社会

空港検疫で陽性率が大幅に上昇 専門家「水際対策強化を」

感染力が強いと指摘される変異した新型コロナウイルスが広がっているインドやネパールから入国した人が、空港検疫の検査で陽性と判定される割合、陽性率が先月中旬以降、大きく上がっていることが分かりました。
中には、空港検疫のタイミングで陽性にならず、すり抜けているケースもあるとみられ、専門家は陽性率が上がった段階で、速やかに水際対策を強化できるようにすることが非常に重要だと指摘しています。
厚生労働省は、ことし1月以降、入国者全員に対して抗原検査などを行っていて、その結果を入国前の2週間以内に滞在歴があった国や地域別にまとめています。

それによりますと、ことし3月下旬までは2週間以内にインドに滞在歴があった人で陽性になった人は、1週間当たり1人か2人で、陽性率は1%未満で推移していました。
しかし、先月に入ると陽性率は先月3日までの1週間で1.57%、10日までで1.82%、17日までで4.30%と上がり、24日までの1週間では陽性となったのは26人、陽性率は6.00%、今月1日までの1週間では陽性となったのは36人、陽性率は5.76%となりました。

この間、政府は、出国前の72時間以内にPCR検査を受け、陰性であることを示す書類の提示を求め、入国から14日間、自宅などに待機してもらうよう求める対応を取ってきていて、今月1日からはインドからの入国者に空港検疫で陰性でも3日間、宿泊施設にとどまってもらう対策を始めましたが、空港検疫のタイミングで陽性にならず、数日たってから陽性になり、すり抜けているケースもあると見られます。

その後も、インドからの入国者で陽性となったのは、今月8日までの1週間では陽性は22人で陽性率は3.35%となっているほか、同様の変異ウイルスが広がっている隣国ネパールからの入国者でも、今月1日まででは陽性となったのが31人、陽性率は8.76%、8日まででは陽性は40人、陽性率は7.60%となっています。

空港検疫で陽性となったうち、両国から入国した人は今月1日まででは全体の70.53%8日まででは75.61%を占めるに至っています。

政府は、インドとネパールからの入国者については、今月10日からは空港検疫で陰性でも6日間、宿泊施設にとどまってもらうなどの対策をとっています。

厚生労働省の専門家会合のメンバーで、国際医療福祉大学の和田耕治 教授は「水際対策が強化される1か月前の3月末には空港検疫でインドで広がる変異ウイルスが検出されるようになっていた。その後、4月には陽性者数や陽性率が上がり、本来、このタイミングで強化の検討が行われるべきだった。所管がさまざま省庁にまたがり判断に時間がかかっているので、今後は変異ウイルスに対応するため、空港検疫での状況をもとに素早く対策強化の判断ができる仕組みを作ることが必要だ」と指摘しています。

インドからの変異ウイルス 29人感染確認 厚労省

一方、インドで広がっていると見られる変異した新型コロナウイルスについて、厚生労働省は、24日までに国内で合わせて29人の感染を確認したと発表しました。

全国の自治体では、変異ウイルスを早期に発見するため、新型コロナウイルスへの感染が確認された人の一部の検体を抽出して国立感染症研究所などに送っています。

遺伝子を解析した結果、インドで広がっていると見られる変異ウイルスが、24日までに合わせて29人から検出されたということです。

前回、発表された今月18日の時点から21人増えています。
都道府県別では、千葉県と大阪府が6人、東京都と静岡県が5人、兵庫県が4人神奈川県が2人、広島県が1人でした。

空港の検疫では、今月7日までに入国した人のうち、160人からインドの変異ウイルスが検出されていて、政府が入国後に国の宿泊施設で待機を求める期間を28日から10日間に延長するなど水際対策を強化しています。

専門家「ウイルス これまでより広がりやすくなっている可能性」

インドで広がる変異した新型コロナウイルスは、日本国内で広がっている変異ウイルスより感染力が強いとされていて、厚生労働省の専門家会合のメンバーで、国際医療福祉大学の和田耕治 教授は「飛まつに含まれるウイルス量が増加し、ウイルスがこれまでより広がりやすくなっている可能性がある」と指摘しています。

和田教授は、国内でも主流になった感染力が強い変異ウイルスでのケースを紹介しながら「従来のウイルスなら、家庭で1人感染者が出たときに家族で感染するのは何人かだったのが、変異ウイルスでは家族全員が感染してしまうケースも増えている。変異ウイルスでも感染対策のポイントはこれまでと変わらないが、マスクをしていても狭い部屋で1時間も2時間も話していれば、細かい飛まつは漏れ出てくる。基本的な対策の徹底がこれからも求められる」と注意を促しました。

