WEB特集

行き場のない救急車をトリアージ 大阪 生と死 狭間の現場より

救急車を呼んでも、なかなか来てもらえない。

救急車に乗れたとしても、受け入れ先の病院が見つからない。

病院が見つかるまで丸2日近くかかってしまうことも。

大阪の医療体制はそこまで追い込まれる事態になりました。

「このままでは救える命も救えない」

大阪の病院は独自に、“行き場のない救急車”をトリアージするという異例の取り組みを始めました。

ギリギリの状況で命をつなごうとしている大阪の現状は、いま新型コロナに感染することの本当の怖さを、全国に訴えかけています。

(大阪拠点放送局 記者 清水大夢)

受け入れ先 6時間余り見つからない男性が…

4月24日午後6時半。

大阪 守口市の関西医科大学総合医療センターに患者が運ばれてきました。

堺市で自宅療養をしていた50代の男性です。

容体が急変し救急車を呼んだものの、受け入れ先が見つからず、6時間余りが経過していました。
運ばれてきた男性の意識はありますが、表情はうつろで、腕はだらんとしています。

医師は血液中の酸素の値が安定せずに、肺炎が進行している可能性があると判断。CT撮影を指示しました。
胸部のCTを撮影すると、肺には白いすりガラス状の影が映っています。

新型コロナの患者に特徴的な症状で、人工呼吸器が必要な重篤な状態です。

「重症病床がある病院へ入院が必要だ」

男性は大阪市内の別の病院へ、搬送されていきました。
関西医科大学総合医療センター 医師
「自宅療養とかホテル療養されている方は、どういう肺炎か分からない。中等症の病院がいいのか、重症の病院がいいのか状況か判断ができないので、CTを撮って患者を振り分けているんです」

苦肉の策 “救急車をトリアージ”

なぜ、この病院では、ほかの病院で治療を受ける患者の分まで検査し診断しているのか。

実はこれ、救急搬送を待つ患者の治療の緊急度を見極めようと、この病院が4月中旬から独自に始めた取り組みなのです。

“救急車トリアージ”と名付けました。
長時間受け入れ先の病院が見つからず、症状が悪化している患者が出た場合は、この病院が、その行き場を失った救急車をいったん受け入れます。

病院では患者のCT画像を撮影し、肺の状態を調べるなどして医師が重症度を見極めます。

その検査の結果、一刻を争う患者がいた場合、なんとか入院できる場所を探すことになります。

いずれかの医療機関の比較的容体が安定した患者を、別の医療機関に転院させるなどして、病床を確保することになります。

この病院でも、緊急性の高い重症患者を受け入れていますが、重症患者のすべてをこの病院に入院させることは不可能なため、ほかに受け入れてくれる医療機関を探す必要があり、その調整は大阪府が担っています。

「救える命も救えない」

病院が“救急車トリアージ”を始めた4月中旬。

大阪の医療体制は急速にひっ迫していきました。

大阪市消防局の4月第3週の新型コロナの救急搬送件数は491件と、3月第1週の21倍に。搬送まで丸2日近くかかるケースもありました。

病床がひっ迫し、医療をほとんど受けられない自宅で療養中や待機中の人も日に日に増えていきました。
「このままでは救える命も救えない」

救急搬送される患者の正確な病状を把握することができれば、限りある病床を効率的に活用できるのではないか。

先に入院し、少しでも容体が安定した患者を中等症の病院に移したり、最初から中等症や軽症の病院に搬送したりすることができるのではないか。

病院は大阪府に協力を申し出て、「救急車トリアージ」を請け負うことにしたのです。
関西医科大学総合医療センター 中森靖 副病院長
「本来、病気は評価をしてそれから入院するものだが、それがコロナに関してはできていない。PCR検査をしたきりで、あとはレントゲンもCTもしていない人がいっぱいいる。急に具合が悪くなった時も、どういう状況なのか分からないから、受け入れる病院側も困ってしまうが、CT検査をすることで受け入れやすくなると思う」

