育休は一緒に ~「逃げ恥」の2人のように「ペア休」を~

育休は一緒に ~「逃げ恥」の2人のように「ペア休」を~
父親と母親が一緒に育休(育児休業)を取る「ペア休」という言葉が生まれています。コロナ禍で人との接触が制限される今、夫婦で一緒に子育てをしたいという声が高まっているのです。結婚を発表した新垣結衣さんと星野源さんが出演するドラマ「逃げ恥」のシーンをきっかけに、この「ペア休」の意義や壁を考えてみました。
(ネットワーク報道部 大窪奈緒子 野田綾 小倉真依)

「逃げ恥」の2人が

新垣さんと星野さんの突然の結婚発表には驚かされました。

ことし1月に放送された人気ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の新春スペシャルの撮影で再会したことをきっかけに、結婚を前提とした交際を始めたということです。

この「逃げ恥」スペシャルは、今の社会問題を描き出し、育休の取り方もテーマの1つになっていました。
ドラマにはこんなシーンがありました。

新垣さん演じる森山みくりが、星野さん演じる津崎平匡と結婚し、出産。共働きの2人。みくりに加え、平匡も同時に育休を取ることを決心しますが窮地に立たされます。その時の上司や同僚の反応は…対処法は…

このように、父親と母親が一緒に育休を取る「ペア休」。

コロナ禍で人との接触が限られている今、見直されているんです。

ペア休の意義と壁を動画で

最近、ネット上に「わたしたちは『ペア休』という選択」という動画がアップされました。

動画の主人公の若い父親は、育休を取得したいと考えていますが、なかなか会社に言い出せません。

意を決して上司に相談してみますが「男性は取ったことがないし、その頃は繁忙期だからな」と一蹴されてしまいます。

1人で必死に赤ちゃんのお世話に明け暮れる母親。

父親は帰宅が遅く、夫婦関係はどんどん悪くなっていきます。

しかし動画はこれでは終わりません。
後半では別の展開が描かれています。

ペア休を取ることができた夫婦の家庭と職場に起きるポジティブな変化です。

職場は、育休に入る前から仕事の分担ができ、互いに支え合うよい雰囲気が生まれていきます。

家庭でも、夫婦間の会話や育児のゆとり、そして笑顔が生まれていきます。

夫婦が一緒に子育てを行うペア休を取りやすい空気を作っていこう。

動画はこう呼びかけています。

コロナ禍で育児の不安

この動画を作った境野今日子さんは、10か月の女の子の母親です。

不安な気持ちで慣れない時期に、夫婦が一緒に育児をする大切さを知ってもらいたいと制作しました。
境野今日子さん
「理解が進まない人たちの気持ちを変えるのは難しいと感じていますが、応援してくれる人もたくさんいます。この動画を通して、そうした人たちから社会の雰囲気を変えていけたらいいと思っています。男女ともに、もっと育休を取りやすい社会になって、父親と母親が2人で協力して育児できる社会になってほしいです」

ペア休 取った人は笑顔に

動画に出演した2児の父親、一之瀬幸生さんは会社の理解もあり、2度ペア休を取りました。

炊事に洗濯、上の子の世話は自分が担当し、下の子の夜泣き対応も妻と1日おきの当番制にして育児を担いました。
ペア休を取ったことで、妻は負担が減り、気持ちに余裕ができ、子どもに対しても優しく接することができたといいます。

一之瀬さん自身も、苦労しつつも、自然と家事や育児を分担することで、妻や子どもとの絆が深まったと感じています。
一之瀬幸生さん
「妻の笑顔は格段に増え、育児を楽しむことができるようになりました。一番大変な時期を共に乗り切り、夫婦の絆も深まったと感じています。妻もまもなく仕事復帰しますが、ペア休の期間中に協力体制の基礎を作れたと思っています」

取れずに苦い経験

一方、ペア休を取りたくても断念した人も実際にいます。

そのひとりが岩手県の2児の父親、後藤大平さんです。
後藤さんは、長女が生まれた9年前に会社に育休申請したものの、取得できなかったという苦い体験があります。

まだ社会全体で育休に対する理解が十分でなく、後藤さんは、会社にいると妻と一緒に思うような子育てができないと考え、1年後、会社を辞めることにしました。
後藤大平さん
「男性は仕事中心でしか生きられないのかとがっかりし、絶望しました。妻の助けになれず、負担をかけてしまいました。今でも育休を取得しづらい雰囲気が社会にあることに違和感を感じています。働き方を変えるのは個人の努力だけでは限界があるので、周りの後押しが必要だと思います」

