次に勝つのは誰なのか

次に勝つのは誰なのか
東京都議会議員選挙の告示まで1か月を切った。“夏の首都決戦”は、これまで何度となく、その後の国政にも大きな影響を与えてきた。

このため、各党の力の入れようは、一都道府県議会の選挙にとどまらない。
もちろん、今回もしかりだ。
ことし10月に任期満了を迎える次の衆議院選挙が、もう目前に迫っている。各党は、今回の都議選に国政選挙並みの態勢で臨む方針だ。

では、今回の都議選の行方を左右するのは、いったい何なのか?

「小池知事」と「五輪・パラ」をキーワードに解説する。

(成澤良、西浦将)

「知事はどう動く?」

今回の都議選は、6月25日(金)告示、7月4日(日)投開票の日程で行われる。

われわれの取材で、政党の関係者や都の幹部から異口同音に発せられる質問がある。

「いったい、知事はどう動くの?」

去年7月の都知事選で再選を果たし、2期目に入った小池百合子は、現在、地域政党「都民ファーストの会」の「特別顧問」という立場だ。

4年前の都議選では、知事であると同時に、地域政党の「代表」として先頭に立ち、都民ファーストの会の躍進をけん引した小池。

だが、選挙直後に「都知事の職務に専念したい」などとして代表を退任していた。とはいえ、素直に考えれば、都民ファーストの会を支援するのが自然なはずだ。

5月21日の定例記者会見で、今回も都民ファーストの会を支援するのかどうか、ストレートに聞いてみた。

すると、「今はコロナ対策に集中」と強調したうえで、次のような答えが返ってきた。

「都民ファーストの会の皆さんは、受動喫煙防止対策とかITとか5Gとか、専門家が結構、議員としておられるのは、東京や都政をブラッシュアップするという意味でも、また、いろいろな提案をいただくことでも、大変大きな役割を果たしてこられている。
まず都民を第一に考えて行動される改革派にはエールを送っていきたい」
都民ファーストの会への一定の評価や期待は感じられたが、支援の明言はなく、慎重な言い回しが印象に残った。

“振れ幅”は大きく

4年前・2017年の都議選。

投開票日まで残り1か月に迫る中、地域政党の代表に就任した小池は、旋風を巻き起こした。

都民ファーストの会が擁立した50人のうち、49人が当選。追加公認を含めると55議席を獲得し、都議会第1党に駆け上がった。
これに対し、小池から“古い議会”と位置づけられた自民党は、改選前の57議席から23議席と半分以下に減らし、過去最低を大きく割り込む歴史的大敗。

まさに旋風に吹き飛ばされた形となった。

最近の都議選は振れ幅が大きい。

12年前の2009年は、民主党(当時)が54議席を獲得して第1党となり、その勢いで、8月の衆院選でも圧勝。

政権交代を果たした。

8年前の2013年は、前年末の政権奪還の勢いそのままに、自民党は、擁立した59人全員が当選して第1党となる圧勝。

安倍長期政権の流れをつくった。
ここ3回の都議選では、その時その時で最も勢いのある政党が一気に議席を伸ばす現象が続いている。

「都議選はその後の国政を占うバロメーター」

各党が国政選挙並みに力を入れる理由が、そこにある。

もちろん、その後の都政運営にも直結する。

都の幹部は、小池が今回の都議選への態度をまだ明確にしない理由をこう解説した。

「知事は、世論の動向を見極めることにたけている。政党間の選挙協力の構図も、前回とは異なる。選挙後の都議会の勢力図を見据え、情勢をぎりぎりまで分析して、対応を決めるのではないか」

各党の思惑は

都議会に議席を持つ主要政党は、小池の動きをどう見ているのだろうか。

第1党の都民ファーストの会は、当然のごとく、今回も小池の全面支援を期待する。

ことし1月の千代田区長選では、都民ファーストの会の都議会議員を辞めて挑戦した候補が、自民・公明両党が推薦する候補を破って当選。
小池は、選挙カーに乗って区内を回り、最終日には街頭で演説に立つという力の入れようだった。

所属議員からは「“小池人気”は健在だ」と安どの声が上がった。

一方で、都民ファーストの会は、足並みの乱れに悩んできた。
4年前の都議選のあと、離党や除名などが相次ぎ、所属都議は55人から46人に減少。今回、立候補しない現職の都議もいる。
小池を党の「顔」として前面に押し出したい都民ファーストの会。この4年間、小池と連携し、「車の両輪」として改革を進めてきた自負もある。
「知事を支える勢力」とアピールすることで、小池支持層を取り込みたい考えだ。

