東京五輪・パラ 全国54自治体で事前合宿などの受け入れ中止

東京オリンピック・パラリンピックで予定されている海外選手の事前合宿や交流について、国内の感染拡大への懸念などから少なくとも全国の54の自治体で受け入れが中止されたことがわかりました。
国によりますと、現時点で正式に受け入れの日程が決まった自治体はなく、専門家は中止の動きはさらに広がる可能性があると指摘しています。

感染対策が大きな負担に

東京オリンピック・パラリンピックでは、海外選手の事前合宿や交流を行うホストタウン事業に全国の528の自治体が登録し、そのほかにも事前合宿を個別に予定している自治体もあります。

国の感染対策の指針では受け入れ側の自治体に対し、選手や自治体側の関係者を原則、毎日検査する体制を整えることや、移動にはチャーター機や貸し切りの新幹線を手配することなどを求めています。

こうした中、NHKが全国の都道府県などに取材したところ、これまでに、
▽事前合宿を中止した国や地域がある自治体は48
▽交流を中止した自治体は4などと、27の都道県の54の自治体が感染拡大の影響で受け入れを中止したことがわかりました。
また、
▽事前合宿の中止を打診され最終調整中が3自治体となっています。
全体のうち、相手国側から中止の打診があったケースは8割余りで、それ以外は、自治体側から申し出たり両者で協議したりしたケースでした。

具体的には、相手国側からは「日本で感染が収まらず移動にリスクがある」とか「選手やスタッフの安全を確保できない」といった理由のほか、「感染拡大で代表選考が遅れている」という理由もありました。

一方、自治体側からは「国が求める水準の感染対策をとることが困難」とか、「練習場がワクチンの接種会場になり確保できなくなった」といった理由があげられていました。

内閣官房によりますと、各自治体は国の指針にもとづき相手国側と協議を進めていますが、現時点で正式に受け入れの日程が決まったという自治体からの報告はないということで、専門家は中止の動きはさらに広がる可能性があると指摘しています。

ホストタウン制度とは

東京オリンピック・パラリンピックのホストタウンは海外から多くの選手や観客が来日すると見込んで、各地で事前合宿の受け入れや国際交流を行い地域活性化を図ろうと国が初めて設けた制度です。
ホストタウンに登録した自治体は交流事業の費用の半分を国が補助するかわりに、交流で得られた効果を東京大会の遺産=レガシーにするために大会後も含めて交流を継続することが求められています。

現在は全国の自治体のおよそ3割にあたる528の自治体が登録し、大会前の選手の事前合宿の受け入れや、選手と住民の交流を計画しています。

しかし、去年12月に国が示した感染対策の指針では自治体に一定の受け入れ責任が生じると明記され、大会前の交流はオンラインで行うなど選手と直接接触しないよう求めました。

また、変異したウイルスの流行を受けて先月、改定された指針では選手や選手と接触する可能性がある自治体側の関係者を原則として毎日検査することが新たに定められ、自治体は県などと連携して検査態勢を確保することが必要になりました。

さらに空港や選手村から遠いホストタウンへの移動には、自治体の責任で通常の公共交通機関ではなくチャーター機や貸し切りの新幹線などを手配することを求めています。

国は指針の中で「直接の交流ができない中でも、お互いを励まし合い、大会への機運を高めていく取り組みが重要だ」と説明していますが、自治体からは交流の制約が厳しく対策の負担も大きいと戸惑いの声もあがっていました。

中止の理由は

これまでに海外選手の事前合宿などの受け入れを中止した自治体の8割余りが、相手の国や地域からの申し出によるもので、このうちロシアの体操チームは、新潟県加茂市でことし7月に事前合宿を行う予定でしたが、移動や宿泊の際の感染を懸念して、ぎりぎりまで国内で調整し直接東京に入ると、先月、市に連絡しています。

また、世界的なトップ選手が所属するアメリカの陸上チームも千葉県の成田市、佐倉市、印西市で予定していた事前合宿を、選手の安全面への懸念から中止を決めています。

今月5日には、ベトナムが、長崎県内の長崎市と諫早市、大村市、それに東京・国分寺市と北海道釧路市で予定していた事前合宿について、「世界的な感染状況を重く見て、合宿は行わない」などとして、自治体側に取りやめを連絡しています。
一方、自治体の側から中止を申し出たケースとしては、福井県鯖江市が中国の体操チームを受け入れる予定でしたが、感染拡大が収束する見通しが立たないことから、「選手や関係者の安全確保に多くの課題がある」として受け入れは困難だと打診し、中国側も合意したということです。

