常に診察できるような体制を確保することが、うちのような医療機関には求められている」

PM6:30 妊娠中の看護師も最前線に

午後7時前。

この日の勤務を終えて帰宅しようとしていた看護師の渡部由佳さんに話を聞くことができました。

渡部さんは現在、妊娠中ですが、みずからの意思で現場に立ち続けています。

病院からは一般病棟に移ることも勧められましたが、家族を説得し納得してもらったといいます。

厳しい現場を支えているのは、医師だけではありません。
看護師 渡部由佳さん
「本当にギリギリの状態で毎日やっているので、1人でも欠けたらきついって分かっています。現場はいま、使命感とか、義務感とか、責任感で、なんとか倒れずにやっていて、誰かが倒れそうになったら支えるようにしている。そんな感じです」

PM7:00 治療中も鳴りやまない電話

一方、そのころ病院には、先ほどの40代男性患者を乗せた救急車が到着しました。

容体は予断を許さず、一刻の猶予もない状況です。
山村医師はCTスキャンで肺の状況などを確認し、急いでICUに飛び込みます。

そしてみずから防護服を着て、男性に人工呼吸器を装着しました。

この最中にも病院のホットラインには、救急隊や医療機関から受け入れ要請の電話が次々とかかってきます。
「対応中でホットラインに出られない!だれか出て」
「満床だから受け入れ無理って言っといて」
コールが鳴るたびに声が響きます。

さまざまな処置を行い、男性の初期対応が終わったのは午後8時すぎ。

息つくまもなく、今度は女性患者の転院作業に取りかかります。

女性患者が無事転院し、再び1床の空きを確保できたのは午後10時前でした。

PM10:00 深夜も患者の診察は続く

病床が1床空いた直後の、午後10時ごろ。

搬送されてきたのは、自宅で発熱した高齢の女性です。

女性は新型コロナへの感染が疑われるとして、すでに30以上の病院に受け入れを断られていました。

この患者は検査の結果、陰性と判明。

症状も落ち着いたため、隣の病院が受け入れることになりました。
深夜1時すぎ。

道味久弥医師は重症病床に入院している患者の様子を一人一人確認していました。

ようやく一息つけた時には午前2時を回っていました。
道味久弥医師
「僕らは集中治療室の管理と外来の管理と、地域の救急隊の相談にも乗ることをやっていますが、今の状況は本当にひどい。もともと救急医療は不安定なもので、大きい波や小さい波、みんないろいろ経験するから、つらい時も苦しい時もある。正直、きょうは体力的にも精神的にもつらいです」

AM9:00 「肉体的にも精神的にもみんなギリギリ」

4月26日午前9時。

医師や看護師が集まり、次の当直への引き継ぎが行われます。

2人の医師の長い一日は終わりました。
私たちが密着した24時間で、救急の受け入れ要請は13件。

このうち、受け入れることができたのは5件。

8件は断らざるをえませんでした。およそ6割は断った計算です。

コロナ前のおととしは、10件に1件断るくらいだったそうで、今はその6倍と異常な状態です。

取材を通して見えてきたのは、崩壊寸前の地域医療の現状でした。
山村仁所長
「いま、新型コロナの患者を一人受け入れると、初期治療を行っている3時間ほどは新たな救急を受け入れられない状況になる。受け入れができないことで患者が助からない、あるいは治療が遅れることがいま現実に起きている。現場もひっ迫している。精神的にも肉体的にも、みんな、ギリギリの状態だ」

緊急事態宣言は再延長 医療機関のひっ迫続く

密着取材から1か月。

大阪府など9都道府県に出されている緊急事態宣言は6月20日まで再び延長されました。

大阪の感染者数は少しずつ減少する傾向にあるように見えますが、通常の手術に使う重症病床は100床以上がコロナ専用に転用され、一般の入院や手術の制限は現在も続いています。

「もし次に、インド株が広がったら、本当にどうなるか…」

山村所長は次の変異ウイルスの脅威にも懸念をいだいています。

医療現場では先の見えない闘いが続いています。
大阪拠点放送局 記者
井上 紗綾
2014年入局 和歌山局を経て現職
新型コロナウイルス感染症を中心とした医療取材を担当
大阪拠点放送局 記者
田辺 幹夫
2008年入局 北九州、科学文化部、ネットワーク報道部を経て2019年から大阪で医療、科学、文化の担当。

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