これに対し、第2党の自民党は、都民ファーストの会に小池がなるべく肩入れしないことを期待する。

実は、小池の知事就任以降、対立姿勢を示してきた自民党だが、去年から、じわじわと歩み寄りを見せている。

去年3月、それまで2年連続で反対してきた都の当初予算案の採決で、3年ぶりに賛成に転じた。去年の都知事選でも対立候補の擁立を見送り、小池側も、国の予算編成にあたって自民党都連に直接、要望を行うなど、これまでにはなかった動きを見せ始めている。

自民党関係者は、「『小池の敵』と見られ続けるのは選挙で不利に働きかねない」と接近の意図を説明する。
一方、「小池にも、安定した都政運営を行うには国政与党と良好な関係を保つ必要があり、対立関係を続けるのは得策ではないという考えもあるのだろう」といった分析もある。

果たして、双方にとって “win-win”の関係は構築されるのか。

今回の都議選で、前回と最も異なる対応を選択したのが、公明党だ。

都議選は、公明党にとって最も重要な選挙の1つで、過去7回連続で擁立した候補全員が当選している。
公明党は、前回、小池を支持する立場から都民ファーストの会と選挙協力を結んだが、今回の選挙協力の相手は、自民党。
この対応の変化の背景にあるのは、次の衆院選だ。

公明党が候補を擁立する都内の小選挙区では、ベテラン議員から若手に世代交代する。
また、比例代表でも近年、得票が減っており、東京ブロックで今の2議席維持が難しくなってきているという指摘もある。

コロナ禍で公明党が得意とする地道な地元まわりも思うように進まず、衆院選での議席の死守に向けて、都議選では自民党に対し、いわば「恩を売る」という戦略だと関係者は解説する。
この自公連携が、小池が態度を明らかにしない大きな要因の1つだと見る関係者は多い。

小池が都民ファーストの会を全面的に支援する中で、自公両党が、都議会の多数派となれば、その後の都政運営が難しくなるからだ。
ある自民党関係者は、自公の躍進に期待を示したうえで、「小池に『寝てもらう』(=動かないでもらう)環境は整いつつあるが、何をしてくるかわからないのが小池だ」となお警戒の色を隠さない。

こうした3党の間に割って入りたいのが、都議会第4党の共産党、第5党の立憲民主党だ。
両党は今回、1人区、2人区を中心に、候補の一本化を進めている。強調するのは、小池との対立軸だ。

これまでに31人の擁立を決めた共産党は、都民ファーストの会も自民党も公明党も「知事に付き従っている」と批判し、3党の立場には違いがないと訴える。
都議選の構図を、3党VS共産党という形に持ち込みたい考えだ。

一方、立憲民主党は、これまでに27人を公認していて、都議会の第2党を狙う。

健全な都政運営にするためには都議会がチェック機能を果たす必要があるとして、その役割を担いたい考えだ。都議会で足場を築き、来る衆院選に向けて勢いをつけたいとしている。

このほか、日本維新の会は9人を擁立予定。

前回の都議選に都民ファーストの会から立候補して当選し、その後、党運営を批判して離党した音喜多駿が、今は参議院議員として所属する。

また、東京維新の会は「今の都議会には、批判すべきは批判し、後押しすべきは後押しする政党がない」として、小池都政に「是々非々」の態度で臨むと主張する。
東京・生活者ネットワークは、3人が立候補予定。

前回は、小池が率いる都民ファーストの会と選挙協力を行ったが、今回は立憲民主党と選挙協力する。
住まいと職、医療・介護・教育の充実を掲げ、「東京を生活のまちに」をスローガンに、現有1議席からの上積みを目指す。
各党が共通して意識しているのは、小池との距離感だ。小池の動向を、各党が固唾をのんで見守っている。

五輪・パラは開催?中止?