男性の育休取得に課題

ペア休実現の課題は何か。

厚生労働省の調査では、令和元年度の育休の取得率は女性が83%なのに対し、男性はわずか7.48%にとどまっています。
男性が育休を取りたくてもできていない現状が明らかになっています。

厚生労働省によりますと、育休制度の利用を希望していたものの、利用しなかった男性は37.5%いました。

育休を取得しなかった男性からは、「職場が制度を取得しづらい雰囲気だった」、「今後のキャリア形成に悪影響がありそうだと思った」、「収入を減らしたくなかった」、「会社に育休制度が整備されていない」といった理由が寄せられました。
職場内の雰囲気に加え、収入面の不安も大きく影響しているようです。

男性の育休0%から30%にUPの企業 なぜ?

こうした中でもペア休を取得しやすい環境作りに取り組んでいる企業もあります。

高知市に本社のある建設機械メーカー・技研製作所は、およそ600人の社員のうち8割以上が男性です。

3年前まで男性の育休取得率0%が続いていましたが、いまは全国平均を大きく上回る30%以上になり、ペア休を取得するケースも出ています。
この企業は、女性社員による社内改革プロジェクトチームを発足させました。

チームは、全社員を対象に男性の育休に関する意識調査を実施し、なぜ取得できないのか、課題の洗い出しから始めました。

そして、収入の減少や、職場の雰囲気、同僚の負担増への心配が敬遠の理由となっていることがわかりました。

チームが取り組んだのがこうした項目です。
【育休給付金シミュレーション】
育休中の収入面の不安に対応するため、国からの給付金を計算できる独自のシミュレーションツールを社内のイントラに掲載。収入の変化を具体的に示し、取得後の生活の見通しを立てられるようにした。

【説明会で意識改革】
配偶者が出産を控えた男性社員とその上司を対象に説明会を実施。キャリア面で不利益がないことや、育休の重要性を説明し、意識改革に努めた。

【男性育休取得推進宣言】
役員が社内通達で男性の育休取得推進を宣言。社内で育休を取得しやすい雰囲気や環境作りを進めた。
こうした取り組みを進めた結果、介護や病気などで社員が抜けても、業務が回りやすくなり、企業側にもメリットがあるということです。

しかし、ペア休を含む男性の育休取得は改善したものの、まだ道半ばだと言います。
技研製作所担当者
「当初は、社内はポジティブではなく、育休取得の推進は難しいのではないかと多くの人が感じていたため、社内の文化や雰囲気を変えていくには少々時間がかかりました。これからも積極的に育休を取ってほしいです」

「パパ・ママ育休プラス」制度

ペア休の取得に向けて、国も環境整備を進めています。

「パパ・ママ育休プラス」という制度は、夫婦が2人で、できるだけ長い期間育休を取れるようにと設けられました。

育休の制度は原則として子どもが1歳になるまでの1年間ですが、母親に加え、父親も育休を取る場合、この制度を使えば、休業できる期間をずらして原則1歳2か月まで延長されます。

母親の育休が明けても、父親の育休が続いていることで、母親の職場復帰をしやすくする役割もあるということです。
ただ、こうした取り組みを行っていても、政府が掲げる2025年までに男性の育休の取得率を30%にするという目標には程遠いのが現状です。

このため、国は男性が育休を取りやすい企業には助成金を支払って企業側にも働きかけを行っています。

また、育児休業を分割して取得できるようにする法改正の議論も進められていて、育休の取得率を高めようとしています。

なぜペア休は浸透していないのか?

男性の育児参加を支援するNPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表理事は、ペア休が理解されにくい背景には日本社会にある根深いジェンダーの役割意識があるからだと指摘します。
安藤哲也さん
「昔に比べて男性の子育てへの意欲も高まっているが、世代や地域によっては『男は稼いでなんぼ』『男は一家の大黒柱』という意識はまだ残っている。母親が子育てをするということが当たり前だという意識だ。今はコロナ禍で頼れる人がいないという人も増えているので、ペア休はより重要になっている」
最後に、私たちはどうしたらよりペア休を取りやすくなるか、アドバイスをもらいました。
安藤哲也さん
「会社には『育休取れますか?』と聞くのではなく『制度を説明してください』と交渉することが重要です。また、よかれと思って勝手に育休を取るのではなく、夫婦で事前に取得するかや時期をしっかりと話し合うことも必要です。また、育休に向けて必要な貯金をすることも大切です。家族みんなが笑顔になれるように、男性も女性も育児ができる環境を整えていかなくてはなりません」