出入国管理法などの改正案 今国会成立見送る方針伝える

外国人の収容の在り方などを見直す出入国管理法などの改正案をめぐり、自民党と立憲民主党の幹事長が会談し、自民党は、野党側が収容施設でスリランカ人女性が死亡した真相の解明が欠かせず採決に応じられないとしていたことなどを踏まえ、今の国会での成立を見送る方針を伝えました。

出入国管理法などの改正案は、先週の与野党の修正協議で内容は大筋で一致したものの、収容施設で死亡したスリランカ人女性の施設内での様子などを映した映像の開示をめぐって折り合いがつかず野党側は、衆議院法務委員長の解任決議案を提出しました。

そして、立憲民主党など野党3党は、18日、スリランカ人女性の遺族らに映像が開示されないかぎり、採決には応じない方針を確認しました。

これを受けて、政府・与党は、野党側の理解を得られないまま改正案を採決するのは望ましくないとして、今の国会での成立を見送る方針を固め、18日昼過ぎ、自民党の二階幹事長と立憲民主党の福山幹事長が国会内で会談しました。

この中で、二階氏が「改正案の審議はこれ以上、進めないことを決めたので、法務委員長の解任決議案は撤回してもらいたい」と述べたのに対し、福山氏は「決断を評価したい。スリランカ人女性の遺族にも配慮して対応してもらいたい」と応じました。

そして、野党側は、法務委員長の解任決議案を取り下げました。

加藤官房長官「今後は法務省で検討していく」

加藤官房長官は午後の記者会見で「与野党協議において、今国会でこれ以上審議を進めないとの合意がなされたと承知しており 政府としてもこれを尊重することとした」と述べました。

そのうえで「政府として長期収容などの出入国在留管理行政にとって、喫緊の課題に対応するために必要として提出したものだが、今後の法案の取り扱いは法務省で与党などとも相談しながら検討していく」と述べました。

自民 二階幹事長「臨機応変に対応」

自民党の二階幹事長は、記者会見で「内容は現場に委ねているので、ルールに従って十分調整していくが、現場の状況を見て、臨機応変に対応していくということに尽きるのではないか」と述べました。

自民 森山国対委員長「審議進めないことも1つの選択」

自民党の森山国会対策委員長は記者団に対し「与野党の修正協議もほぼ整い、改正案そのものに大きな考え方の違いはないと思うが、不幸な出来事が起き、人の命は尊いものなので、真相がどうだったかしっかり究明しなければならない。今国会で審議をこれ以上進めないことも1つの選択だ」と述べました。

そして、改正案の今後の取り扱いについては「継続審議という形になるが、衆議院議員の任期満了が近く、廃案になる可能性が高いので、国会への再提出については政府が今回の修正協議をどう受け止めるかにかかっている。内容は重要であり、次の国会に向けて成立を目指していかなければならない」と述べました。

立民 枝野代表「世界に胸を張れる入管行政に」

立憲民主党の枝野代表は党の常任幹事会で「今国会での改正案の成立断念という結果を勝ち取ることできたが、これはスタートラインだ。スリランカ人女性の死亡原因についてしっかりと明らかにしなければならないし、世界に胸を張れる入管行政にしていく大きな転機にしないといけない」と述べました。

立民 福山幹事長「判断したことは評価したい」

立憲民主党の福山幹事長は記者団に対し「二階幹事長が、今国会でこれ以上、改正案の審議を進めないと判断したことは評価したい。ただ、収容施設で亡くなったスリランカ人女性に関するビデオの開示の件は、非常に大きな問題であることに変わりはなく、国際社会に信頼してもらえる入管行政はどうあるべきか、引き続き議論していきたい」と述べました。

立民 安住国対委員長「事実上改正案の成立断念と判断しても」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者団に対し「事実上、改正案の成立断念と判断してもいいのではないか。ビデオの公開の話はまだ解決していないが、国会審議での与党側の決断が、われわれの意に沿った対応であるのであれば大変評価したい」と述べました。

難民認定申請中の外国人からは歓迎の声

出入国管理法の改正案の今の国会での成立が見送られたことについて、難民認定を申請している外国人からは歓迎する声が聞かれました。

バングラデシュ出身のカシム・ウディンさん(51)は26年前に来日し、母国では反政府活動に参加していたことから帰国すると、迫害を受けるおそれがあると考えて、難民認定を申請し続けているといいます。

これまでに2度、申請を却下され、現在、3回目の申請手続きの最中だということです。

カシムさんは「改正案が成立すれば強制送還されてしまうという不安から、夜は眠れず心配していました。成立が見送られたと聞いてとてもうれしいです。日本は国際的に見て難民の認定率がとても低いので、もっと引き上げてほしいです」と話していました。