ここに来て、大きな焦点に急浮上してきたのが、東京五輪・パラリンピックへのスタンスだ。新型コロナウイルスの厳しい感染状況が続く中、「開催」か「中止」かについては、各党の主張の違いが鮮明となりつつある。

NHKの5月の世論調査で、どのような形で開催すべきと思うか聞いたところ、「中止する」が49%。「これまでと同様に行う」は2%、「観客の数を制限して行う」は19%、「無観客で行う」は23%。「中止する」がおよそ半数にのぼる。

東京五輪の開幕は7月23日。7月4日の投開票日は、その直前だ。

共産党は「大会開催とコロナ対策が両立しないことは明らかだ」として、大会の中止をただちに決断し、コロナ対策に全力集中すべきだと強く訴える。

(1)ワクチン接種が間に合わず、(2)世界各地の深刻な感染状況では全世界のアスリートが同じ条件でフェアに競い合う大会にならず、(3)大会のために医療現場から医師や看護師を引きはがすことに現実性がないことを理由に挙げる。
「コロナ感染拡大の第4波に直面して『東京に来ないで』と言いながら、五輪については『東京に来て』という矛盾した態度だ」と小池の対応を痛烈に批判する。

立憲民主党も、枝野代表が、コロナの感染が拡大する中で十分な医療体制が確保できなければ中止か延期にせざるをえないという認識を示すなど、大会の開催には慎重な姿勢だ。
一方、自民党、公明党は、「安全・安心の大会の開催を」と繰り返し主張する。

自民党は、科学的な知見を踏まえたコロナ対策の徹底と、地域医療への影響を最小限に抑えた医療体制の整備など、現在の都内の感染状況を踏まえた形で開催準備を着実に進めていくことを都に求めている。

公明党も、感染の拡大を防ぐため、水際対策をしっかり行ったうえで、安心・安全な大会の実現に向けて力を尽くしていく考えだ。

都民ファーストの会も、現時点では同様の姿勢だ。

現時点では開催を支持する都議会の関係者からも、こんな指摘が漏れる。
「無観客での開催なのか、有観客での開催なのか、決まっていない状況では、五輪・パラについて、有権者に説明することは非常に難しい。最終的に、どう転ぶかわからないし、誰も感染状況を見通すことはできない。だから今は、演説でもあえて触れないようにしている」

日本維新の会は、五輪・パラを推進する立場に変わりはないとしつつ、コロナへの対応が流動的であり、感染の状況を見極める必要があるとしている。

一方、東京・生活者ネットワークは、声明を出し、「変異株の脅威にさらされている局面で、ワクチン接種は緒についたばかりだ」などとして、1日も早く開催中止を決断するよう強く求めている。

カギを握るのは1・2人区

都内の1100万人を超える有権者は、各党の主張や政策を見極め、投票先を選ぶことになるが、都議選全体の帰すうを大きく左右するのは、1人区、2人区の勝敗だと言える。

特に、ここ3回の選挙では、まるでオセロゲームのように結果が置き換わっている。

7つある1人区の選挙区を見ると、2009年は《民主5・自民1・無所属1》、2013年は《自民7》、2017年は《都民ファースト6・自民1》と、いずれも、第1党となった政党が最も多く勝利している。
2人区でも、第1党となった政党が半数以上を得る結果となっている。

今回も、この1人区、2人区でいかに議席を確保できるかが、都議選全体の勝敗のカギを握るのは間違いない。

勢いはどこの党に…

都議選の告示まで1か月あまりとなった5月21日の知事定例記者会見の直後。
小池は、総理大臣官邸に姿を現し、菅総理大臣と向き合った。
“身内”の都の幹部からも「この時期の面会はいろいろな憶測を呼んでしまいそうだ」と懸念の声すら上がった約30分間の会談。

コロナ対策やワクチン接種などの意見交換がメインだったという会談のあと、小池は記者団に対し、五輪・パラリンピックについて、「コロナ対策をしっかりして、安全・安心な大会にすべく、連携していこうという話になった」と述べ、開催に向けて政府と連携することで一致したことを明らかにした。

政府も都も、五輪・パラは開催が前提だ。
小池の動向、そして大会開催の是非が、どの党の「勢い」に結びつくのか。

都の幹部からは「振れ幅の少ない、安定した都議会になってほしい」といった声も聞かれるが、先行きはなかなか見通せない。

コロナ対策や超高齢社会への対応、首都直下地震への備えなど、課題山積の都政をただす責任を負う127の議席は、どのような彩りやグラデーションを見せるのか。

夏の戦いは、もうすぐそこまで迫っている。

(文中敬称略)
首都圏局記者
成澤 良
2004年入局。神戸局、政治部を経て18年から都庁担当。趣味は大学までプレーしていた野球、スポーツ観戦、減量。
首都圏局記者
西浦 将
2006年入局。広島局などを経て、19年夏から都庁担当。