また、栃木県高根沢町はアフリカのレソト王国の陸上やボクシングなどの事前合宿を受け入れる予定でしたが、練習場となる体育館をワクチンの集団接種の会場に使用することなり、練習場が確保できないとして、受け入れを中止する意向を伝えたということです。

このほか、埼玉県東松山市はキューバのテコンドーやレスリングチームが市内の大学の施設で練習などを予定していましたが、大学側から学生の支援を優先するため辞退したいと連絡があり、代替施設の調整がつかなかったため、今月12日に事前合宿の受け入れの中止を決めました。

受け入れ中止を決断した自治体

中米・ベリーズのホストタウン、千葉県横芝光町は、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中ワクチン接種との両立が難しい上選手の安全を確保できないなどとして事前合宿の受け入れ中止を決めました。

千葉県北東部にある横芝光町は、成田空港に近いことから子どもたちの国際教育につなげようと、3年前、中米・ベリーズのホストタウンの登録を受け、これまで町内の学校に現地の打楽器の楽団を招いて演奏会を開くなど交流を深めてきました。
大会期間中、陸上やカヌーの選手団10人程度を受け入れ宿泊場所や練習場を提供する予定でした。

しかし準備にあたってきた町役場の担当職員4人のうち1人は、ワクチン接種の準備の担当にもなりその業務にほぼかかりきりとなった上、今月下旬から高齢者への集団接種が始まれば、さらに人手をさかれて受け入れ準備との両立が難しくなる見通しとなりました。

また、国の指針に沿ってコロナの感染拡大を踏まえた受け入れ計画を作成する中で町内に唯一ある病院でもコロナの患者は受け入れていないため万が一、選手が感染したりけがをしたりした場合に安全を確保できるかや、専用車両の運転手など選手団に接触する関係者にどれほどの行動管理を求めればいいのかなど、次々に不安な点が明らかになっていきました。

そしてベリーズ側とも協議を重ねた上、先月28日、事前合宿と大会後の交流事業の中止を決断しました。

この決断について、佐藤晴彦町長は、「コロナ対策のハードルが非常に高く、直接選手村に入ってもらったほうが選手にとってもいいし、町にとってもそこにかけるエネルギーははかりしれない。ワクチン接種という一大事業を最優先で進めながら、事前合宿を受け入れるのは極めて困難だった」と話しています。
一方で、町は交流は途絶えさせたくないとしていて、17日も青年海外協力隊員としてベリーズで活動した経験がある町の職員が町内の高校に出向き、新入生を対象にベリーズについて学ぶ授業を行いました。

生徒は、「ベリーズのことを学び、身近に感じることができたのでオリンピックでは日本と同じくらいベリーズを応援したいです」と話していました。

町では、子どもたちから選手団に向けた応援動画を贈ることを計画しています。

専門家「選手の調整に大きな差が生じる」

スポーツ社会学が専門で東京女子体育大学の笹生心太准教授は、事前合宿の相次ぐ中止は国際交流という大会の意義が薄れるだけでなく、大会に向けた選手の調整に大きな差が生じるため競技の平等性でも問題があると指摘しています。

笹生准教授はNHKの調査結果について「相手が中止したいといってきたケースが多く、受け入れる日本側の医療体制がしっかりしないと事前合宿もオリンピックも十分な形で開けないと感じた」と指摘しました。

また、自治体側が中止を決めたケースを踏まえ、「自治体は地域の医療体制がひっ迫して手が回らない。万が一感染している人が事前合宿に関わり、相手に感染させてしまったら取り返しがつかないと懸念する自治体も多いのではないか」と分析しました。

そして世界のトップ選手が所属するアメリカの陸上チームが千葉県内で予定していた事前合宿の中止を決めたことなどで今後も中止の動きが広がる可能性があると指摘し、「事前合宿がすべて中止され海外の選手団が選手村に直行して自国に直帰するぐらいでないと大会は開催できないのではないか」という見方を示しました。

事前合宿の中止が大会に与える影響については「オリンピックの基本理念は国際交流を通じて世界平和に貢献することで、ホストタウンはいちばん、真ん中の事業だった。コロナ禍が起きたせいで直接の交流ができなくなったのは、かなりのマイナスだ」として大会の意義が薄れることへの懸念を示しました。

さらに競技に対しても「大会前の調整は選手にとって大きなインパクトがあり、それがダメになるなら不利が大きすぎる。日本に近く時差の少ない国が有利になることが起きうるので競技の平等性に問題が生じる。世界最高の競技を見せることができないと思われて、大会への期待感がさらにしぼむ事態も十分ありうる」と指摘しています。