改正案成立を目指してきた背景は

政府が出入国管理法などの改正案の成立を目指してきた背景には、近年、在留資格の期限が切れて、不法滞在となる外国人が増加していることがあります。

ことし1月の時点で日本に不法に滞在している外国人は、8万2868人とこの5年間で2万人以上増えています。

これに伴って、国外退去処分を受ける外国人も増加傾向にあり、こうした人が出国を拒否することで、施設での収容が長期化するケースが相次いでいます。

出入国在留管理庁は「在留資格制度の崩壊につながるだけでなく、日本人やルールを守って生活する多くの外国人の安心・安全な社会を脅かしかねない」としています。

そこで、改正案では退去するまでの間、施設に収容するとしていた、これまでの原則を改め、新たに「監理措置」を設けて、逃亡のおそれが低いなど、一定の条件を満たす人は、施設には収容せず、親族や支援者のもとで生活することを認めるとしています。

また、自発的な出国を促すため、退去処分を受けたあとでも、自費で出国した場合は、原則5年間禁じられている再入国までの期間を、1年に短縮することを可能とする規定も盛り込まれました。

一方、飛行機の機内で暴れるなど、退去を拒む妨害行為に対処するため、退去を命令する手続きを設け、従わない場合は1年以下の懲役などの罰則を科すとしています。

また、難民の認定基準については、欧米と比べて厳しいという指摘があることなどを踏まえ、基準を満たさないケースでも、紛争から逃れてきた人や、帰国すると迫害を受けるおそれがある人を保護の対象とする新たな手続きを創設します。

そして、難民申請中は強制送還が停止される規定については、申請を繰り返すことで送還を逃れようとするケースが後を絶たないことから、3回目の申請以降は、原則、適用しないとしています。

収容女性死亡と国会議論の経緯

新型コロナウイルスの感染拡大の防止に向けて、出入国在留管理庁は、施設から一時的に釈放する仮放免を積極的に活用することで、収容者の数を減らしていて、去年末の時点で、施設に収容されている外国人は、前の年の3分の1程度の346人となっています。

こうした中、ことし3月、名古屋出入国在留管理局に収容されていた30代のスリランカ人の女性が死亡したことを受けて、上川法務大臣は、死亡の経緯や施設の対応状況などを出入国在留管理庁に調査するよう指示しました。

4月、公表された中間報告では、女性は、おととし1月から不法滞在で、去年8月に「スリランカに帰国したい」などと訴えて出頭し、名古屋出入国在留管理局に収容されました。

そして、ことし1月中旬以降、体調不良を訴え、施設内や外部の病院で、合わせて4人の医師の診察を受けて、逆流性食道炎や精神的な病気の疑いがあると診断され、薬を処方されていましたが、3月6日に死亡しました。

一方で、女性は去年12月以降「日本人の支援者と日本で暮らしたい」と希望するようになり、ことし1月4日に仮放免を求める申請を行いましたが認められず、2月22日には「体調が悪い」などと訴えて、再び申請を行っているところでした。

立憲民主党や共産党などの野党側は、同じような事態を繰り返さないためにも、女性が死亡した真相究明が先決であり改正案の採決には応じられないとしてきました。

中でも、問題視しているのが、女性の体調が悪化していたにもかかわらず、仮放免が認められなかったことです。

野党側は死亡の2日前に診察を行った医師の紹介状に、仮放免を勧める記述があったにもかかわらず行わなかったことや、その記述が、中間報告に盛り込まれていなかったことなどを指摘し「調査の客観性や公平性に疑義がある」と批判しています。

そして、具体的で客観的な証拠として、施設内の女性の様子などを写した監視カメラの映像を開示するよう求めています。

一方で、与党側は「改正案の審議と、女性の死亡は別の話だ」として、今の国会での成立を目指したことから改正案の採決をめぐって与野党の対立が続いていました。

先週、野党側は、難民申請中でも3回目以降は強制送還できるとする規定を削除することや、収容期間の上限を設けることなど、10項目の修正案を示し、与野党で修正協議が行われました。

その結果、修正内容では大筋で一致したものの、野党側が、すみやかに映像を開示するよう求め、折り合いませんでした。

そして、野党側は採決を阻止するため、自民党の義家衆議院法務委員長の解任決議案を提出し、18日午後の衆議院本会議で採決が行われる予定でした。

UNHCR「改正案をさらに議論、検討の必要性認識を歓迎」

出入国管理法の改正案の成立が見送られたことを受けて、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は「さらなる議論の必要性が認識されたことを歓迎する。UNHCRが先月出した見解が今後のあらゆる議論において考慮されることを望んでいる」とコメントしています。

UNHCRは4月「難民の保護の強化につながると期待されるものもある」とする一方、3回目以降の難民申請については手続き中でも強制送還できるようにすることが盛り込まれていることなどについて「非常に重大な懸念を生じさせるさまざまな側面がある」という見解を出しています。

このほかにも、国連人権理事会の「恣意(しい)的拘禁作業部会」や、「移住者の人権に関する特別報告者」などが、改正案について書簡をまとめ、国外退去処分を受けた外国人の収容が依然として強制されることや、収容期間に上限がないことなどに、人権上の懸念が残ると指摘しました。

そのうえで、改正案は「国際的な人権基準を満たしていないように思われる」として、日本政府に見直すよう求めています。