深夜も救急車が次々と

私たちは4月24日から25日にかけて「救急車トリアージ」の現場に密着。

夜中も次々と救急車が駆けつけてきました。

4月25日午前0時頃。運ばれてきたのは60代の男性でした。

すでに重篤な状態で、そのままこの病院に入院します。

人工呼吸器での管理が必要な状況でした。
午前1時半すぎには、2台の救急車が同時に到着します。

堺市の救急車で運ばれてきたのは、70代の男性です。

救急車には歩いて乗ったそうですが、肺のCT画像を撮ると、真っ白。
すぐに入院が必要だと、この病院へ入院します。

一方、大阪市の救急車で運ばれてきたのは、80代の女性です。

救急車を呼んでから、この病院に運ばれるまでに5時間が経過していました。

救急隊が到着したときの血中の酸素の値は75%。

正常値は96%以上とされ、厚生労働省の「診察の手引き」では93%以下では酸素吸入が必要としています。
搬送できない間、救急隊は酸素を5リットル投与するなどしていましたが、病院で肺のCTを撮るとやはり真っ白。重症です。

中森医師は、不安を取り除くようにやさしい表情で女性に声をかけます。
「おばあちゃん、大変なことになったよ。家族の連絡先を教えてもらえる?」
女性はCTの検査台にあおむけに横になったまま、震える手で携帯電話を操作。

かぼそい声で中森医師に家族の連絡先を伝えました。

女性はそのまま、入院しました。
関西医科大学総合医療センター 中森靖 副病院長
「コロナの特徴は、本人が意外とケロッとしていても、検査するとようやく血液中の酸素が維持できているような状況だったりするんです。急に重症化するのがコロナの怖さです」

「われわれが限界と言ったら、大阪は医療崩壊」

私たちが取材で立ち会った8時間の間に、救急車トリアージでこの病院に運ばれてきたのは5人。このうち4人が重症と判断されました。

検査を受けると重症と診断され、すぐに入院が必要な患者でも、長時間、救急車で待機しているのが大阪の医療状況です。

症状をうったえるだけでは、病院に搬送されない状況に改めて怖さを感じるとともに、検査して正確な症状を知る大切さも感じました。

午前1時半過ぎに搬送されてきた男性と女性はいずれも、入院して1週間以上治療を受けましたが、その後亡くなったそうです。

ようやく入院できたとしても助からない命もあるということも、コロナの怖さだと感じます。
関西医科大学総合医療センター 中森靖 副病院長
「正直、医療現場は自分たちのキャパシティーを明らかに超えた状況で本当に戸惑っている。限界だと思う。でも、われわれが限界と言ったらそこで医療崩壊ですので、限界と思わずにやりたいと思います」

大阪の事態はどこでも起こり得る

10年前、東日本大震災が起きた時、中森医師はDMATの隊員として、東北に応援にいきました。

しかし、今回の新型コロナの感染拡大では、いくら大阪の医療が危機的な状況になっていても「全国各地で災害が起きている状況で、応援を呼びにくい」と言います。

5月に入り、大阪府内の新型コロナの死者は、1日の発表が50人を超える日も相次ぎました。

自宅で療養中や待機中の人は、5月17日時点で大阪府内に1万3218人います。

その第4波の波は、いま各地に広がっています。

北海道や広島、岡山にも緊急事態宣言が出され、大阪で起きている事態はどこでも起こりうる状態です。

「救急車トリアージ」の最前線に立ってきた中森医師は、変異ウイルスが猛威をふるっている第4波では、これまでの新型コロナ対策が通用しないという認識を持って備えてほしいと訴えています。
関西医科大学総合医療センター 中森靖 副病院長
「変異株の感染力は驚異的で、1人が感染すれば家族全員が陽性というケースが多い。さらに若い人でも亡くなる可能性も大きくなっているという実感がある。大阪も決して無策でやっていたわけではなくて、ほんの少し日常を取り戻しただけで、1か月でこうなったわけです。これは大阪だけの問題ではない。状況は一線を越えているという認識を持って、大阪のことをわが事としてとらえ、一人一人が人流を抑制するための行動をしてほしい。それしかないんです」
大阪拠点放送局 記者
清水 大夢
2019年入局
大阪府警担当を経て、今は大阪市政を取材。
新型コロナの医療の現場を継続取材中。

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