愛知県知事のリコール署名偽造 事務局長の指示で次男が準備か

愛知県知事のリコール・解職請求に向けた署名をアルバイトなどを使って偽造したとして署名活動を行った団体の事務局長やその次男など4人が逮捕された事件で、事務局長がアルバイトを集めた会社に書き写しの作業内容を指示し、次男が署名の偽造に使われた名簿の準備や作業の立ち会いをしていたとみられることが会社関係者への取材でわかりました。警察はそれぞれの役割分担について捜査を進めています。

署名活動を行った団体の事務局長の田中孝博容疑者(59)や次男の雅人容疑者(28)ら4人は、愛知県の大村知事のリコール・解職請求に向けた署名活動終盤の去年10月下旬、佐賀市内で、アルバイトなどを使って署名を偽造した地方自治法違反の疑いが持たれています。

下請け会社を通じてアルバイトを集めた広告関連会社の関係者によりますと、去年10月、田中事務局長から「とにかく人を集めてくれないか」と会社の幹部に依頼があり、署名の書き写しなどの作業内容を指示されたということです。

そして、佐賀市内の施設には次男の雅人容疑者が署名用紙や大量の住民の名簿を持ち込んで、今回逮捕された母親とともに書き写し作業に立ち会い、偽造された署名簿を車で複数回にわけて愛知県に運んだということです。

一方、田中事務局長は先月から今月にかけてのNHKの取材に対し、みずからや家族の関与を否定し、「署名集めを広告関連会社に依頼はしたが、アルバイトに書き写させるという具体的な方法は広告関連会社が勝手に計画したものだ」と主張していました。

警察は、それぞれの役割分担について捜査を進めています。

警察は、捜査に支障があるとして4人の認否を明らかにしていません。

逮捕の田中孝博事務局長は…

NHKはこれまで署名偽造をめぐる疑惑について、逮捕された田中孝博事務局長にインタビューを行ってきました。

1 佐賀で何が?

まず、去年10月、佐賀市で何が行われたのか。

市内の施設に大勢のアルバイトが集められ、田中事務局長の妻と息子が立ち会って、書き写し作業が行われた疑いがあるということです。

アルバイトをした男性は、NHKの取材に対し「署名を100万人ぐらい集めないといけないので、書き写す人数が足りないと『急いでください』という指示があった」と証言しました。

この疑惑に対し、田中事務局長は「妻はパートを常時やっておりますので、佐賀に行っているという時間はないはずです。次男のほうも仕事を通常、ふだんやっておりますので」などと家族の関与を否定したうえで、「佐賀の署名活動に対して、リコール団体の職員とか幹部だとかの関与は、私は一切承知しておりません」と述べ、みずからや団体の関与も否定しました。

2 誰が指示をしたのか?

書き写しを指示したのは誰なのか。

佐賀でのアルバイトは、愛知県の広告関連会社から下請け会社を通じて集められていました。

この広告関連会社の関係者によりますと、アルバイトの募集は田中事務局長から、会社の幹部に依頼があったということです。

田中事務局長の直筆の名前が書かれ、印鑑も押された「発注書」を受け取ったということです。

これについて、田中事務局長は「私は発注書なるものに関しては記載、サインをした記憶もないですし、押印もしておりません」と否定しました。

3 一転 “書き写しの認識あり”

署名の書き写しについて、関わりを否定し続けてきた田中事務局長ですが、5月に入り、その証言は一転しました。

アルバイトによる署名の書き写しと、広告関連会社への依頼については当時から認識していたことを認めました。

そのうえで、依頼したのはあくまでも署名集めで、書き写したあと、その名前の本人から改めて署名を集めると聞いており、偽造の依頼はしていないと説明し「広告関連会社に、本人のサインをきちんともらうようなことを署名収集できるということであれば、それはぜひやってくださいよと伝えた」などと話しました。

田中事務局長 “行使の責任はある”

田中事務局長は、偽造への関与を否定する一方で、偽造された署名を提出したことの責任については、みずから認め「署名偽造と署名偽造行使。僕は、この行使ですよ。行使というのは署名偽造と思われるものを提出しているわけですよ。それについては、あります。僕は署名偽造はしていませんからね」と話していました。

専門家「地方自治を破壊するほどの大事件」

地方自治法に詳しい専修大学法学部の白藤博行教授は今回の署名偽造事件について「住民自治を実現するはずの人たちがこういう形で署名の偽造を行うのは直接請求権の存在理由を根こそぎダメにしてしまうものだ。地方自治を破壊するといってもおかしくないほどの大事件だ」と指摘しました。

そして、署名が必要数に届かなければ通常、その有効性が調べられることがないいまの仕組みについて「リコールが成立していない事例なので、選挙管理委員会がしっかりチェックせずにそのまま放置されていたかもしれない。少なくとも40万の署名が集まったという事実がうそだとしても、残ってしまった可能性があり、このような政治的な利用は決して許されてはならない」と署名活動が政治利用されることに懸念を示しました。

そのうえで「どのような動機で偽造をやったのか明らかにしないと、もうちょっとうまくやれると思う人も出ないとは限らない。地方自治の破壊を許さないために、きちんとした検証をしてほしい」と話していました。

名前を使われた男性「怒りすぎて怒りを通り越した感情」

愛知県尾張旭市に住む70代の女性は、10年前に亡くなった夫の名前などを勝手に署名に使われていました。

女性は「逮捕についてはニュースを見て知りました。真面目に生きて、その後、亡くなった人の名前を勝手に使うのは失礼なことです。なぜそんなことをしたのか理由を教えてほしいです。すべてを話して反省してほしいと思います」と話していました。

また、大学や専門学校で学生などに法律の科目を教えている、愛知県みよし市の山上博信さん(54)も、去年10月8日に身に覚えのない自分の署名がされていました。

山上さんは「なぜ私の名前を勝手に使ったのか、怒りすぎて怒りを通り越した感情になっています。何十万人もの人を巻き込んだ署名の偽造は民主主義の根幹を覆すようなことなので、田中容疑者をはじめ、関係した人たちには反省したうえで二度とこうした事件を起こさないと確約してほしい」と話していました。