ビジネス特集

流出するマイクロプラスチック 稲作で使う○○が海や川に

「マイクロプラスチック」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべますか?海岸に打ち上げられたペットボトルやレジ袋などが思い浮かぶ人も多いかもしれませんが今回、注目するのは「稲作」から出るマイクロプラスチックです。思わぬものが関わりがあることがわかってきました。(経済部記者 池川陽介)

海岸で見つかった“意外なもの”とは

「マイクロプラスチックの問題で、ぜひ見てほしいものがある」

海などの環境問題に詳しい四日市大学の千葉賢教授から電話で話を聞き、私が向かったのは市内中心部から車で30分の吉崎海岸。四日市市内では唯一砂浜が残る海岸だ。
四日市大学 千葉賢教授(左)と学生
千葉さんは学生と一緒に2年前から2か月に1度、海岸の漂着物に含まれるマイクロプラスチックの定点調査をしている。

ことし2月の調査で最も多かったというプラスチックの小さな粒を見せてくれた。
大きさは2ミリから4ミリくらい。まるでカエルの卵のようだが、透明のものや明るい色のものなどさまざまだ。

いったい何だろう?

「これ、『稲作で使われる肥料の空き殻』なんですよ」

言葉が出なかった。これまで秋田や宮城、山形といったコメどころで稲作を取材する機会は多かったが、肥料にプラスチックが使われていることは知らなかった。そして、それが川や海に流出していることも。

プラスチックの殻は農作業の期間にあたる春から秋に多く見つかるということだった。
四日市大学 千葉賢教授
千葉教授
「環境への影響を考えて、農家には肥料の殻が水田の外に出ないようしっかり管理して使ってほしい」
プラスチックの殻は、環境調査を行う一般社団法人「ピリカ」が昨年度、全国120か所で行ったマイクロプラスチックの調査でも、人工芝に次いで2番目に多い量が見つかっていた。

始まりは70年代

肥料メーカーなどで作る「日本肥料アンモニア協会」によると、肥料にプラスチックが使われるようになったのは1970年代からだという。
日本肥料アンモニア協会
「日本の稲作ではイネの成長を促すため田植えや夏場に複数回肥料を与える。ただ、農家は肥料が入った重いタンクと機械を背負って田んぼの中を歩き回る必要があり、高齢化や農地の大規模化にともなって大きな負担になっていた。また、必要以上に肥料を与えることは水環境への負荷になり課題だった」
そこで考え出されたのがプラスチックで肥料の表面を覆うこと。薄いプラスチックで肥料を覆い、一定の水分が浸透すると殻が破れて中身が溶け出す仕組みだ。

殻は長時間、紫外線にあたると分解するとされている。

ほかの肥料といっしょに使うと一回まくだけで時間差で異なる効果があり、農家の手間の軽減や水環境への負荷も減らせることから発売後広く普及。「被覆肥料」や「一発肥料」などと呼ばれ、いまでは日本の水田のおよそ6割で利用されているという。

農家も知らない課題

ただ、肥料にプラスチックが使われていることは、コメ農家の間でもあまり知られていない。
米どころで知られる宮城県の専業農家、松浦正博さん(34)はコメの栽培を始めてことしで10年。仲間とともにおよそ35ヘクタールの広い農地でコメを栽培している。

松浦さんは、作業の負担が少なく、安定的な生産ができることなどから「被覆肥料」を使ってきた。

ただ、その素材がプラスチックでできていて、一部が分解されないまま川などに流出していることは最近まで知らなかったという。
コメ農家 松浦正博さん
松浦さん
「肥料の殻は水などで分解されると思っていたので、プラスチックが残ると聞いて非常に驚いた。排水口に網をかけることを考えたがごみが詰まってしまう。とても難しい問題だ」
自治体や肥料メーカーは流出させないようチラシを配ったり、肥料の袋に注意書きを書いたりしているが、十分周知が行き渡っているとは言いがたいのが現状だ。
水田脇の排水口についたプラスチックの殻
プラスチックの殻が水田の外に流出していることを国が確認したのもごく最近のこと。

国は今後、対策を検討することにしている。

解決策 高校生が提案

一方、民間でも解決策の模索が始まっている。主役は次の世代の農業を担う若者たちだ。
宮城県農業高校は海岸の清掃活動で肥料用のプラスチックの殻が多く確認されたことをきっかけに、生徒たちが中心になってこの問題の解決策を考え始めた。

いまでは肥料メーカーと協力してプラスチックを使わない肥料を研究している。
プラスチックを使わない肥料
使うのは「ウレアホルム」という園芸用などで使われる肥料。少しずつ水に溶け出し、ゆっくり効果が現れるのが特長という。

去年、これを使って試験栽培をしたところ、プラスチックの殻と同じように時間差の効果が確認できた。

高校ではことし、プラスチックを全く使わない肥料の稲作を実験している。コスト面などの課題を含め実用化に向けた研究を続けていきたいと考えている。
宮城県農業高校 山根正博教諭
山根教諭
「肥料で使われているプラスチックの殻は小さすぎて拾えないため、流れ出した時点でマイクロプラスチックになってしまうことが一番の問題だ。高校生の活動を通じて多くの人にこの問題を知ってほしい」
このほか、石川県の農業法人などがプラスチックの殻を使う代わりに、肥料をペースト状に加工して深さを変えて土の中に注入し、イネの成長にあわせて効き目が出るようにする栽培を始めている。
プラスチックを利用した肥料が日本の稲作、さらには、それでできたコメが私たちの食卓を支えてきたことは間違いない。

ただこれからの時代もそのままでいいのか。

日本の農業を持続可能なものにするためにも、早急に対策を考えていかなければいけない課題だと感じた。
経済部記者
池川 陽介
平成14年入局
仙台局、山形局などを経て現所属

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