新型コロナワクチン、打たないと退職!?

新型コロナワクチン、打たないと退職!?
「接種しないなら退職を」
「打たないなら別居を考える」

ワクチンを接種しない人たちが浴びせられた声です。

ワクチン接種が進む中、「早く打ちたい」という声が目立つ一方、持病やワクチンへの不安などから接種しないという人たちもいます。

接種の判断は個人に委ねられていますが、一部で接種しない人たちを否定するような事態も起きています。

(ネットワーク報道部 目見田健 馬渕安代 藤島新也)

接種本格化へ 不安の声も

先月から高齢者への優先接種が始まり、来月以降は、高齢者以外への接種も始まる見通しです。

SNS上では「早くワクチンを打ちたい」「予約の電話がつながらない」といった声が目立つ一方で「会社から打てと強制されてるけど打ちたくない」などと戸惑う声も見られます。

差別は許されない

政府は、国内外の数万人のデータから、ワクチンの発症を防ぐ効果などのメリットが、副反応などのデメリットよりも大きいとして接種を加速させています。

また、ワクチンの安全性について、厚生労働省の専門家部会は「重大な懸念は認められない」としています。

一方、接種は法律で「努力義務」と位置づけられ、厚生労働省も「接種は強制ではなく、あくまで本人の意思に基づき接種を受けるもの」と説明しています。

また、法律の附帯決議には「接種していない者に対して、差別、いじめ、職場や学校等における不利益取扱い等は決して許されるものではない」と明記され、政府にこうした内容を周知するよう求めています。

厚生労働省のホームページでは、次のように強調されています。
職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをしたりすることのないようお願いしています。

仮に会社等で接種を求められても、ご本人が望まない場合には、接種しないことを選択することができます。

退職を迫られて…

ところが、実際にはワクチン接種をめぐって差別的な扱いを受けるケースも明らかになっています。

兵庫労働局によると、看護師がワクチン接種を断ったところ、勤めている病院から自己都合退職届の書類にサインするよう迫られたということです。さらに、サインしなければ、自宅待機となり賃金も支払わないと伝えられたといいます。

労働局が、国の法律などを病院に説明して話し合いを促した結果、病院側が「理解不足だった」と認めて、看護師の雇用は継続されたということです。

このほか兵庫労働局には「ワクチン接種を拒んだら職場の上司から批判された」といった相談も寄せられているといいます。

接種しないと別居!?

差別的な扱いを受けたという人たちからの相談は、日本弁護士連合会にも寄せられています。
匿名を条件に、具体的な相談内容を教えてもらいました。
▽介護施設で働く40代男性。
アレルギーがあるので接種しないと職場に伝えたところ、仕事を辞めるか、休職するか、希望しない部署に移るかの3択を迫られた。

▽看護学校に通う女子学生。
ワクチンの安全性に不安を感じて接種するのが怖いが、接種しないと病院での実習を認めないと言われている。実習にいけなくなると単位が取れず、卒業できるのか非常に不安に感じている。

▽夫から接種するように言われているが接種したくない。夫からは接種しないと別居を考えると言われた。
日弁連の電話相談には、今月14日からの2日間で、予想を上回る208件もの相談が寄せられました。

「これまで誰にも相談できなかった」と、泣きながら不安を打ち明ける人もいたということです。

日弁連は相談者に対し、ワクチンの未接種を理由に不利益な取り扱いをしてはならないことを職場などに伝えたうえで、改善しなければ1人で抱え込まず、地域の弁護士会などのサポートを受けるよう助言しています。

自己決定権がないがしろに

電話相談に応じた川上詩朗弁護士に話を聞きました。
川上弁護士
「『接種するのが当然だ』という雰囲気が強まるなかで、自己決定権がないがしろにされているケースが多いと感じました。ワクチンを接種するかどうかの考え方の違いは、職場の人間関係だけでなく、家族や夫婦関係などさまざまなコミュニティーを壊しているような状況です」
川上さんは、今後、接種が本格化して同様の相談が増えると考えています。
「介護施設なども悪意があって接種を強制しているのではなく、何とか感染拡大を防ぎたいという思いが背景にあるのだと思います。介護施設の利用者などから接種を求められている可能性もあるので、単純に『本人の意思を尊重しましょう』というだけでは解決できない問題だと感じます。国が接種を推進する一方、接種できない人、したくない人たちの不安を受け止める窓口が少ないので、そうした受け皿を充実させる必要があります」

感染症専門医は

ワクチン接種をめぐり差別的な扱いを受ける人がいる現状を、医療の専門家はどう受け止めているのでしょうか。

感染症の専門医で、新型コロナウイルスの患者の治療を続けている国立国際医療研究センターの忽那賢志医師に聞きました。
忽那医師
「ワクチンを打てない、あるいは注意が必要な人もいるので、接種するかどうかは最終的には個人の判断に委ねられるべきです。打たない権利も保障されるべきだと思いますし、接種しない判断をした人が、それを理由に会社を解雇されるようなことはあってはならないと思います」
忽那さんが指摘したワクチン接種ができない人や注意が必要な人について、厚生労働省は具体的に例示しています。

正しい情報を

忽那さんは、接種しない権利は認める一方で、感染収束に向けて1人でも多くの人がワクチンを接種することが大事だと指摘します。
忽那医師
「ワクチンは感染そのものを防ぐ効果も確認されてきていますし、重症化を防ぐ効果は非常に高いので、社会全体で見れば、できるだけ多くの人に打ってほしいと思います。私も接種しました」
そのうえで、ワクチンに関する不安を煽る情報も広がるなか、ひとりひとりが正しい情報をもとに判断できるようにすることが大切だと強調しました。
「一部では、例えば、ワクチンを打つと遺伝子情報が書き換えられて危険だといった間違った情報が広がっています。それを鵜呑みにした人が接種したくないと言いだす…こういった事態にならないようにすべきだと思います。そのためにも、政府や医療機関は、ワクチンへの正しい理解を広げるための十分な情報を届けていく必要があると思います」

“ワクチン差別”の危うさ

取材を通じて、ワクチン接種をしない人に退職まで迫るケースがすでに出ていることに驚きました。

新型コロナウイルスの影響が長引くなか、誰もが早く感染を収束させて日常を取り戻したいと強く願っていると思います。

一方で、そうした思いが強くなればなるほど、ワクチンを接種しない人を差別的に扱うような風潮が助長されかねない危うさも感じました。