スクリーニング検査 始める医療機関も

都内の一部の医療機関では、患者の中にインドの変異ウイルスに感染した人がいないかを調べるスクリーニング検査を始めています。

東京・文京区にある東京医科歯科大学附属病院では、新型コロナウイルスに感染し、入院したすべての患者を対象に今月6日から、インドで広がる変異ウイルスに感染しているかどうか調べるスクリーニング検査を実施しています。

これまではイギリスなどで見つかった変異ウイルスを調べていましたが、先月、インドで新たな変異ウイルスが急激に拡大したことを受け、始めたものです。

24日までに37人を検査した結果、1人がインド型の変異ウイルスに感染していたことがわかりました。

この患者は一時、重症化し人工呼吸器を装着しましたが、抗ウイルス薬や炎症を抑える薬を投与され症状は回復しました。

イギリス型の変異ウイルスに感染した患者の症状と比較して、特段、異なる特徴は見られなかったということです。

患者は海外への渡航歴がなく、分析した東京医科歯科大学ウイルス制御学分野の武内寛明 准教授は「患者が市中で感染し、周辺に、この変異ウイルスに感染した人がいることは十分考えられる」と指摘しています。

そのうえで「今後、病院がどのような医療体制を整えるべきか考えるうえでも、インド型の変異ウイルスの広がりを調べるのは重要だ。今はまだ感染事例は少数だが、より強い対策をとっていかないとイギリス型の変異ウイルスが徐々に広がったように数か月後に同じ道をたどる可能性は十分にある」と話しています。

専門家 “治療薬には効果 早期投与が重要”

国内で広がっている感染力が高い変異した新型コロナウイルスで重症化したケースでは、重症化に至るまでのスピードが通常のウイルスより速いとされています。

これについて、新型コロナウイルスの治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄 客員教授は「変異ウイルスは、ウイルスの突起が変異をしていて、人の細胞にくっつきやすいため肺の中に入ると多くの肺の細胞に感染してしまう可能性が高く、重症化しやすい。多くの細胞に感染する過程でサイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫の反応で炎症が起きて、症状が悪化していく」と話しています。

そのうえで、国内で認められている抗ウイルス薬の「レムデシビル」、炎症を抑える「デキサメタゾン」と「バリシチニブ」の3つの治療薬について「変異ウイルスは細胞の中で増殖する過程は従来のウイルスと変わらないとみられている。レムデシビルは細胞の中でウイルスが増殖するのを防ぎ、また、ほかの2つの治療薬については免疫の異常な反応を抑え調節する薬なので、変異ウイルスの治療でも効果があると考えられる」としています。

ただ、変異ウイルスへの感染では重症化するスピードが速いとして「ウイルスの増殖を抑えるレムデシビルをできるだけ早いタイミングで使っていくことが特に大事になってくる。また、いっぺんにたくさんの細胞が感染し、非常に激しいサイトカインストームが起きてしまうため、デキサメタゾン単独の使用では抑えにくくなっているとも言われていて、バリシチニブと組み合わせて免疫の暴走を抑える治療を行うことも重要だ」と話しています。

さらに森島客員教授は、インドで広がる変異ウイルスについてはまだ分からないことが多いとしながら、治療薬には効果があると見られるものの、細胞への結合のしやすさを考慮して、イギリスで見つかった変異ウイルスに対してと同様の考え方で治療を行う必要があるのではないかと指摘しました。

世界の60の国や地域で報告 WHO

WHO=世界保健機関は、インドで最初に見つかった変異のある新型コロナウイルスの報告があったのは、25日の時点で、世界の60の国や地域にのぼるとする報告書を公表しました。

WHOの報告書によりますと、インドで最初に見つかった変異ウイルスの報告数は、先週の時点では世界の65の国や地域となっていましたが、情報を精査した結果、25日時点では、アメリカやイギリス、フランス、中国、ロシアなど、60の国や地域であることが確認されたということです。

このウイルスには感染力が強まったり、ウイルスを攻撃する抗体の働きを低下させたりするおそれのある変異が複数あり、インドでは1日におよそ20万人の感染が確認されるなど、世界的な感染拡大が懸念されています。

このほか、イギリスで最初に確認された変異ウイルスの報告があった国や地域の数は、25日の時点で155と、前の週に比べて4つ増えました。

また、南アフリカで確認された変異ウイルスの報告があった国や地域は111と5つ増え、ブラジルで確認された変異ウイルスの報告があった国や地域も62と1つ増えました。

WHOは、ワクチンが行き渡るまでには時間がかかり、感染の拡大が続けば、新たな変異ウイルスが出てくる可能性が高まるとして、個人や社会全体での感染対策が重要だとしています。

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